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財政政策に対する誤解(マンデルフレミングモデル)(チャンネルAjer)

インターネットテレビ「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回のタイトルは「財政政策に対する誤解(マンデルフレミングモデル)」です。

マンデルフレミングモデル」とは、海外部門の要素(輸出入や為替レート)を取り入れたマクロ経済モデルであり、「財政支出を拡大しても、経済成長(GDPの拡大)にはつながらない」ことを主張する論者によって、その根拠としてしばしば引用されます。
今回は、マンデルフレミングモデルの引用のされ方はもちろん、モデル自体が妥当でないことの根拠を示すと共に、現在の日本には「財政政策無しの経済成長はあり得ない」ことを、同じくマクロ経済モデルの土俵に立った上で、実際の経済指標も交えて論証しています。

↓当日のプレゼン資料は下記の通りです。

【当日のプレゼン資料(pdfファイル)】
マンデルフレミングモデル(チャンネルAjer20130125).pdf

以下は、動画へのリンクとプレゼン内容の要約です(動画はユーチューブおよびニコニコ動画で、全体で50分程度です)。
【ユーチューブへのリンク】
第1部
第2部
第3部
第4部

【ニコニコ動画へのリンク】
第1部
第2部
第3部
第4部


【プレゼン内容の要約】

①「『変動為替相場制のもとでは、財政政策の効果は自国通貨価値の上昇(日本でいえば円高)によって完全に打ち消されてしまう』ことはマンデルフレミングモデルによって証明されている」というよくある議論は、モデルの前提を無視した極論である(もしくはその受け売りに過ぎない)。
元ネタになっているロバート・マンデル(マンデルフレミングモデルの創始者であり、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者)の論文を読むと、確かに上記の財政政策が通貨高によって打ち消されてしまう結果(「マンデルフレミング効果」とも言います)をマクロ経済モデルから導き出しています。
ところが、このモデルには「為替レートの期待変化率がゼロで、国内・海外とも利子率が固定されている」(資本の完全移動性)という、現実的にありえない仮定が盛り込まれています。
つまり、上記の論者は「現実に当てはまらないモデルから導き出された結果であるにもかかわらず、それが現実にも起こるはずである」という、かなり無理のある主張をしているということになります。
そもそも当のマンデル自身も、この部分については「こういう前提条件を置けば」というあくまでも思考実験的な議論を展開しているだけで、そこで導き出された結論がそのまま現実の政策に適用されることを想定しているとは到底思えない論述となっています。

②「財政政策はクラウディングアウトを引き起こすため、経済政策として有効ではない」という議論は、現実の政策運営のあり方を無視した議論である。
同じくマンデルフレミングモデルに基づき、「財政支出を拡大すると、上記で述べた自国通貨高圧力による純輸出減少に加え、利子率上昇を原因として民間投資意欲の減退(これを「クラウディングアウト」と言います)が引き起こされる」という結論を導き出し、ここから「変動為替相場制のもとでは、財政政策は金融政策ほど有効ではない」と主張する、①と比べればマイルドな財政政策批判も存在します。
しかしながらこの議論も、「クラウディングアウトを発生させたくなければ、財政拡大と共に金融緩和(による金利引き下げ)を実施することが現実の政策運営では可能である」という事実を無視して財政政策を目の敵にした、やはり極論と言わざるを得ません。
そもそもマンデルフレミングモデルには、現実の経済に見られる「財政拡大がもたらす自国通貨安圧力」(財政拡大⇒需要拡大による物価上昇⇒自国通貨安)が織り込まれていません。この事実は、(①で述べた「ありえない前提を置いたモデル」以外のモデルも含めて)「財政支出拡大すなわち自国通貨高圧力である」とする議論自体がそもそも妥当性を欠くことを示唆しています(実際の経済統計でも、財政拡大をしている国ほど通貨が安い、という傾向が観察できます)。

③「財政拡大無しに金融緩和だけいたずらに繰り返しても、経済成長には結びつかない(少なくとも今の日本経済はそのような状況にある)」ことは、1990年代後半以降の日本のマクロ経済統計によって実証されている。
以上のような反論をしてもなお、「今の日本の状況(政府債務がGDPの2倍に達する)では財政の拡大を行うべきではなく、金融政策だけで経済成長を実現すべき」という突込みが入る可能性はあります。
しかしながらこの指摘は、「過去15年間、日銀によるマネタリーベースの拡大が続いたにもかかわらず、財政支出総額を抑制する緊縮財政と共に日本の名目経済成長がストップした」という事実に全く反しています。
このことをマンデルフレミングモデルの元になっている「IS/LMモデル」に即してマクロ経済学的に議論するのであれば、「利子率の変化が民間部門の投資にほとんど影響を与えないことによる『IS曲線の垂直化』」「実質金利がこれ以上下がらないところまで既に低下していることによる『LM曲線のフラット化』(いわゆる『流動性の罠』)」のいずれかが生じていることを原因として、金融緩和だけでは今の日本経済は成長できない構造になっており、実際の経済データもそのことを示唆している、と言い換えることができます(ちなみに私は、実質経済統計よりも名目経済統計を理論構築上も重視する立場、及び「一国の名目経済成長率と政府部門の名目支出伸び率は長期的にほぼイコールである」という大多数の国に当てはまる現実も包括的かつ簡明に説明可能という観点から、前者を原因とするのが妥当と考えています。)。
したがって、問題解決にはやはり財政拡大が必要不可欠である、という結論が導き出されます。

(要約終わり)

経済学界も含め、元になっている理論やモデルの背景を深く理解しないまま表面的な結論だけに基づいて議論を展開したり、適切な理論的立場を選択するに際して実証的な観点を軽視したり、といった態度が、今日に至る議論の混乱を招いています。
そのことが日本国民の現実の生活にもダメージを与える結果になっている訳で、こうした状況を打開するための政治的なリーダーシップの発揮が強く望まれます。

なお、今回の議論の本質とは無関係ですが、動画中での「LM曲線が金融緩和によって右側に移動するメカニズム」に関する説明は不正確なものになっています(プレゼン資料自体は動画中のものも含め正しいです)。
正しい説明は「利子率が同じままで、金融緩和によって増加した後の貨幣供給と(取引需要と資産需要からなる)貨幣需要が釣り合うためには、(利子率に連動する資産需要は不変のため)貨幣の取引需要(⇒GDPの増加関数)が増加する必要があり、従って必然的に金融緩和前よりもGDPが増加する」(グラフの動きとしては、LM曲線が右側に移動する)というものです。
一発撮りの制約ゆえとはいえ、お聞き苦しい内容になっていることをお詫びいたします。

※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。ツイッター、フェイスブック等のソーシャルメディアを通じて1人でも多くの方にご理解いただくため、下記ボタンのクリックにご協力いただけると幸いです。

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テーマ : これでいいのか日本
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tag : マンデルフレミング 財政政策 金融政策 GDP マクロ経済学 ノーベル経済学賞 クラウディングアウト 名目GDP 政治経済 日本経済

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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