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20年以上続いた財政ファイナンス

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メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』に、「20年以上続いた財政ファイナンス」というタイトルで寄稿しました。
悪性のインフレや、通貨や国債の暴落につながるために「禁じ手」とされている財政ファイナンスが、実は日本では20年以上にわたって行われてきた(にもかかわらず前述の弊害は生じなかった)実態を明らかにしつつ、経済政策を巡る議論の混乱について論じています。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/08/11/shimakura-54/

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http://www.mag2.com/m/0001007984.html

以下では今回の記事を転載しています。


【島倉原】20年以上続いた財政ファイナンス

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家

前回、いわゆる「ヘリコプターマネー」を取り上げた際に、「週刊エコノミスト」2016年8月2日号の特集記事「ヘリコプターマネーの正体」を紹介しました。
その24ページ「図とQ&Aで理解する ヘリコプターマネー」と題したコラムの中に、以下のような記述があります。

「Q 「財政ファイナンス」との関係は?
A 財政ファイナンスは、日銀が通貨を発行して、政府の財政赤字を埋めることを指す。ヘリコプターマネーはまさに財政ファイナンスと言える。
 財政ファイナンスが行われると、歳出と歳入のバランスを保とうとする財政規律が失われがちだ。その結果、際限なく通貨が発行されて悪性のインフレを招いたり、政府の信用が損なわれ、通貨や国債の価値が下落したりする恐れがある。
 そのため、財政ファイナンスに結びつくものとして、政府が発行した国債を日銀が直接引き受けることは財政法(第5条)で禁じられている。ただ、特別な場合については国会議決を条件に認められており、現在でも日銀は、償還を迎えた国債を直接引き受けにより借り換えている。」
http://amzn.to/2ajzcGW

政府が財政赤字を抱える、すなわち収入以上の支出を行う際には、国債に代表される政府の債務がその分増加します。
その債務を中央銀行が購入することにすれば、政府・中央銀行が一体となった公的部門としては、支出超過すなわち財政赤字分の債務を事実上通貨発行という形でまかなっていることになる―これを財政ファイナンスと称しているという訳です(前回も述べたように、通貨も国債も公的部門の債務であることに変わりはないので、「別の形の債務に置き換えた」と言っても良いでしょう)。
財政ファイナンスの方法としては、政府が国債等を発行する際に直接購入(引き受け)する場合と、民間金融機関などが保有している国債等を中央銀行が市場を通じて購入することで公的部門の負債を通貨に置き換える場合(いわば間接的な財政ファイナンス)が考えられます。

こうした財政ファイナンスが常態化すれば、際限なく通貨が発行されて悪性のインフレを招き、信認を失った通貨や国債が暴落し、財政が破たんする。
それは、第二次世界大戦当時の日本が膨大な軍事支出をまかなうために実際行ったことであり、そうした事態を二度と招かないためにも、直接的な財政ファイナンスは法律で禁じられている―これが上記の記事にも見られるように、財政健全化について現在なされている、典型的な議論ではないかと思われます。

ここで、「事実上の財政ファイナンス指標」として、「超過準備率=日銀準備預金額÷法定準備預金額-100%」を定義してみたいと思います。
日銀準備預金額とは、民間金融機関が日銀に保有する預金(典型例がいわゆる日銀当座預金)残高の合計。
対して法定準備預金額とは、家計や企業から預かっている預金残高(民間金融機関にとっては負債)に応じて、民間金融機関が最低限保有することを義務付けられる日銀準備預金額の合計です。
法定準備預金額を超えて存在する日銀準備預金額を「超過準備」(いわゆる「ブタ積み」)とも言いますので、超過準備率とは、「超過準備が法定準備預金額の何%分存在するか」を示す指標とも言えます。
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b33.htm/

では、なぜ「超過準備率」なる指標が、「事実上の財政ファイナンス指標」と言えるのでしょうか。
民間金融機関の主な収益源は家計や企業への貸出などによる利息収入ですが、日銀準備預金は民間貸出の原資でも何でもありませんし(このあたりは世間で「専門家」と呼ばれる人々の間でも、相当の割合で誤解があるようですが)、それ自体はほとんど収益をもたらさないので(現在は下手をすればマイナス金利)、法定準備預金額以上に残高を保有しようというインセンティブは、民間金融機関側にはまず働きません。
他方で、リフレ派的なマネタリーベースではなく、金利を政策目標とするオーソドックスな金融政策を運営する中央銀行の側でも、政策オペレーションによって増減する準備預金の残高それ自体は目標とはならず、自らの金利目標の達成と民間側の最低限の法的義務を果たそうというニーズに対応した「結果」でしかありません(日米欧で量的緩和政策が行われている状況の下では、こうした説明は、今やフィクションのようですらありますが…)。

したがって、「民間金融機関同士の資金決済にも用いられる準備預金を、ある程度の余裕を持って確保しておこう」といったニーズなどを別とすれば、超過準備が存在すること自体、通常の金融政策の枠組みを超えた通貨発行オペレーションが行われていることを意味しています。
そして、日銀が準備預金をはじめとした「負債(マネタリーベース)」に見合った「資産」として保有するものの大半が国債であることからすれば、超過準備の増加とは、直接的か間接的かは別として、その分財政ファイナンスが実行されていることに他なりません。
これが、「超過準備率=事実上の財政ファイナンス指標」と述べた理由です。

そしてこの超過準備率、下記のグラフでも示したように(最初のURLはツイッター、2番目のURLはフェイスブックページへのリンクです)、黒田日銀の登場を待つまでもなく、公定歩合を0.5%に引き下げる超低金利政策が導入された1995年以降、何と20年以上も上昇傾向にあります。
量的緩和政策の解除がその後の景気後退を招いたかのように批判された2006年以降の局面においても、正常な状態にあった1990年代前半と比べれば遥かに高い水準にあり、黒田日銀の政策が破たんした今となっては、そうした批判がいかに不当なものであったかがわかります。
https://twitter.com/sima9ra/status/763208343947096064
http://bit.ly/2aEDrdO

ではこの間、日本経済に何が起こったか。
財政赤字は拡大し、政府債務も増加の一途をたどりましたが、悪性インフレや国債価格の暴落どころか、長期デフレと世界史上最低レベルの国債金利低下(価格は上昇)の状況が未だに続いていることは、今さら言うまでもないでしょう。
つまり、財政ファイナンスを「禁じ手」と称して財政破たんと結び付ける議論がいかに短絡的なものであるか―より踏み込んで言えば、財政赤字をひたすら罪悪視することがいかに根拠の乏しいものであるか―そのことを20年以上に及ぶ実証実験によって、図らずも証明してしまったという訳です。

このように、一見すると常識に反する結果が生じているのは、現在の財政赤字が財政支出の拡大ではなく、「(むしろ財政支出の切り詰めによる民間所得の停滞がもたらした)民間部門の投資意欲の停滞(⇒税収の減少、及び民間企業の貯蓄超過)の結果としての赤字」に過ぎないことに起因しています。
では、経済政策を逆転させて財政支出を拡大する「積極財政」に転換した時に何が起きるのか―これについては、また機会を改めて議論したいと思います。

それにしても、「財政」ファイナンスが金融政策で、ヘリコプター「マネー」が財政政策とは…。
こうした専門用語(?)が与える印象と実態が乖離していることも、昨今の経済政策を巡る議論の混乱を招いている一因かもしれないな、と改めて思う今日この頃です。


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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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