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グローバル化とガラパゴス化

メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』に、「グローバル化とガラパゴス化」というタイトルで寄稿しました。
「ガラケー」という表現にもあるように、国内市場に目を向けた商品開発をしているうちに、グローバルな競争で遅れをとってしまう日本の産業の状況を批判的・自虐的に捉えて「ガラパゴス化」と評する議論がしばしば見受けられます。
それに対して、生物界の事例も紹介しつつ、「ガラパゴス化は本来自然の摂理に適ったあり方で、そうした摂理に反するグローバル化こそ、むしろ歯止めがかけられるべきなのではないか」と問題提起しているのが今回の論稿です。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/09/08/shimakura-56/

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以下では今回の記事を転載しています。


【島倉原】グローバル化とガラパコス化

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家

「ガラパゴス化」という表現があります。
国際標準からかけ離れた独自の方向で製品を高機能化し、国内で競争を繰り広げているうちに、いつしか世界市場を海外企業に制覇され、あげくの果てには国内市場でも海外企業との競争に負けてしまう・・・そんな日本の産業の有り様を、批判的、あるいは自虐的な文脈で評する際に、しばしば用いられる表現です。
https://kotobank.jp/word/%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%83%91%E3%82%B4%E3%82%B9%E5%8C%96-188972

この「ガラパゴス化」、そもそもは日本の携帯電話市場を形容するものとして登場した表現で(当初は必ずしもネガティブな意味合いではなかったようですが)、おなじみの「ガラケー(ガラパゴス携帯)」という呼称は、2000年代半ばまでは世界最先端とされていた日本製の携帯電話で、まさしくそうした現象が生じたことに由来しています。
例えば、「(iPhoneを開発した)アップルのような企業が日本から生まれないのはガラパゴス化が原因で、日本企業はもっとグローバル化するべきだ!!」といった具合に、グローバル化政策を推奨する議論の中に登場するのを、目にした方もおられるのではないでしょうか。

しかしながらこのガラパゴス化、そんなにダメなことなのでしょうか。
言語学者で慶應義塾大学名誉教授の鈴木孝夫氏が書かれた『日本の感性が世界を変える:言語生態学的文明論』という本は、その意味で面白いヒントを与えてくれるような気がします。
(ちなみに、施光恒さんの著書『英語化は愚民化』で参考文献として紹介されていたのを目にしたのが、私が同書を知ったきっかけです)
http://amzn.to/2bTbyFl
http://amzn.to/2bTco52

鈴木氏によれば、一般の生物は、異なる環境に分布するうちに、それぞれの環境に順応して自らの体や性質を変化変形させます。
そして、その典型例として紹介されているのが、まさしく東太平洋のガラパゴス諸島に生息し、19世紀のイギリスの生物学者ダーウィンが唱えた進化論の典型例としても有名な「フィンチ」と呼ばれる小型鳥類です。

フィンチはもともと、南米大陸に生息していた同一種の小鳥でした。
ところが、ガラパゴスの島々に散らばる過程で、固い木の実の多い島に定着した種は太くて硬いくちばしを持つのに対し、柔らかい果実や虫などが豊富な島に定着した種は細身のくちばしを持つといったように、それぞれ独特の形状を持ち、一部では雑種の誕生も不可能になるほど、別々の生物種に分化しているようです。

これらが「ダーウィンフィンチ」と総称されるように、ガラパゴス諸島における生物の多様な分布が、ダーウィンの進化論にインスピレーションを与えたことは、有名な話です。
『日本の感性が世界を変える』ではこの他にも、もともとは日本の菊と同一種でありながら、巨大なサボテンのような姿でアフリカのキリマンジャロに生息する植物の話などが紹介されています。

他方で、人間は同じ生物でありながら、生息環境が異なっても体の形状はさほど違いません。
鈴木氏はこの違いを、「中間地帯としての文化」という概念を用いて説明しています。
すなわち、人間は自分の体を環境に直接さらすのではなく、環境と自分との間に「文化」という名の中間地帯を介在させ、この中間地帯を自然環境の変化に応じて変容させることで、体はそれほど変化することなく、様々な環境に順応してきたというのです。

「中間地帯としての文化」は、文化人類学における「広義の文化」とほぼ同一で、道具や衣服に加え、言語、風俗習慣、宗教なども含まれるとのことです。
したがって、企業が提供する製品やサービスなども、その一部と言えるでしょう。
鈴木氏自身は生物学者ではないものの、事例の裏付けもあり、言語を通じて世界の様々な文化の違いを研究した末にたどりついた見解として、傾聴に値するのではないかと思います。

ここで、人間社会におけるグローバル化現象について考えてみましょう。
言うまでもなく、現にあるグローバルな交流が可能なのは、人間の場合はフィンチと異なり、生物種としての同一性が保たれているからです。
ところが、そうした同一性は元来、各地域の自然環境に合わせて発達した、多様な文化の存在があってはじめて成立しているのです。

このことは、ガラパゴス化を否定し、グローバル化をひたすら賞賛する議論には、根本的な欠陥があることを示しています。
なぜなら、そうした議論を突き詰めていくと、各地域の自然環境に必ずしも適さない文化が既存の文化を駆逐することによって、環境を破壊して社会の存在基盤を脅かすか、その地域の人間自体が変化して生物種としての同一性が失われた結果としてグローバルな交流が不可能になるか、いずれにしてもグローバル化の前提そのものが崩壊してしまうからです。

してみると、現代に勝るとも劣らないほどグローバル化が実現していた二十世紀初頭に、「帝国主義」という名のグローバル化を推進した大国のエゴが衝突する形で第一次世界大戦が勃発して破壊的な結果が生じたのは、ある意味で自然の摂理だったのかもしれません。
むしろ、環境に適した地域特有の文化を発達させるガラパゴス化こそが、文字通り自然の摂理にも適った、人間特有の進化のあり方ということになるでしょう。
このあたりは、昨年12月の拙稿「グローバリズムはいつか来た道?」でお示しした議論にも通じるのではないでしょうか。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/12/03/shimakura-38/

とはいえ本稿は、国際的な交流や、さらに言えば現代のグローバル化の根底にある、西欧文明主導の近代化の歴史そのものを、いきなり全否定しようというものではありません。
さはさりながら、「元来自然の摂理に反するグローバル化には、自ずと歯止めをかけるべき限界がある(自然の摂理に従えば、むしろ逆行するガラパゴス化の方が望ましい)」という観点(節度)は、常に忘れるべきではないでしょう。

以上、「グローバル化とガラパゴス化」という現象を考えるにあたっての根本的な問題提起が、今回のテーマでした。
「では、ガラパゴス化と共に停滞している日本の現状をどうすべきなのか」というテーマについては、いずれ稿を改め、詳しく論じてみたいと思います。

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↓「ドル高トレンドをもたらした意外なイベント?」
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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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