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金融政策の迷走

メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』に、「金融政策の迷走」というタイトルで寄稿しました。
昨日(2016年9月21日)の日銀の金融政策決定会合で決定された『金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」』と共に、『「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証の「基本的見解」』を取り上げ、その迷走ぶりを解説しています。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/09/22/shimakura-57/

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http://www.mag2.com/m/0001007984.html

以下では今回の記事を転載しています。


【島倉原】金融政策の迷走

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家

昨日、日銀の金融政策決定会合にて、『金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」』と共に、『「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証』の「基本的見解」が決定されました。
http://jp.reuters.com/article/boj-newpolicy-idJPKCN11R0EF
http://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2016/index.htm/

「大胆な金融緩和でデフレを脱却する」というアベノミクスの限界が指摘される中、どういった総括がなされ、その下でどういった政策が新たに打ち出されるかが注目されていました。
案の定といいますか、現実と乖離しているか、さもなければ自らの無力さを事実上認めたに等しい総括がなされており、「新しい枠組み」もむしろ、現行の金融政策が手詰まりであることを、より一層浮き彫りにしています。

「基本的見解」では、2%程度の物価上昇率を定着させるという目標が実現しなかった要因として、原油価格下落、消費税率引き上げ後の需要の弱さ、新興国経済の減速とそのもとでの国際金融市場の不安定な動きといった「外的な要因」が発生し、実際の物価上昇率が低下したことで、「もともと適合的な期待形成の要素が強い予想物価上昇率が横ばいから弱含みに転じたことが主な要因と考えられる」としています。

果たして、「適合的な期待形成」とは何のことでしょうか。
「総括的な検証」の背景説明資料の3ページ(4枚目)には、『予想物価上昇率は、中央銀行の物価安定目標による「フォワード・ルッキングな期待形成」と、現実の物価上昇率の影響を受ける「適合的な期待形成」の2つの要素によって形成される』と述べられています。
平たく言えば、多くの人々が「直近の物価上昇率の実績が、ほぼそのまま将来の物価上昇率になるであろう」と考えることを「適合的な期待形成」と称しているということでしょう。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921b.pdf

同資料の4ページ(5枚目)では、『予想物価上昇率の形成メカニズムについて、各国比較分析を実施した。この結果、わが国では、米国などに比べて、予想物価上昇率の形成において「適合的な期待形成」のウエイトが大きいことがわかった』と述べられています。
そして、末尾の「補論図表3」には、日本の予想物価上昇率は「前期のインフレ率」すなわち直近の物価上昇率の実績によって、何と7割方は説明できるとの比較分析結果が示されています。
(分析手法に不明な部分があるため判然とはしないものの、日本以外の国々においても、「実績」の影響度は日銀の分析結果よりも大きいのではないかとも思われるのですが、その点については、ここではこれ以上突っ込まないものとします)

では、そうした現実認識を踏まえて、日銀はどのような「新しい枠組み」を打ち出したのでしょうか。
政策発表資料の3ページにある『「フォワード・ルッキングな期待形成」を強めるため、オーバーシュート型コミットメントを採用する』というのがその答えです。
具体的には、物価上昇率2%を実現するというこれまでのコミットメントに加え、安定的に2%を「超える(=オーバーシュート)」ことを現行のマネタリーベース拡大政策の新たなターゲットとすることで、『「物価安定の目標」の実現に対する人々の信認を高める』のだそうです。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921a.pdf

しかしながら、もともと効果が乏しいと自らが認めている(この認識自体は正しい!)中央銀行の目標設定を、言葉遊びのレベルで「2%を実現する」から「2%を超える」に強めたところで、どれほどの上乗せ効果が見込めるというのでしょうか。
こうした政策を「新しい枠組み」として掲げていることが、むしろ現行の金融政策の迷走ぶりを示していると言えるでしょう。
これ以外にも、今回の「新しい枠組み」は突っ込みどころ満載なのですが、それはまたの機会としたいと思います。

そもそも、直近の物価上昇率の実績が重要なのだとしたら、間違いなく現実の物価上昇要因である「需要の増加」をもたらす「財政支出の拡大」こそが、適切な政策であることは言うまでもないでしょう。
もちろん、政策発表資料の本文は「政府の財政運営、成長力強化の取組みとの相乗的な効果により、日本経済をデフレからの脱却と持続的な成長に導くものと考えている」(同じく3ページ)と結ばれており、財政支出の拡大に対してむしろ肯定的なニュアンスとなっています。

しかしながら、既に明らかになったはずの金融緩和の効果の乏しさがきちんと認められない限り、本来主役であるべき財政支出の効果が相も変わらず過小評価され、その拡大も自ずと不十分なレベルにとどまることが懸念されます。
例えば、「消費税率引き上げ後の需要の弱さ」という、まさしく緊縮財政という失政によって生じた現象を、原油価格の下落や新興国経済の減速と並ぶ、単なる「外的要因」と総括していること一つ取っても、そうした懸念が決して故なきものではないことが、お分かりいただけるのではないでしょうか。
積極財政の実現に向け、現実に即した適切な理論武装はどうあるべきなのか―本メルマガにおいても、引き続き検討して行きたいと思っています。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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