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「貿易依存度」から見た世界史

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は『「貿易依存度」から見た世界史』というタイトルで、全体で約40分のプレゼンテーションです。

・動画前半『「貿易依存度」から見た世界史①
・動画後半『「貿易依存度」から見た世界史②

前回の『「貿易依存度」から考える経済政策とTPP』では、貿易依存度(=貿易額÷GDP)という指標を手がかりとして、経済のグローバル化と共に世界全体で進行し、グローバル化賛成派・推進派からも「善」とされることが多い「貿易依存度の上昇」という現象が、実は「国内の経済活動よりも国際的な経済活動が活発である」という国民全体にとってはむしろ不幸な状態を示すものに過ぎないこと、その典型が「失われた20年」の渦中にある現在の日本であることを示した上で、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)推進に代表される、政府のグローバル化推進路線に異議を呈しました。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-118.html

今回は、「(産業革命以降の)第1次グローバル化時代」とも呼ばれる19世紀後半から第1次世界大戦前の時期も対象に含めて主要国の貿易依存度を検証し、そこからある種の「歴史の教訓」を導き出そう、という内容です。

↓今回のプレゼンテーション資料です。
「貿易依存度」から見た世界史.pdf

以下はプレゼンテーションの概要です。


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19世紀後半は「第1次グローバル化時代」

現代は「グローバル化の時代」と言われますが、19世紀後半から第1次世界大戦が勃発した1914年ごろの間にも、似たような時代があり、「(産業革命以降の)第1次グローバル化時代」と呼ばれています。
プレゼン資料の2ページ目に示したように、当時も現代同様、国際的な資本移動が活発で、それに伴って(移民や貿易も含めた)人やモノの移動が活発に行われていました。
なお、当該グラフは、アメリカの経済学者カルメン・ラインハートとケネス・ロゴフ共著の2008年の論文 “This Time is Different: a Panoramic View of Eight Centuries of Financial Crises” の8ページ(下記PDFファイルの10枚目)に掲載されているグラフを加工しています(紛らわしいですが、政府債務比率の分析の誤りが一時期話題になった、同じ著者たちの手になる同名の単行本とは一応別物です)。
http://www.nber.org/papers/w13882.pdf


貿易依存度が示す世界史のダイナミズム

では、そうした時代も含め、各国の貿易依存度はどのように推移してきたのでしょうか。
代表例として、日本・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランスのそれを、1820年以降可能な限り追いかけたのが下記図表1です。
なお、ここでの貿易依存度は一般的な「(輸出額+輸入額)÷GDP」で算出しています(『「貿易依存度」から考える経済政策とTPP』では、それを2で割った数値を議論の便宜上「貿易依存度」と定義しました)。また、データ入手の制約から、分子は財の輸出入に限定(すなわち、サービスの貿易は除外)しています(出所は多岐にわたるので割愛しています)。

【図表1:日・米・英・独・仏の貿易依存度(財貿易のみ)の長期推移(1820~2014年)】
http://on.fb.me/1PM6WN1
https://twitter.com/sima9ra/status/669174796727377921

第1次グローバル化時代の事実上の覇権国・基軸通貨国といえば、当時世界最大の工業輸出国でもあったイギリスです。
当時のイギリスの貿易依存度を見ると、第1次世界大戦の頃までほぼ右肩上がりで、1920年代~1940年代(すなわち、第2次世界大戦までの「戦間期」と呼ばれる時代)は右肩下がりです。これは、ドイツやフランスの貿易依存度も同様です。
また、世界経済の黄金期ともいわれる1950年代から1960年代にかけても、これら3カ国の貿易依存度は横ばいないし右肩下がりとなっています。

前回、1960年以降の世界全体の貿易依存度をお示ししましたが(図表2)、グローバル化が本格化する前の1960年代のトレンドは概ね平坦でした。
以上の事実を踏まえると、1950年代以前の世界全体のデータこそ確認できていないものの、世界全体の貿易依存度は長期一貫して上昇してきたわけではなく、グローバル化の進展と共に上昇し、その終焉と共に低下もしくは横ばいで推移する、という歴史をたどってきたと考えられます。

【図表2:世界全体の貿易依存度の推移(1960~2013年)】
http://on.fb.me/1Oe6XrE
https://twitter.com/sima9ra/status/669175257400381441

他方で、そうした時代の流れとは無関係に、1940年代まで長期的に貿易依存度を低下させてきたのがアメリカです(図表1)。
前回も論じたように、「貿易依存度が低下している国は、(国内経済活動の発展によって)経済成長率が高まる傾向がある」というのは、ある意味理論的な法則です。
その法則どおりにアメリカはヨーロッパ主要国を上回る経済成長を続け、最終的には第一次世界大戦を境として、イギリスからアメリカへと覇権国の交代が起こったのが歴史的事実です(米墨戦争、ハワイ併合、フィリピン植民地化など、その間のアメリカに帝国主義的な動きが全くなかったというわけではもちろんありませんが、「モンロー主義」にも代表されるように、ヨーロッパ諸国ほどグローバル化志向が強くなかったことは確かでしょう)。
逆に、世界のGDPに占めるアメリカのシェアがピークだったのは第二次世界大戦直後で、その後は資本主義陣営の覇権国として国際情勢への関与を強める中で、貿易依存度の上昇と共にGDPのシェアは低下トレンドをたどっています(後述するアンガス・マディソン氏Webサイトのデータより)。

この「貿易依存度が低下するほど経済成長率が高まる傾向がある」というのは、一国のみならず世界経済全体にも当てはまる法則のようです。
そのことを示唆するデータを、二千年以上さかのぼって世界の経済成長を研究していたアンガズ・マディソン氏のWebサイトで入手することができます。
http://www.ggdc.net/maddison/oriindex.htm

第1次グローバル化時代のおおよその起点であり、データの連続性が保たれている1870年以降(世界全体は1950年以降)で比較すると、非グローバル化時代の実質経済成長率の方が、前後のグローバル化時代よりも高くなっています(図表3)。
しかも、非グローバル化時代には、2つの世界大戦や世界恐慌といった、経済成長の大幅な低下を伴う出来事が発生しており、そうした負の影響があってもなお、グローバル化時代よりも高い経済成長率を達成しているのです(図表4)。
なお、図表3および4における「一部主要国」とは、データの連続性が1870年以降保たれている日本を含む17カ国の合計で、対象期間の世界GDPの4割~6割を占めています。また、図表4は対数換算して値をグラフ化しているので、グラフの傾きの大きさが実質経済成長率の大きさに対応しています。

【図表3:世界および一部主要国の期間別実質経済成長率(年率換算)】
http://on.fb.me/1lHnmK0
https://twitter.com/sima9ra/status/669175690655207424

【図表4:世界および一部主要国の実質GDP(常用対数値)の推移(1870~2008年)】
http://on.fb.me/1HkjFDM
https://twitter.com/sima9ra/status/669177047688744961

こうした議論に対して、「非グローバル化時代は高成長でも大惨事を伴う、不幸な時代ではないか」と思われる向きもあるかもしれませんが、それは明らかな誤解です。
帝国主義の推進による国際的な緊張関係の高まりが行き着いた先である第一次世界大戦は言うまでもなく、敗戦国ドイツへの法外な賠償金の賦課など、第一次世界大戦の戦後処理を帝国主義の発想で行ったことを背景に生じた第二次世界大戦もまた、帝国主義という名のグローバリズムがもたらした出来事、すなわちグローバル化時代の産物と言うべきです。
むしろ、現在の過度なグローバル化に歯止めをかけることが、より豊かで平和な国際社会の実現につながる、というのが歴史の教訓と言うべきでしょう。

こうした構図は、「各国あるいは個々の経済主体が国外に経済成長の機会を求めてグローバル化を推進すれば、経済的な利害が衝突して国際的な摩擦が生じる機会が増える」と考えれば理解できます。
例えば、財政政策主導・内需主導のマクロ経済政策を唱えて1950~60年代の世界的な高度成長時代の思想的背景となったイギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、その著書『一般理論』の最終第24章第4節において、各国が自国の雇用を維持するために海外市場の開拓を求めるのではなく、国内向け政策すなわち内需拡大によって自国の完全雇用を達成する経済政策を行なうことによって、国際貿易は相互補完的なものになり、市場獲得競争に起因する戦争を避けることができると論じています。
これに対して、一部でありがちな「自由貿易の拡大が平和につながる」という議論は、そうした視点が抜け落ちているのではないでしょうか。
http://amzn.to/1bSpeq8



戦前の日本は「遅れてきたグローバリズム国家」?

以上の考察を踏まえた上で改めて図表1を見ると、「第1次グローバル化時代終焉後も、日本の貿易依存度が1940年頃まで上昇している(ピークは日中戦争勃発前年の1936年)」という事実が目を引きます。

実は、戦前の日本は戦後と異なり、自由主義経済志向が強く、格差も大きな社会でした(株式市場などは、当時のアメリカよりも投機的だったくらいです)。例えば、『円の支配者』(リチャード・ヴェルナー著/吉田利子訳、草思社、2001年)という書籍の第2章(38ページ)では、1920年代の日本はまるで現代のアメリカのように強力な株主資本主義社会で、従業員の転職率も高く、所得と富の格差が巨大であったと述べられています。
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そうした自由主義経済志向の行き過ぎを見直そうという動きがあり、そのことが戦時経済体制を経て戦後日本の経済システムに強い影響を与えてきたのも一方の事実です。
他方で、「満蒙は日本の生命線」という当時の言葉にもあるように、満州事変に代表される当時の日本の対外進出行動が、外需によって第一次世界大戦終了後の長期不況を解消しようとした(すなわちケインズの議論とは真逆の)、帝国主義という名のグローバリズム的発想の延長にあることもまた事実です。
積極財政政策によって長期不況からの脱却をもたらした当時の高橋財政からして、直前に勃発した満州事変に引きずられて軍事費の拡大が大きなウェイトを占めており、それに歯止めをかけようとした高橋是清が二・二六事件で暗殺されてしまったことも、そうした現実を象徴しています。
したがって、満州事変から日中戦争、第二次世界大戦に至る当時の日本の軍事行動を「自衛のため」「アジアの解放の大義のため」というのは所詮内輪の論理であって、国際社会、特に中国をはじめとしたアジア諸国には通用しないと言わざるを得ないでしょう。
また、貿易依存度の推移が示すように、当時のアメリカが必ずしもグローバル化志向の強い国ではなかったことからすれば、対米戦争は十分回避可能であったし、むしろ日本側のグローバリズム的発想が衝突を招いた側面が多分にある、というのが客観的な事実であり、また歴史の教訓ではないでしょうか。

日本の貿易依存度は、緊縮財政によって名目ゼロ成長、長期デフレ不況に陥った1990年代後半以降上昇を続けています。
また、デフレ脱却を掲げた現在の安倍政権も、「積極財政による国内経済の発展」というビジョンを持たないまま、TPP推進に象徴される外需依存経済成長、すなわちグローバリズムを志向しています。
先頃の「安保法案は戦争法案」という議論に与するものではありませんが、経済の観点から歴史を捉えれば実はそうした懸念はあながち的外れではない、というのが今回の分析からの帰結です。
誤った政策による経済停滞の長期化が国内の不満を高め、それが一部の反韓・反中といった言動に代表される、国際関係の緊張につながる動きの背景となっていることなどを踏まえるとなおさらです。
やはり、ケインズが唱えたように、まずは積極財政によって国内経済の発展を取り戻し、それを基盤として平和的な国際関係の構築を志向すべきではないでしょうか。


※メルマガ「島倉原の経済分析室」の2015年11月22日号『現在はどのような歴史的局面にあるのか』では、本稿のテーマを景気循環論の観点からも分析し、今後の世界経済や国際情勢について展望しています。こちらも是非ご参照ください。
http://foomii.com/00092/2015112200245129921


※日本経済の再生に積極財政が重要であることを示すグラフです。フェイスブックやツイッターのアカウントをお持ちの方は、拡散にご協力いただければ幸いです。
【日本のマクロ経済指標の推移(1980~2014年)】
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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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