ホーム » 未分類 » 特例公債法案は本当に必要か~財政法4条1項は違憲立法?

特例公債法案は本当に必要か~財政法4条1項は違憲立法?

(この記事は、2011年7月24日にBloggerに載せたものを転載しています。)
最近、政治関連のニュースでしばしば「特例公債法案」という言葉が登場します。

例えば、

特例公債法案 民主党は成立へ責任を果たせ(2011/7/21付・読売社説)
「退陣3条件」大詰めに=特例公債法案が焦点(2011/7/23・時事ドットコム)
民主の公約見直しが前提=特例公債法案への協力-自民・石破氏(2011/7/23・時事ドットコム)

要は、

・公共事業等の財源に充てる以外の目的で国債を発行することは法律上認められていない(財政法4条1項)。
・しかし、現実にはそれ以外の財源をまかなうのに税収等だけでは足りず、このままでは既に成立している予算が執行できなくなり、行政サービス、ひいては国民経済に重大な影響が生じる。
・従って、上記以外の目的で国債(いわゆる「赤字国債」)を発行することを特例的に認める法律を別途成立させることが必要である(これは年度毎の恒例行事のようになっています。例えば平成22年度)。
・しかし、法律の成立には衆議院・参議院両方の可決か、衆議院での3分の2以上の賛成による可決が必要(憲法59条)であり、今の「ねじれ国会」(かつ衆議院の与党議席数も3分の2未満)では与党だけではどうにもならず、菅首相の「退陣3条件」とも絡んで、政局の材料となっている。

ということのようです。

このようなニュースを目にしていて、ふと次のような疑問が湧いてきました。

「これって、参議院(あるいは野党)は『特例公債法案』を人質にとって予算を事実上葬り去ることが可能、ってことなんじゃないか?」
「でもそれって、『予算について、両議院の意見が一致しない時は衆議院の議決を国会の議決とする』として予算に関する衆議院の優越を認めた憲法60条を骨抜きにすることになるよな。だとすると、そもそも財政法4条1項って違憲立法なんじゃないか?」

そう思って、憲法や財政法に関する本を何冊か図書館で借りて目を通してみたところ、どうやら憲法の中でも60条は(例えば9条なんかと比べて)あまりメジャーな論点でないらしく(恐らく憲法の中でも実務に近いテーマということで、あまり学者の興味を惹かないのでしょう)、充分な議論や分析がなされている訳ではないようです。

そんな中でも、自分自身の(民間企業の社員としての)実務感覚にもマッチし、「なるほど、そうだよね」と思ったのが以下に引用する記述です(著名な芦部信喜「憲法」も含め、他の本では「なぜ予算については衆議院の優越が特に強いのか」はそもそも論点にさえなっていませんでした)。

「予算の場合に、法律の場合よりも、衆議院の優越の程度が強いのは、予算の存在は行政の日常の運行にとって欠くことのできない必要であり、したがって、予算については、一定の期間内に確実に成立することが、法律についてよりも、国政の運用上より強く要望されるからである。
(宮澤俊義「全訂 日本国憲法」第2版/日本評論社・467ページ)



この解説を、実際の憲法の条文と照らし合わせてみれば、

・国債発行は85条で「国費の支出」と並べられている国の行為(「国が債務を負担」に該当)であり、それを受けて次の86条で予算の国会決議が定められていることからすれば、国債発行も当然予算の対象の一部である(当たり前のように聞こえるかもしれませんが、学者の世界では、そもそも「予算」の定義、即ちそこに「歳出だけでなく、国債等による資金調達も含めた『歳入』を含めるか否か」ということについても、あいまいなようなので、念のため)。
・税金についての84条のような、個別に法律による定めを求める規定(税金については、不当な課税から自由権を保護する趣旨でこうした規定が設けられたと考えられます)が存在しない以上、国政の運用上の観点から、国債発行についても60条によって衆議院の議決だけで実行できる対象として、敢えて位置づけているのが憲法の趣旨である。
・即ち、「国債発行に法律のレベルで制約をはめている財政法4条1項は憲法60条の趣旨を逸脱した違憲立法である」か、少なくとも「憲法60条にのっとって赤字国債発行を前提とした予算が成立した時点で、そちらの方が財政法4条1項に優先される(その意味では同条項は『できるだけこうすべき』という訓示規定以上の意味は持たない)」のいずれかであり、いずれにしても別途「特例公債法案」なるものを成立させる必要は無い。

と解釈・運用すべきではないでしょうか。
自民党の「一党独裁」下では特に問題にならなかったのかもしれませんが、これも政治の世界に散見される、時代の変化に取り残された「制度疲労」の1つではないでしょうか。

これが政争の具となり、震災への必要な対応がさらに遅れている(あるいは遅れかねない状況が見えてきている)ことによって、弊害がより明確になってきたのが現在の状況です(さらに言えば、この法律があることが、増税議論の背景の1つにもなっているように見えます)。

本来であれば財政法そのものを改めるべきですが、少なくとも国難を前にした緊急対応として、特に野党である自民党は、特例公債法案を人質にすることは即刻止めるべきだと思います(菅首相の進退を争いたければ、他のところで争うべきです)。

なお、財政法4条については、

「同条の意義は、戦前のわが国において安易に公債の発行による財政運営を許したことが戦争の遂行・拡大を支える一因となったことを反省し、無原則な借金財政を自らいましめることにより、健全な財政運営を行おうとする決意を表明することにあるといえよう。」
(杉村章三郎「財政法」〔新版〕/有斐閣・47ページ)

という解説がありましたが、軍部の暴走を許すようなメカニズムを抱えた大日本帝国憲法が前提となっていたことがそもそもの問題であって、これを現在の日本国憲法下の制度に当てはめるのは明らかに論点のすりかえであり、ナンセンスでしょう。
もし本当にこうした発想で政治が運営されているとすれば、それこそ時代錯誤以外の何物でもなく、直ちに発想を転換すべきです。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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