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フリードリッヒ・リスト読後雑感(産業政策、成長戦略、TPPetc.)

インターネットテレビ「チャンネルAJER」の収録を行いました。
今回のタイトルは「フリードリッヒ・リスト読後雑感(産業政策、成長戦略、TPPetc.」で、全体で約1時間のプレゼンテーションになっています(動画は前半・後半に分かれていて、それぞれ6月28日(金)と7月5日(金)にアップロードされます。)。
今回は題材として19世紀ドイツの経済学者フリードリッヒ・リストの著作で、産業保護政策による国力強化のあり方を説いた「経済学の国民的体系」を採りあげ、その内容を説明しつつ(特に自由主義経済学あるいは古典派経済学の非現実性に対する批判は、現代の我々から見ても古びておらず、大いに参考になる内容だと思います)、同書を下敷きにして今の日本の経済政策をどう考えるべきなのか、私なりの解釈の一端を述べています。

TPP亡国論」(最新では「反・自由貿易論」)などの著者として著名な中野剛志さんが書かれた「国力とは何か」「国力論」にて、経済ナショナリストの先駆けとしてリストを紹介していたのが、もともと私が同書に興味を持ったきっかけです。

同書の面白さや現代にも通じる有益な示唆について、到底伝えきれていないお粗末なプレゼンテーションになってしまったとは思いますが、下記プレゼン資料や以下に記した要約及び補足説明にはそれなりに内容を整理して盛り込んだつもりです。何らかのご参考になれば幸いです。

【プレゼン資料】
フリードリッヒ・リスト読後雑感(産業政策、成長戦略、TPPetc.).pdf

↓以下は動画へのリンク、及びプレゼンの要約及び補足説明です。
【チャンネルAjer動画へのリンク】
(前編・後編とも①はチャンネルAjerへの無料会員登録、②は月1,050円の有料会員登録が必要になります。)
フリードリッヒ・リスト読後雑感(前編)①
フリードリッヒ・リスト読後雑感(前編)②
フリードリッヒ・リスト読後雑感(後編)①
フリードリッヒ・リスト読後雑感(後編)②

前編・後編とも①については、チャンネルAjerに登録せずにユーチューブやニコニコ動画でご覧いただくことも可能です。

[前編①]




[後編①]




【プレゼンの要約及び補足説明】
リストが活躍した19世紀前半は、イギリスがいち早く産業革命を具現化して工業大国となり、それを背景とした経済力や海軍力によって覇権国家としての地位を獲得していました。
これに対してリストの祖国であるドイツでは、工業生産力でイギリスに大きく見劣りをして工業分野は輸入に頼っていたことに加え、そもそも政治的な統一すら実現していない状況にありました。

他方で経済理論としては、アダム・スミス、あるいはそのフォロワーであるJ. B. セイやデヴィッド・リカードに代表される自由主義経済学(いわゆる古典派経済学)が幅を利かせており、

「経済活動は分業を前提として極力個々人の利己心(己の利益の最大化をひたすら目指す心)にゆだねることで、全体の利益(公益即ち富全体)が最大化される」
「従って、自由貿易や国家機能最小化こそがあるべき姿である(従って関税など自国産業保護を目的とした政策は、本来の富である生産物ではなく貿易黒字によって金銀通貨を貯め込むこと自体を目的とすることで消費者の利益を損なう『重商主義』として排除されるべきである)」

という主張がなされていました。

こうした中でリストは、「特定の国民が特定の世界情勢の下で農・工・商業によって 福祉・文明・勢力をいかに達成するかを教える科学」としての「政治経済学ないし国民経済学」が必要であるとして、

・富を創り出す力は富そのものよりも無限に重要である。
国民の豊かさや国家発展の基礎となる工業生産力を育成するため、政治的結合が実現した国民国家のもとで生産力の社会的背景を整えた上で、関税や航海条令等による国内工業の保護政策を実施すべきである。

と主張しています(ただし、生産力向上のモチベーションの妨げになるような過剰な保護は否定しています)。

そして自由主義経済学については、「歴史を無視した『世界主義経済学』である(これ自体は英訳すると『Cosmopolitan Economy』となるのですが、なんだか今どきの『グローバリズム=Globalism』を連想させます)」として、以下のように批判しています(この批判は、現代の「新古典派」「新自由主義」にもほぼそのままあてはまる、古くて新しい内容と言っても言い過ぎではないと思います)。

・自由主義経済学では分業や富の効率的な配分を重視するあまり「何が生産力をもたらすのか」の追求が欠落しており、生産力の社会的背景(生命・財産の安全や自由を保障する法秩序、教育、科学技術、宗教心etc.)自体の持つ生産性、あるいはそうした要素を提供するサービス業の付加価値を無視ないし軽視している。
自由主義経済学が唱える「自由貿易が交易を最大化する」というのは、「世界連盟のもとでの永久平和」という現に存在していない前提のもとで導き出された誤った結論であり、実際には覇権国家にとって都合の良い、一方的な支配=従属関係につながるだけである(自由貿易は政治的結合が実現した地域で行ってはじめて公益の最大化につながるもので、自由主義経済学者は因果関係を取り違えている)。
・産業保護政策において貿易収支が論点となるのは、対外不均衡を要因とする信用恐慌の発生リスクを抑制する、という現実的な意味があるからであって、決して「重商主義的発想」ではない(むしろ富の効率的な配分にしか目が行かない自由主義経済学こそ「重商主義的」である)。
・そもそもアダム・スミスは、イギリス自身リストが提唱するような産業保護政策によって今日の隆盛を築いた、という歴史的事実を意図的に無視して、自国イギリスにとって都合の良い理論を展開している(ひょっとするとここまでは言い過ぎで、「恵まれた立場にいる人間の、他者への無関心」ぐらいが現実だったのかもしれませんが、いずれにしても他者にとっては迷惑な話、ということになるのでしょう)。

また同書内では、当時のイギリスにおける産業別の生産資本額(生産設備+土地の価額)と産業別GDPが示されているのですが(具体的な数字はプレゼン資料をご覧ください)、そこからは「産業規模としては現時点でマイノリティ(当時のイギリスですら、工業よりも農・鉱・漁業の規模が大きく、工業のGDPは全体の3分の1未満)であっても、生産資本1単位に対する付加価値の比率が高い産業を育成することが、国民全体の豊かさにつながる」という1つの経済原理のようなものが読み取れます(とリストが言っているわけではなく、これはあくまで私個人の解釈ですので、念のため)。

その他にも、将来におけるイギリスからアメリカへの覇権国家の交代や、それを背景とした欧州統合の動きを予見するような記述もあり、あるいはそういった洞察力の基礎となっている、近代ヨーロッパ発展の歴史に対する的確な分析など、読みどころ満載で、一読の価値がある本だと思います(そうした「予言」の一部に、あたかも後年のナチス・ドイツの対外侵略を正当化しているとこじつけられなくもない内容があり、そのことで現在に至るまで本来の価値に比してマイナーな評価を受けるようになってしまった、という事情もあるようです)。
ケインズ「一般理論」やマルクス「資本論」に比べてケタ違いにわかりやすいですし、翻訳で500ページほどあるとはいえ、スミス「国富論」よりは格段にボリュームも少ないです(ただし、下記の通りアマゾンの古書でも結構な値段がついているので、自分同様、近くの図書館で借りてみることをお勧めします)。

「そうは言っても500ページもある古典はやっぱりハードルが高い」という方には、中野剛志さんが書かれた「国力とは何か」(下記参照)がまずはお勧めだと思います。
TPP関連の著作ほど有名ではないかもしれませんが、リスト以外も含む多くの経済ナショナリストの考え方や実践を紹介しつつ、現代の日本にどうフィードバックすべきかが的確にまとめられていて、新書サイズですが経済・社会問題について考える上でのヒント満載の良書だと思います。



さて、リストの解説だけで相当文章を割いてしまいました。ここからは「経済学の国民的体系」を下敷きとした、私なりの日本経済についての考察です。
今回はさきに述べた「生産資本に対する付加価値率が高い産業の保護育成=国民経済の発展」という観点に加え、

・「国民の安全を自ら確保し、さらにはそれにつながる産業を保護育成することも国家の責務である」というリストの示唆。
・「GDP(国内総所得)拡大が民間投資を活発化し、産業力を強化する」ことを前提とした「関税=輸入抑制によるGDP拡大を通じた産業保護政策≒政府支出拡大(GDP拡大という意味では関税と同等の効果をもたらす)」という私なりの解釈。

などを踏まえて、産業別GDP統計等を概観してみました。
以下は、いくつかの産業についてのあるべき政策、あるいはアベノミクスの成長戦略についての私の見解です。

金融・保険&不動産業
それ自身が本来的な意味の富を生産する産業ではないにもかかわらず、今や産業部門の所得(≒営業利益)の5割近くを稼いでいること自体、国民経済全体としてみれば不健全な状況である(「金融・不動産の取り分が多い=物やサービスを生み出す『実業』にとっての資本コスト圧迫」であると共に、サブプライム・バブルからリーマン・ショックに至る一連の流れを見れば明らかなように、それ自身が経済不安定化の要因だからです)。
・「国内純生産÷生産資本」の指標で見ると突出した高付加価値産業であり、国内純資産の絶対額、産業全体におけるシェアのいずれも拡大トレンドにある。にもかかわらず雇用には貢献していない。
・1990年代後半以降の不良債権処理、金融破綻・再生、あるいは郵貯・簡保・共済をターゲットとした日米構造協議などからもわかるように、外資のターゲットになりやすい分野である。
・いずれの問題点の背景にもある「行き過ぎた自由化」を見直すべきなのではないか

建設業
高付加価値産業であり、かつ自然災害大国日本にとって重要な産業であるにもかかわらず、公共事業の削減とともに生産力が停滞している(震災復興、耐震強化、既存インフラ更新といった差し迫ったニーズに対して、今や供給不足の様相)。
・やはり産業保護策としての公共事業支出拡大が必要ではないか

製造業(特に電機産業)
緊縮財政がもたらす所得の伸び悩みが投資余力を減らし、国際競争力を低下させている
・重点分野への支出拡大も含めた産業保護政策がやはり必要では。

アベノミクスの成長戦略
「財政支出拡大こそが真の成長戦略」という認識が欠落し、全体としてピントがずれている(「(緊縮財政を前提とした)財政再建が第4の矢」という話が出ていることでも明らかでしょう)。
TPPについても、アメリカの政策転換による輸出減少が同国のGDP統計で既に現実化している中では明らかに労多くして益少なく、成長戦略としてはやはり的外れではないか。

(根拠となるデータ等に関してはプレゼン資料でご確認ください)


※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等下記ソーシャルボタンのクリックにご協力いただけると幸いです。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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