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グローバリズムの非合理性

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は『グローバリズムの非合理性』というタイトルで、全体で約30分のプレゼンテーションです。

・動画前半『グローバリズムの非合理性①
・動画後半『グローバリズムの非合理性②

過去2回はそれぞれ『「貿易依存度」から考える経済政策とTPP』『「貿易依存度」から見た世界史』というタイトルで、貿易依存度(=貿易額÷GDP)という経済のグローバル化の度合いを示す指標を手がかりとして19世紀の第1次グローバル化時代までさかのぼり、経済のグローバル化を推し進めることは各国の国民経済にとってむしろ良い結果をもたらさないばかりか、国際紛争をエスカレートさせる要因でもある、と論じました。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-118.html
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-126.html

今回は、比較文明論などの観点から、仮に経済のグローバル化が不可避なものだとしても、特に日本という国においては、政策的にあえてグローバル化を推し進めることはいわば「自然の摂理」に反するばかりでなく、ほとんどの日本企業にとっても「労多くして益少なし」の非合理な選択なのではないか、という議論を提起してみたいと思います。

↓今回のプレゼンテーション資料です。
グローバリズムの非合理性.pdf

以下はプレゼンテーションの概要です。

グローバル化はリージョナル化(地域化)

アメリカのハーバード・ビジネススクールのパンカジュ・ゲマワット教授が執筆した"Regional Strategies for Global Leadership"(グローバル競争とリージョナル戦略)という論文があります。
経営学の雑誌として著名なハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard business Review)に2005年に掲載されたもので、グローバル化とはいっても地理的要因や文化・政治・法制度・経済などの背景に起因する差異が消滅している訳ではなく、むしろそうした差異の存在を前提とした「地域戦略」がグローバル展開を志向する企業にとってもこれまで以上に重要になっていると論じています(下記リンク先は英語原文のPDFファイル)。
https://cb.hbsp.harvard.edu/resources/marketing/docs/Ghemawat_article.pdf

そして、同稿では地域戦略の重要性を示す根拠として、

「ヨーロッパ、南北アメリカ、アジア・オセアニアといった世界各地域における貿易総額に占める地域内貿易(輸出国も輸入国も当該地域に属する貿易取引)の割合が、共産主義崩壊の影響を受けた東欧・旧ソ連地域を例外として、各地域で長期的に軒並み上昇している(プレゼン資料2ページ参照)」
「地域内貿易が地域をまたぐ『地域間貿易』よりも低い水準にある地域(アフリカ、中東、東欧諸国・旧ソ連)では経済活動が相対的に低水準にある」

の2点を挙げると共に、「地域間貿易が経済活力を増進させる」というグローバリズム信奉者にありがちな見方に疑問を投げかけています。

同様に、ハーバード・ビジネス・レビューに2005年に掲載された “All Strategy is Local” という論文があります。
こちらはコロンビア・ビジネススクール教授のブルース・グリーンワルド氏などによる共著で、海外事業が上手くいっていないアメリカのウォルマート(世界最大の小売企業)の事例などを挙げながら、単純に地域の壁を越えた効率化を追求する典型的な企業のグローバル戦略は競争優位につながらず、むしろローカル市場単位での戦略の実践が重要であると論じています(同稿は、評論家の中野剛志氏の著書『自由貿易の罠』でも引用されています)。
http://vivekhutheesing.com/wp-content/uploads/2014/02/All-Strategy-Is-Local-12.28.13.pdf


こうした議論を踏まえると、グローバル化、特に地域をまたがる国際展開は、たいていの企業にとっては自国市場における自らの強みを必ずしも発揮できない困難なものであり、成功事例は極めて限られている、というのが資本主義経済、あるいは人間社会における法則であると考えることができます。
そうだとすると、たまたま成功条件を満たした特定企業の戦略としてならともかく、国家あるいは政府レベルの経済政策や成長戦略としてグローバル化を追求するのはそもそもお門違いである、と言えるのではないでしょうか。

※なお、ウォルマートやユニクロ(ファーストリテイリング)といったグローバル化志向の代表的な企業が「グローバル化のジレンマ」に陥っている実態については、下記拙稿などもご参照ください。
http://foomii.com/00092/2015101102515929151
http://foomii.com/00092/2015101800100029284


独自の文明圏としての日本

上記で述べた地域的差異を、経済のみならず文化・政治・法制度も含めた総体としての「文明の差異」と捉えるのであれば、特に日本という国や日本企業にとっては、やみくもなグローバル化、あるいは国際化を推し進めることは、総じて合理的な選択とは言えない、というのが一つの論理的帰結となると考えられます。
なぜなら、比較文明論をはじめとした学術的な議論において、「日本は一国だけで独自の文明圏を構成している」とされているからです。

こうした議論は少なくとも、20世紀イギリスの歴史学者であるアーノルト・トインビーが1934年から1961年に渡って刊行した大著『歴史の研究』から見られます。
日本の比較文明学者である伊東俊太郎氏も、著書『比較文明』において同様な見解を採っています。
     

また、資本主義が発達した地域(西ヨーロッパと日本)と共産主義や計画経済が行われた地域(中国、ロシア、中東)との差異、あるいは土地を媒介とした主君と家臣との主従関係、いわゆる封建制が前者のみに成立したことなどを出発点として、日本は中国などとは異なる独自の文明圏を一国で構成している、という議論も存在します。
その嚆矢となるのが、くしくも同じ1957年に出版された梅棹忠夫『文明の生態史観』やカール・ウィットフォーゲル『オリエンタル・デスポティズム』(東洋的専制主義)であり、封建制を切り口としてそうした過去の議論を新書レベルで比較的わかりやすくまとめているのが、今谷明『封建制の文明史観』(PHP新書、2008年)です。
    

この「日本は一国からなる一つの地域」という見解は、実は少なくとも一部の有力な経済学者の間でも「感覚的あるいは常識的に」共有されているようです(「学術的に」のレベルには至っていないようですが)。
それを示唆するのが、都市や地域における経済活動の分布や発展のメカニズムを研究対象とする「空間経済学」の代表的な教科書における、以下の記述です。

「(前略)よく知られているように、「新しい空間経済学」の発展にとって、ヨーロッパの統合が与えた学問的刺激の役割が大きい。従来それぞれの国の内部で一つの纏まりを持って発展してきた地域経済システムが、最近のヨーロッパ統合に伴うボーダレス化によって、EU全体の新たな地域経済システムとして将来、大きく再構成されると予想される。その場合、例えば、ロンドン、パリ、ローマ、フランクフルトといった既存の主要都市は将来どうなるのか? どの都市がEUの実質的首都になるのか? EU全体の中心となる新しい産業地帯はどこに形成されるのだろうか? EUにおける今の周辺地域はどうなるのか? このような疑問に刺激されて本書は生まれたわけである。しかしながら、EUの将来の地域経済システムに関するこのような疑問を考える上において、少し振り返ってみれば、日本の歴史が大きなヒントを与えてくれるかもしれない。実際、今から約130年前の明治維新において、それまでほぼ自立していた多くの幕藩経済を廃藩置県によってボーダレス化することにより、EU統合ならぬ日本統合が実現されたわけである。その結果の一つが、東京一極集中に象徴される現在の日本における地域経済システムの形成である。(後略)」
(藤田昌久/ポール・クルーグマン/アンソニー・J・ベナブルズ『空間経済学』「日本語版への原著者序文」より)


そして、こうした立場からは、第2次世界大戦後、特にグローバル化が進んだ1970年代以降においてすら、日本経済が貿易依存度を低下させながら発展した構図(図表1)も理解しやすくなります。
すなわち、グローバル化のもとでリージョナル化が進展する中で、独立した文明圏を構成する日本国内での経済取引がより活発になった、と考えることができるからです。
同様な枠組みを用いれば、一国で北米経済圏の大半(直近2014年で約85%)を占めるアメリカ合衆国において、19世紀の第1次グローバル化時代の最中も貿易依存度が低下し続けた、という事実も整合的に解釈できるのではないでしょうか。

【図表1:日・米・英・独・仏の貿易依存度(財貿易のみ)の長期推移(1820~2014年)】
http://on.fb.me/1PM6WN1
https://twitter.com/sima9ra/status/669174796727377921


アベノミクス以降も進む地域内経済活動の衰退

以上を踏まえれば、日本にとって合理的な経済政策とは、日本国内という地域経済圏の経済活動を活発化することであるはずです。そのために必要な政策は、いうまでもなく積極財政です(図表2、図表3)。
それによって日本国民の雇用機会が拡大するだけでなく、日本企業にとっても「地域内での利益成長機会の拡大」という、グローバル化よりもはるかに大きな恩恵をもたらすことになるでしょう。

【図表2:日本のマクロ経済指標の推移(1980~2014年)】
https://twitter.com/sima9ra/status/669165227120824320
http://on.fb.me/1LxuFJ6

【図表3:名目財政支出伸び率と名目GDP伸び率の関係(1997年⇒2013年、年換算、29か国)】
https://twitter.com/sima9ra/status/669166143022612480
http://on.fb.me/1Nbx4P9

そもそも緊縮財政に陥る直前、すなわち1990年代半ばの日本のGDPは、ユーロ圏やアメリカの約70%、EUやNAFTAに対しても約60%を占めていました(図表4)。
すなわち、「積極財政」という適切な経済政策さえ行えば、日本国民や日本企業は十分大きな経済圏のもとで、豊かさを享受することが可能なのです。
そうすれば、成功のハードルが高く、かえって国際紛争の要因ともなるグローバル化を無理に推し進める必要もなくなるでしょう。

【図表4:日本の名目GDPの各地域・各国に対する比率(1960~2014年)】
https://twitter.com/sima9ra/status/679112337962508288
http://on.fb.me/1mfgZxt

ところが、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』に寄稿した『EUの日本化』でも紹介したように、金融緩和とグローバリズムに偏ったアベノミクスのもとで、国内の経済活動は低迷しています(図表5)。
同稿でも述べたように、国内で生産したものを国内で使った額を示す「名目国内取引額」は、何と消費税増税で名目経済指標がかさ上げされた2014年度すら、前年度比マイナスとなっているのです。

【図表5:日本の名目GDPおよび名目国内取引額の推移(1997年=100)】
https://twitter.com/sima9ra/status/676821887742173184
http://on.fb.me/1UuJseo

以上、グローバリズムの問題点と積極財政の重要性について論じました。
本稿で紹介した図表は全てツイッターやフェイスブックにアップしています。
「グローバリズムにまみれた現在の状況を積極財政によって打開すべきである」という意見にご賛同いただける方は、是非拡散にご協力ください。


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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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