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リフレ派金融政策の破たん

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インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「リフレ派金融政策の破たん」というタイトルで、全体で約35分のプレゼンテーションです。

・動画前半「リフレ派金融政策の破たん①
・動画後半「リフレ派金融政策の破たん②

2016年1月29日、日本銀行が、民間金融機関が日銀に開設する日銀当座預金の一部について金利をマイナスにする、いわゆるマイナス金利政策を導入しました。
これは、現体制が発足した2013年から2年で実現するとしていた物価上昇率2%という目標が達成されない中で、従来の量的・質的金融緩和を補強する手段として導入されたものです。
その影響は国債価格の値上がり(金利は低下)などを引き起こし、世界の金融市場の不安定化も相まって、2月9日には、10年物国債の金利が初めてマイナスを記録する事態となりました。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129a.pdf

筆者は、著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』、あるいは本ブログに2014年4月23日に投稿した『日銀理論を取り戻そう』などで、現在の金融政策を支えるいわゆるリフレ派の経済理論を、非現実的な前提に基づく誤ったものであると実証的に批判してきました。
今回はマイナス金利政策について、過去からのリフレ派理論とのつながりを検証すると共にその問題点を明らかにし、むしろ弊害の方が大きいことを指摘したいと思います。

↓今回のプレゼン資料は下記URLから閲覧、ダウンロードが可能です(フレーム下の「Share」を押すと、ツイッター、フェイスブック、グーグルプラスで共有できます。是非ご活用ください)。
http://twitdoc.com/5D28
(スマホなどで資料が上手くめくれない場合は、左下の「Download」を押すと画面が切り替わり、上手くめくれるようです)

以下はプレゼンテーションの概要です。

マイナス金利政策の狙い

そもそも「マイナス金利政策」と言っても、家計や一般企業の預金金利や借入金利をマイナスにするというわけではありません。
日銀が直接お金のやり取りをするのは、政府を除けば銀行をはじめとした民間金融機関に限られています(雇用関係にある日銀の職員は例外ですが)。

そして、日銀と民間金融機関がお金のやり取りをする際の決済手段として用いられるのが、各金融機関が日銀に預け入れている「日銀当座預金」です。
預金といえば、通常はお金を提供している対価として、預け入れている側に利息が支払われるものですが、日銀当座預金の一部について、今後は逆に預金残高から年間0.1%に相当する金額を差し引こうというのが、今回のマイナス金利政策です。
結果として、マイナス金利の日銀当座預金を抱えている金融機関において、資金を他に回したいという意欲が高まることで金融市場全体の金利、ひいては家計や一般企業の借入コストが低下することで、日本経済全体の経済活動が活発になることが期待されています。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/ko160203a.htm/#p0501

その意味では、黒田日銀総裁が金融政策決定会合直後の講演(上記URL参照)でも述べているとおり、全く新しい金融政策というよりは、従来からある「政策金利の低下が経済の活性化を促す」という、むしろ黒田総裁より前の日銀でオーソドックスだった考え方の延長線上にある政策と言えるでしょう。
ただし、「金利はマイナスにならない」という常識を超えたことによって、従来よりも金融緩和の可能性を広げたのもまた事実です。



マイナス金利政策は経済成長にはつながらない

マイナス金利政策が従来の金利に着目した金融緩和政策の延長線上にあるとすると、実態上の効果はほとんど期待できないと考えられます。
なぜなら、政府支出を拡大する積極財政がない中で金利がいくら低下しても経済成長にはつながらないことは、繰り返し指摘しているとおり、過去20年近くの日本経済のパフォーマンスより明らかだからです(図表1)。

【図表1:日本のマクロ経済指標の推移(1980~2015年)】
https://twitter.com/sima9ra/status/700718824329318401
http://on.fb.me/1oPwhdQ

そもそも、「マイナス金利」とは言っても、実体経済における家計や企業の借入金利がマイナスになるわけではありません。
仮にそうなれば、借り手は借りたお金を引き出してプラスの利息もマイナスの利息も付かない現金で抱えてさえいれば、労せずに利益が手に入るわけですから、経済や社会のルールを根本的に破壊するような異常事態にならない限り、そんなことは起こりえないのです(言うまでもなく、マイナス金利政策の効果を高めるために経済や社会のルールを破壊する、というのでは本末転倒です)。
だとすれば、今回の金融緩和の効果は、これまでの金利引き下げ以上に小さいと考えるのが自然です。

直近の2016年2月15日に発表された2015年10-12月期GDP統計第1次速報値によれば、2015年の名目公的支出(GDP統計上の政府および公的企業の支出合計)は、第2次安倍政権発足前の2012年のそれに比べて7.1兆円増加していますが、消費税増税分7.5兆円強を差し引けば実質的にマイナス、すなわち緊縮財政となっています。
しかも、支出面に限っても、ここ2四半期は公的固定資本形成(公共投資に相当)の減少が続くなど、明らかに緊縮傾向です。
(なお、「消費税増税はアベノミクスではない」というのは事実に基づかない誤った議論です。アベノミクスがもともと消費税増税を前提とした均衡財政主義の政策であることについては、下記『アベノミクスの失敗(チャンネルAJER編)』をご参照ください)
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-108.html

国際的に見ても、「財政支出を拡大している国ほど、長期的に見て経済成長率が高い」ことは明らかです(図表2)。
これは必ずしも因果関係を示すものではありませんが、「(日本のような)緊縮財政をしながら高い経済成長率を達成している国は例外なく存在しない」のは間違いありません。

【図表2:名目財政支出伸び率と名目GDP伸び率の関係(1997年⇒2013年、年換算、29か国)】
https://twitter.com/sima9ra/status/669166143022612480
http://on.fb.me/1Nbx4P9

民間部門においては、所得の裏づけがなければ消費はできないし、所得(企業でいえば利益)が伸びる見込みがなければ、(いくら金利が低下しても)将来に向けた投資意欲は盛り上がりません。
「経済全体の支出は常に所得とイコールである」という大前提のもとでは、民間部門のような制約が存在しない政府部門が支出を拡大しない限り経済全体は拡大しないのは、ある意味で必然的と言えるでしょう。



過度の金融緩和は、むしろ弊害の方が大きい可能性も

積極財政を伴わない金融緩和が経済成長にほとんど効果がないとすると、過度の金融緩和は、むしろ弊害の方が大きい可能性があります。

まず1つは、金融緩和による民間金融機関の収益圧迫が家計や一般企業にとっての金融コスト上昇をもたらし、かえって経済活動を阻害する懸念です。
金融緩和が民間金融機関の資金調達に用いられる短期金融市場(コール市場、CD市場)を引き下げるだけなら、そのこと自体は収益の圧迫にはなりません。
しかしながら、金融緩和は日銀による国債をはじめとした資産(民間金融機関にとっての資金運用先)の購入を伴い、むしろ民間金融機関にとっての資金運用市場に金利低下バイアスがかかります。
結果として、いわば日銀も含めた金融機関間の貸出競争圧力が上昇し、その分民間金融機関の粗利益率(利ざや)低下につながることは不可避です。

金融緩和によって経済成長が実現し、それに伴って家計や一般企業の借入意欲、ひいては民間金融機関の収益機会も拡大するのであれば、粗利益率が低下しても収益額は拡大するのでトータルでプラスと言えますが、そうした効果がほとんど見込めないとすると、必然的にマイナスの効果だけが残ります。
結果として収益性が低下した金融機関が顧客である家計や一般企業にコストを転化しようとすれば、むしろ経済活動全体にとってのマイナス要因となるでしょう。
実際、マイナス金利を先行して導入したスイスでは、一部の民間銀行がコスト転化のために自行への預金金利をマイナスにした他、金融緩和にもかかわらず、住宅ローン金利が逆に引き上げられたりしています。
http://mainichi.jp/articles/20160212/k00/00m/020/076000c
http://jp.reuters.com/article/ecb-negative-column-idJPKBN0TL0A720151202?sp=true

日本でも、ローン金利については当面引き下げの動きが大半の一方で、早くもメガバンクの三菱東京UFJ銀行が、大企業などの普通預金に口座手数料を賦課することを検討しています。
また、短期金融市場での運用収益を分配する投資信託の1つであるMMFの販売停止は、資金調達手段が減少したという意味で、借り手へのコスト転化が既に実現した事例と言えるでしょう。
http://www.nikkei.com/article/DGKKASGC02H0H_S6A200C1MM8000/
http://www.nikkei.com/article/DGKKASGD05H0W_V00C16A2EAF000/

また、マイナス金利政策が導入開始された2月16日当日には、民間金融機関が資金を融通し合うコール市場において、無担保翌日物の金利が前日の0.074%から0.001%に低下すると共に、残高が16.5兆円から4.5兆円(30年以上前の水準)に急減しています。
これは、黒田総裁の目論見に反し、コール市場における借り手である「貸出も含めた資金運用先はあるが、資金が不足している民間金融機関」が、マイナス金利政策による金利低下によって運用意欲を高めるどころか、どちらかといえば運用意欲を低下させていることを示唆します(運用意欲が高まっているのであれば、残高は増えるのが自然です)。
民間金融機関全体としての資金運用意欲の低下は、預金金利の低下あるいはローン金利の上昇いずれかの経路を通じて、家計や一般企業にとっては全体として金融コストの上昇につながります。

もう1つは、資産取引への過剰な資金流入による、金融市場、ひいては実体経済の不安定化です。
実体経済すなわち所得が拡大しない状況であっても、資産取引市場では短期的な価格の上下による利益獲得(キャピタルゲイン)が見込めるため、金融緩和に伴って資金調達ニーズも拡大します(普通ならば非合理的な「国債のマイナス金利」が実現しているのも、取引が活発な国債市場の存在があってのものと考えられます)。
それによって、株式市場や外国為替市場といった金融市場の変動性が高まれば、その分実体経済も不安定化し、経済資源の非効率な配分につながります。
既に紹介した毎日新聞の記事によれば、デンマークでは住宅ローンがマイナス金利という異常事態(手数料を加味すれば借り手の負担は残るようですが)の発生に伴い、住宅バブルが発生しつつあるようです。



リフレ派、アベノミクスのこれ以上の暴走を食い止めるべき

日銀理論を取り戻そう』でも述べたように、岩田規久男・現日銀副総裁をはじめとするリフレ派は、外生的貨幣供給理論や期待インフレ理論を持ち出し、金利に主眼を置いた従来の日銀の金融政策への批判を繰り返してきました。
これらは表面上のレトリックは違えど、「中央銀行がマネタリーベースを拡大すれば、それに応じて実体経済の需要が拡大し、デフレから脱却できる」と主張する点で共通しています。
ところが上述したように、緊縮財政によって所得の伸びが伴わない経済においては、金利引き下げであろうとマネタリーベース拡大であろうと、金融緩和をいくら繰り返しても民間需要の盛り上がりにはつながらないことは、これまでの日本経済のパフォーマンスが証明しています。
今回、自分たちがさんざん批判してきたはずの従来の日銀の政策の延長に過ぎないマイナス金利政策を採用し、あまつさえ「これまでの中央銀行の歴史の中で、おそらく最も強力な枠組みです」と述べていますが、これぞまさしく、「盗人猛々しい」と言うべきでしょう。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/ko160203a.htm/#p0503

黒田総裁は上記講演で、これまでの自らの金融政策が効果を発揮していると述べると共に、「日本経済は、輸出・生産面に新興国経済の減速の影響がみられますが、堅調な国内民間需要を背景に、緩やかな回復を続けています」と述べています(下記URL参照)。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2016/ko160203a.htm/#p02

しかしながら、図表3でも示されているとおり、民間需要は堅調どころか、家計支出(民間最終消費と住宅投資の合計)は消費税増税以降、アベノミクス開始前を下回る水準で推移し、直近2015年10-12月期では、増税直後で消費が大幅に落ち込んだ2014年4-6月期の水準すら下回っています。
また、企業支出(民間企業設備投資と在庫投資の合計)も増税後の伸びは全て実需を伴わない在庫投資によるもので、経済政策としての失敗は明らかです(ここに来ての輸出鈍化傾向も踏まえれば、設備投資にしろ在庫投資にしろ、今後は「過剰投資」に転化するリスクが高いと考えられます)。

【図表3:民間支出及びGDPの推移(実質季節調整値、2014年1-3月期=100)】
https://twitter.com/sima9ra/status/700720256021430272
http://on.fb.me/1Qqs3PU

「マイナス金利政策」というかつて自らが理論的に否定した政策を持ち出すに至っては、リフレ派の金融政策は完全に破たんしており、むしろ実体経済への悪影響を懸念すべき状況です。
リフレ派、そしてアベノミクスのこれ以上の暴走を食い止めるために何をすべきか、有権者一人ひとりが真剣に考えるべき状況ではないでしょうか(例えば、「ねじれ国会」の実現を目指して、今年の参議院選挙では「自民・公明の与党勢力や、明らかに緊縮財政・新自由主義を掲げる『おおさか維新の会』を除いて最もマシ」と思われる政党に投票する・・・などなど)。

↓今回のプレゼン資料は下記URLから閲覧、ダウンロードが可能です(フレーム下の「Share」を押すと、ツイッター、フェイスブック、グーグルプラスで共有できます。是非ご活用ください)。
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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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