大阪経済をめぐる詐欺的論考?(by 高橋洋一氏)
大阪府知事・市長のダブル選挙が次の日曜日に控える中、現代ビジネスに『大阪ダブル選目前! 結局「橋下以前」と「橋下以後」、大阪の経済はどう変わったの? データで読み解く橋下府政、本当の「実績」』と題する高橋洋一氏(経済学者、嘉悦大学教授)の論稿が掲載されています。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46380
この論稿、様々な経済統計を駆使して「橋下徹氏が府知事に就任して以降、大阪経済のパフォーマンスは改善している」と述べているのですが、少なくともGDP統計や失業率に関する部分は、改善を示しているわけではないデータを、さもその根拠であるかのように加工していることが確認できます(その他の部分も未検証なだけで、問題がある可能性が無い訳ではありません)。
意図的かどうかはわかりませんが、はっきり言えば事実の歪曲に等しいものです。
橋下徹氏や「おおさか維新の会」関係者の言動、あるいは彼らが掲げる「大阪都構想」が「詐欺」であるとは、藤井聡・京都大学大学院教授が折に触れて指摘しているところですが、「大阪都構想」支持者である高橋氏の今回の論稿もその一環なのではないか、と思わず勘繰りたくもなってしまいます。
以下では、高橋氏の論稿の問題点について解説しています。

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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46380
この論稿、様々な経済統計を駆使して「橋下徹氏が府知事に就任して以降、大阪経済のパフォーマンスは改善している」と述べているのですが、少なくともGDP統計や失業率に関する部分は、改善を示しているわけではないデータを、さもその根拠であるかのように加工していることが確認できます(その他の部分も未検証なだけで、問題がある可能性が無い訳ではありません)。
意図的かどうかはわかりませんが、はっきり言えば事実の歪曲に等しいものです。
橋下徹氏や「おおさか維新の会」関係者の言動、あるいは彼らが掲げる「大阪都構想」が「詐欺」であるとは、藤井聡・京都大学大学院教授が折に触れて指摘しているところですが、「大阪都構想」支持者である高橋氏の今回の論稿もその一環なのではないか、と思わず勘繰りたくもなってしまいます。
以下では、高橋氏の論稿の問題点について解説しています。

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「橋下府政以降にGDPシェアのトレンドが改善している」とは言えない
高橋氏は下記リンク先のとおり、大阪府GDPの全国シェアの推移をグラフ化し、「橋下以後に(GDP全国シェアの)長期低落に歯止めがかかりだした」と述べ、経済パフォーマンス改善の論拠としています。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46380?page=2
このグラフを見るだけでは、GDPが名目なのか実質なのか、あるいは(ややマニアックな話ですが)分母となる「全国GDP」が「国民経済計算で発表される(一般的な)GDP」なのか「県民経済計算で発表される47都道府県GDPの合計値」なのか、必ずしも明らかではありません。
筆者なりに様々なパターンで再現してみたところ、本グラフは名目GDPに関するもので、かつ分母には「県民経済計算で発表される47都道府県GDPの合計値」が用いられている、という結論に達しました。
そのこと自体は何ら問題ないのですが、実は高橋氏のグラフは、
「必要な調整を行わずに作成方法の異なるGDP統計を連結することで、橋下府政より前のシェア低下を実態以上に急激に見せている(その分橋下府政以降のパフォーマンスを実態以上に良く見せている)」
というシロモノなのです。
下記図表1を、高橋氏作成のグラフとよく見比べてみてください。
【図表1:大阪府名目GDPの全国シェア(対・全都道府県GDP単純合計)】
https://twitter.com/sima9ra/status/666629481407213568
http://on.fb.me/1LjKhzM
GDP統計作成に当たって経済活動の定義や測定方法の変更が適宜見直される結果として、作成基準や対象期間が異なるGDP統計が複数存在しています(例えば、下記リンク先参照)。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/files_kenmin.html
そうした対象期間が異なるGDP統計をまたがってトレンドを分析する際には、「リンク係数」を掛け合わせるなどして、古い方のデータを補正して用いるのが通常です(そうしないとデータの連続性が失われ、歪んだ結果が出てしまいます)。
ところが、高橋氏のグラフは、そうした必要な補正が行われないまま作成されているのです。
最新の「2005年基準」(図表1の黄緑色のグラフ)を素直に見る限り、現在のトレンドは2003年あたりからの延長にあり、橋下府政以降に有意な変化は確認できません(ちょうど橋下府政開始を境にした、前後各5年の比較に相当します)。
分母を「一般的な名目GDP」に置き換えたり(図表2の黄緑色のグラフ)、実質GDPベース(図表3の黄緑色および黄色のグラフ)でシェアの推移を見ても同様です。
実質ベースでは下手をすれば、「2005年以降シェア低下に歯止めがかかっていたのに、橋下府政以降また低下トレンドに陥っている」と見えなくもないくらいです。
いずれにせよ、こうしたデータをもって「橋下府政以後、大阪経済のパフォーマンスは改善している」と論じるのは相当な無理筋です。
【図表2:大阪府名目GDPの全国シェア(対・国民経済計算上の一般的なGDP)】
http://on.fb.me/1SVGLlt
【図表3:大阪府実質GDP(連鎖方式)の全国シェア】
http://on.fb.me/1lsJ3gT
ちなみに、私自身も以前、大阪経済の再生には(緊縮財政路線の「大阪都構想」ではなく)積極財政が重要であることを論じるため、より長い期間を対象とした似たようなグラフを作成したことがあります(図表4)。
この時も当然、異なる作成基準の複数のGDP統計を用いています。
したがって言うまでもなく、リンク係数を使って古いデータを補正し、シェアの「変化」がより正確に反映されるように努めているのです。
【図表4:大阪府の名目GDP及び名目公的支出推移(対全国比率、1975~2012年)】
http://on.fb.me/19mrBEP
「失業率改善」は「雇用環境改善」とイコールではない
高橋氏は論稿の3ページ目で、大阪府失業率の全国比が橋下府政以降低下していることを示すグラフを掲載し、あたかも橋下府政以降大阪の雇用環境が改善しているかのような印象を与えています。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46380?page=3
しかしながら、失業率は「失業者が就職すること(就業者数の増加)による失業者数の減少」のみならず、「失業者が就職を完全にあきらめることによる失業者数の減少(失業者から非労働力人口へのシフト)」によっても低下するため、一概に雇用環境の改善を示す指標とは言えません。
後者による失業率の低下はむしろ、雇用環境の悪化を示しているとすら言えるのです。
(余談ですが、後者による非労働力人口の増加は、1970年代以降のアメリカ、1990年代後半以降の日本における長期的な傾向でもあります)。
実際、下記図表5のとおり、橋下府政以降の大阪府は、就業者数の全国比がそれ以前とほとんど変わっていない一方で、非労働力人口の全国比は上昇しています(図表5及び6の2015年のデータは、第1・第2四半期の平均値です)。
非労働力人口は雇用環境のみならず、男女比・高齢者比率・進学率などの影響も受けるため、このデータだけで「橋下府政以降、雇用環境は全国と比べて相対的に悪化している」とまでは断定できませんが、その可能性は否定できません。
少なくともこの結果をもって、高橋氏のように雇用環境が改善しているかのような議論を持ち出すのは相当な無理があります。
【図表5:大阪府・雇用関連指標の全国比】
http://on.fb.me/1LjL8Az
https://twitter.com/sima9ra/status/667865893985062912
なお、同じような比較を東京都に対して行ったところ、こちらについては、橋下府政以前と同様、就業者数比率の低下トレンドが続いています(図表6)。
こちらも「大阪府失業率の東京都失業率に対する比率」はそれ以前と比べて大きく低下していますが、これが雇用環境の相対的な改善によるものではないことは明らかでしょう。
就業者数比率の低下が長期的なトレンドであることからすれば、そのこと自体を橋下府政の責任とまでは言えないかもしれませんが、少なくとも「現在の大阪府の雇用環境のパフォーマンスは(失業率の相対的な改善にもかかわらず)東京都よりも劣っている」とは言えるでしょう。
「詐欺」かどうかは断定できないにしても、高橋氏の議論に相当な無理があることは、こうした事実からも確認できるのです。
【図表6:大阪府・雇用関連指標の東京都比】
http://on.fb.me/1MSXmkx
https://twitter.com/sima9ra/status/667865893985062912
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http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46380?page=2
このグラフを見るだけでは、GDPが名目なのか実質なのか、あるいは(ややマニアックな話ですが)分母となる「全国GDP」が「国民経済計算で発表される(一般的な)GDP」なのか「県民経済計算で発表される47都道府県GDPの合計値」なのか、必ずしも明らかではありません。
筆者なりに様々なパターンで再現してみたところ、本グラフは名目GDPに関するもので、かつ分母には「県民経済計算で発表される47都道府県GDPの合計値」が用いられている、という結論に達しました。
そのこと自体は何ら問題ないのですが、実は高橋氏のグラフは、
「必要な調整を行わずに作成方法の異なるGDP統計を連結することで、橋下府政より前のシェア低下を実態以上に急激に見せている(その分橋下府政以降のパフォーマンスを実態以上に良く見せている)」
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下記図表1を、高橋氏作成のグラフとよく見比べてみてください。
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そうした対象期間が異なるGDP統計をまたがってトレンドを分析する際には、「リンク係数」を掛け合わせるなどして、古い方のデータを補正して用いるのが通常です(そうしないとデータの連続性が失われ、歪んだ結果が出てしまいます)。
ところが、高橋氏のグラフは、そうした必要な補正が行われないまま作成されているのです。
最新の「2005年基準」(図表1の黄緑色のグラフ)を素直に見る限り、現在のトレンドは2003年あたりからの延長にあり、橋下府政以降に有意な変化は確認できません(ちょうど橋下府政開始を境にした、前後各5年の比較に相当します)。
分母を「一般的な名目GDP」に置き換えたり(図表2の黄緑色のグラフ)、実質GDPベース(図表3の黄緑色および黄色のグラフ)でシェアの推移を見ても同様です。
実質ベースでは下手をすれば、「2005年以降シェア低下に歯止めがかかっていたのに、橋下府政以降また低下トレンドに陥っている」と見えなくもないくらいです。
いずれにせよ、こうしたデータをもって「橋下府政以後、大阪経済のパフォーマンスは改善している」と論じるのは相当な無理筋です。
【図表2:大阪府名目GDPの全国シェア(対・国民経済計算上の一般的なGDP)】
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この時も当然、異なる作成基準の複数のGDP統計を用いています。
したがって言うまでもなく、リンク係数を使って古いデータを補正し、シェアの「変化」がより正確に反映されるように努めているのです。
【図表4:大阪府の名目GDP及び名目公的支出推移(対全国比率、1975~2012年)】
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「失業率改善」は「雇用環境改善」とイコールではない
高橋氏は論稿の3ページ目で、大阪府失業率の全国比が橋下府政以降低下していることを示すグラフを掲載し、あたかも橋下府政以降大阪の雇用環境が改善しているかのような印象を与えています。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/46380?page=3
しかしながら、失業率は「失業者が就職すること(就業者数の増加)による失業者数の減少」のみならず、「失業者が就職を完全にあきらめることによる失業者数の減少(失業者から非労働力人口へのシフト)」によっても低下するため、一概に雇用環境の改善を示す指標とは言えません。
後者による失業率の低下はむしろ、雇用環境の悪化を示しているとすら言えるのです。
(余談ですが、後者による非労働力人口の増加は、1970年代以降のアメリカ、1990年代後半以降の日本における長期的な傾向でもあります)。
実際、下記図表5のとおり、橋下府政以降の大阪府は、就業者数の全国比がそれ以前とほとんど変わっていない一方で、非労働力人口の全国比は上昇しています(図表5及び6の2015年のデータは、第1・第2四半期の平均値です)。
非労働力人口は雇用環境のみならず、男女比・高齢者比率・進学率などの影響も受けるため、このデータだけで「橋下府政以降、雇用環境は全国と比べて相対的に悪化している」とまでは断定できませんが、その可能性は否定できません。
少なくともこの結果をもって、高橋氏のように雇用環境が改善しているかのような議論を持ち出すのは相当な無理があります。
【図表5:大阪府・雇用関連指標の全国比】
http://on.fb.me/1LjL8Az
https://twitter.com/sima9ra/status/667865893985062912
なお、同じような比較を東京都に対して行ったところ、こちらについては、橋下府政以前と同様、就業者数比率の低下トレンドが続いています(図表6)。
こちらも「大阪府失業率の東京都失業率に対する比率」はそれ以前と比べて大きく低下していますが、これが雇用環境の相対的な改善によるものではないことは明らかでしょう。
就業者数比率の低下が長期的なトレンドであることからすれば、そのこと自体を橋下府政の責任とまでは言えないかもしれませんが、少なくとも「現在の大阪府の雇用環境のパフォーマンスは(失業率の相対的な改善にもかかわらず)東京都よりも劣っている」とは言えるでしょう。
「詐欺」かどうかは断定できないにしても、高橋氏の議論に相当な無理があることは、こうした事実からも確認できるのです。
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