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「人民元切り下げ」の正しい評価

2015年9月6日より毎週日曜日、有料メルマガサービス「フーミー」にて、「島倉原の経済分析室」のタイトルでメルマガを発行することになりました。
別途寄稿している無料メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』よりもさらに踏み込んで現実の経済を分析することで、経済や金融市場の動向、そして社会の真相を解き明かしていこうと思っています。
月500円(税別)の購読料が発生しますが、読者からの質問、あるいは取り上げてほしいテーマなども随時募集し、メルマガを通じて適宜回答する予定なので、マスメディアや雑誌では得られない一味違った情報源として、ぜひ有効にご活用ください。
http://foomii.com/00092

以下では、上記サイトに9月1日に公表されたサンプル記事『「人民元切り下げ」の正しい評価』を掲載しています。
これは、中国の通貨人民元の対ドルレートが8月11日以降3日連続で切り下げられたことに対し、「自由化・国際化に逆行する動き」とする日本のマスコミ報道に事実誤認があることを指摘したものです。
なお本稿では、サンプル記事公表直後に中国人民銀行が新たな規制を導入したことを受けた追記も行っています。


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「人民元切り下げ」の正しい評価

2015年8月11日、中国の中央銀行である中国人民銀行が、自国通貨である人民元の対ドル基準値の算出方法を変更すると発表した。
それ以降の3日間で人民元の対ドルレートは約3%切り下げられた。
その後金融市場は不安定化し、世界的な株安が発生、日経平均株価も直近のピークから一時15%近く下落した。

こうした状況のもと、中国人民銀行の政策変更に対して、「輸出拡大を狙った自国通貨安誘導で、各国の通貨安競争を誘発しかねない、経済大国として問題の大きい措置である」「中国自身が目指す人民元の国際化、金融・資本市場の自由化にも逆行する」という批判的な議論が一般的のようである。
http://www.sankei.com/world/news/150813/wor1508130008-n1.html
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM11H2B_R10C15A8EAF000/

これに対して、「今回の切り下げは人民元安を誘導したものではなく、むしろ人民元の国際化に向けて前進したと言えるのではないか」という正反対の議論も存在する。
http://diamond.jp/articles/-/77221
http://jp.reuters.com/article/2015/08/25/column-forexforum-ryutarokono-idJPKCN0QU05Y20150825?sp=true

果たしていずれの見方が適切なのだろうか。

筆者は、先進国=新興国間の資金の流れに20年弱の周期が存在することに着目し、18年前のアジア通貨危機に匹敵する新興国危機が新たに発生する可能性について、昨年から警鐘を鳴らしてきた。
その一環として、中国の実体経済の弱さはいずれ株高や人民元高を維持できなくなるレベルのものであることも、上海株式市場が今年のピークをつけた6月に発信した。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-66.html
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/06/04/shimakura-25/
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-97.html

実際、中国の経済活動の全体的な動向を示す鉱工業生産は、人民元の実質実効レートと、きわめて明確な逆相関の関係にある。
直近では、鉱工業生産の伸び率が近年にない低さを示す一方で、人民元の実質実効レートはBIS(国際決済銀行)の統計開始来の高水準に達している。

(参考図)中国鉱工業生産と人民元実質実効レートの推移
http://on.fb.me/1Cqwx37

現実の経済とは、主流派経済学が想定する均衡状態とはおよそかけ離れたものである。
金融市場におけるバブル発生とその崩壊に見られるように、行き過ぎた不均衡状態への到達とそこからの揺り戻しを周期的に繰り返している。
直近はいわば不均衡の極みに至った状態で、いずれ維持できなくなることは必然であったと言えるだろう。

確かに、今回の人民元切り下げが世界の金融市場に与えたインパクトは大きい。
前回のアジア通貨危機の際には、アジアをはじめとした新興国の通貨が暴落する中で、人民元は切り下げられることなく、対ドルレートはほぼ横ばいで推移した。
したがって今回の人民元切り下げが、「中国経済の実態はそれほど悪いのか」という印象を世界の市場関係者に植えつけたのは、まぎれもない事実である。
しかも、中国はいまや世界第2位の経済大国なのだから、そのインパクトもまた18年前より大きいだろう。

しかしながら、「切り下げ=為替操作」という批判は、少なくとも今回はあたらない。
そのことは、中国の外貨準備高が昨年7月以降減少傾向にあることから明らかである。

中国のような経常収支黒字国では自国通貨高圧力がはたらくため、これを抑制しようとすれば「外貨買い・自国通貨売り」という介入措置が必要になり、結果として外貨準備高が積み上がるのが通常である。
実際、この20年近くの中国はこうした措置を継続した結果世界最大の外貨準備保有国となり、「人民元を不当に安くしている」という批判をしばしば浴びてきた。

ところが、直近では先進国=新興国間の資金循環を背景とした資本流出のインパクトの方が大きく、市場ではむしろ人民元安圧力がはたらいていた。
すなわち中国当局は、為替レートを維持するために外貨準備売り・人民元買いという「元高介入」を実施せざるをえない状況に追い込まれており、その結果が昨年7月以降の外貨準備高減少なのである(18年前のアジア通貨危機当時には、それまでの外貨準備高の増加傾向が横ばいないしは微増に減速する程度で踏みとどまることができた)。

今回の切り下げは、むしろこうした介入圧力を弱めた措置である。
「国際化や自由化の流れに逆行している」という評価の多くは、恐らくは過去20年近くの推移にとらわれて状況の変化を見過ごしたか、あるいは「切り下げ」という言葉の持つ人為的なイメージにとらわれているのかもしれないが、およそ実態を正確にとらえているとは言いがたい。
もっとも、今回の措置が「国際化や自由化に向けて前進した」とまで言えるかどうかは、(冒頭で紹介した論者の1人であるBNPパリバ証券のエコノミスト、河野龍太郎氏も述べているように)市場実勢が将来人民元高方向に逆転した際の、中国通貨当局の姿勢によって試されることになるだろう。

以上より、冒頭で述べた議論の対立に関しては、後者、すなわち今回の切り下げは人民元の国際化に矛盾しないとする立場の方が紛れもなく適切である。
だからこそ、人民元の国際化にお墨付きを与える立場にあるIMFも同じく8月11日、自由化に向けた一環として、今回の人民元切り下げを歓迎する声明を発表したのである。
http://jp.reuters.com/article/2015/08/13/china-markets-yuan-imf-idJPL3N10O07A20150813

(追記)
上記がメルマガサイトにサンプル記事として掲載されたのは2015年9月1日。
中国人民銀行は同日中に、将来人民元を売る約束をする為替予約取引の負担を高める規制を導入した。
急激な元安を抑え込むのが狙いと見られる。

案の定というべきか、日本経済新聞は、「取引自由化に逆行」する規制であると報道した。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM01H7H_R00C15A9MM8000/
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM01H8C_R00C15A9MM8000/

しかしながら、これは「(元安が進むにしても急激な動きは望ましくないため)徐々に取引を自由化する」という、上記の報道自体でも述べられている中国当局のスタンスの一環であると考えられる。
IMFや欧米当局者からはむしろ前向きな評価がなされていることが、下記のロイターの報道からもうかがえる。
すなわち、「中国の政策への信頼をいっそう傷つけかねない」という日本経済新聞の指摘は、相も変わらず的外れといわざるをえない。
http://jp.reuters.com/article/2015/09/03/yuan-imf-sdr-idJPKCN0R322R20150903
http://jp.reuters.com/article/2015/09/04/g20-imf-china-schaeuble-idJPKCN0R41BP20150904

※9月6日、メルマガ創刊号として本稿の続編にもあたる「人民元切り下げ後の世界経済」を配信しました。是非ご購読下さい。
http://foomii.com/00092/2015090605391928537

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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