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続・金融政策の迷走

メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』に、「続・金融政策の迷走」というタイトルで寄稿しました。
前回の「金融政策の迷走」に続き、2016年9月21日の日銀の金融政策決定会合で決定された『「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証の「基本的見解」』を取り上げ、「デフレではなくなった」「マネタリーベースと予想物価上昇率は長期的な見解を持つ」という日銀の見解を論破しています。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/10/06/shimakura-58/

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以下では今回の記事を転載しています。


【島倉原】続・金融政策の迷走

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家

前回の「金融政策の迷走」では、先月の日銀金融政策決定会合後に発表された『金融緩和強化のための新しい枠組み:「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」』の一部であり、インフレ期待を強めるために打ち出された「オーバーシュート型コミットメント」を取り上げ、その矛盾と実効性の乏しさについて論じました。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/09/22/shimakura-57/

『新しい枠組み』のもう1つは、「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」と呼ばれていて、従来の国債買い入れペースは概ね維持しつつも、値段を指定する「指値(さしね)」で買い注文を行うことで、10年物国債金利をゼロ%程度に調節しようという政策です。
こちらは、マイナス金利政策によって10年物の長期国債利回りまでがマイナスに陥り、銀行や生命保険会社をはじめとした金融機関の経営を圧迫している、という批判を踏まえて導入したものと思われます。

ところがこの「長短金利操作」、「金融緩和を続けながら金利を引き上げる」という何とも不可思議な政策です。
案の定といいますか、金融市場の反応も定まらず、日銀自身、早くも迷走している感があります。
そうした一連の流れ、あるいは今後考えられるシナリオなどにご興味がある方には、こちらの記事が参考になるかもしれません。
↓「日銀の「新しい枠組み」に対する市場の評価」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-198.html
↓「金融市場における10月の波乱要因?」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-199.html

さて今回は、『「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果についての総括的な検証』の方に焦点を当ててみたいと思います。
『総括的な検証』では「基本的な見解」として、

「「量的・質的金融緩和」は…実質金利を低下させ…その結果、経済・物価の好転をもたらし、物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなった。」

と自画自賛する一方で、2%の「物価安定の目標」が実現できていないことに対しては、前回お伝えした3つの「外的な要因」(原油価格、消費増税後の弱い内需、新興国経済の減速)を挙げつつ、

「マネタリーベースと予想物価上昇率は、短期的というよりも、長期的な関係を持つものと考えられる。したがって、マネタリーベースの長期的な増加へのコミットメントが重要である。」

と述べられています(下記リンク先PDFファイルの5ページ目)。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160921a.pdf

まず、「物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなった」と述べられていますが、果たして実態はどうでしょうか。
例えば、2016年9月8日に公表された、四半期GDP統計のデフレーター(季節調整系列)の動きを見てみましょう。

最新の統計は2016年4-6月期で、消費税増税から既に2年が経過しています。
増税が行われた2014年4-6月期以降を観察対象とする限り、増税による「デフレーターかさ上げ効果」は存在しないので、デフレーターの動きはそのまま実態を表していると考えられます。
そして、その間のGDPデフレーターは、「2014年4-6月期:91.1→2015年4-6月期:94.4→2016年4-6月期:95」と推移しており、これだけ見れば確かに「物価が持続的に上昇している」かのようです。

しかしながらGDPデフレーターには、日銀自身が物価安定目標の阻害要因の1つとして挙げた「原油価格の下落」による「輸入デフレーターの下落」によってむしろ上昇するという、いわば「統計のマジック」が存在します。
したがって、これだけでは「デフレではなくなった」という結論は出せません。

そこで、デフレーターの中でも国内物価の実態をストレートに反映している指標を確認してみましょう。
こちらについては

民間最終消費支出デフレーター「2014年4-6月期:95.5→2015年4-6月期:95.4→2016年4-6月期:94.7」
民間需要デフレーター「2014年4-6月期:96.3→2015年4-6月期:96.2→2016年4-6月期:95.5」

などなど、むしろ2年連続すなわち「持続的に」下落しているのです。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe162_2/gdemenuja.html

これに対しては、総務省が発表している消費者物価指数の「総合」や「食料及びエネルギーを除く総合」は持続的に下落していない、という反論が考えられるでしょう。
しかしながら、「生鮮食品を除く総合」などは、最新の2016年8月時点で2年連続下落しています。
「総合」にしても直近では前年比マイナスですし、かろうじてプラスを維持している「食料及びエネルギーを除く総合」の上昇率にしても、たかだか0.2%に過ぎません。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001074278&cycode=0

また、もともとデフレではない国、例えばアメリカでは、FRBがなかなか利上げに踏み切れない状況とは言いながらも、エネルギーの影響を含んだ指標についても前年比1%を超えるプラスのトレンドを維持しており、日本の状況とは明らかな差があります。
こういった事実を踏まえれば、主要統計の1つであるGDP統計がむしろデフレ状況を示している中で、長期デフレに苦しんできた日本経済が「量的・質的金融緩和によってデフレではなくなった」というのは、相当に飛躍した結論なのではないでしょうか。

次に、「マネタリーベースと予想物価上昇率は、短期的というよりも、長期的な関係を持つものと考えられる」という見解はどうでしょう。
ちなみに、この部分に対しては、審議委員の1人である佐藤健裕氏が反対意見を述べているようです。

もともと、現在の金融政策の理論的支柱であるリフレ派の岩田規久男・日銀副総裁は、「中央銀行がマネタリーベースを増やすと民間銀行がその乗数倍だけ貸し出しを増やし、実体経済に流通する通貨であるマネーストックがその分増加する(結果としてインフレや名目経済成長が実現する)」という「主流派経済学の貨幣乗数理論」を唱え、25年ほど前から「かつての」日銀を批判してきました。
ところが、まさしく岩田氏が批判を始めた頃から現在に至るまで、そうした関係は実際には成り立たないことが、日本経済の現実によって示されています。
(リフレ派の源流であるマネタリズムを唱えたミルトン・フリードマンも全く同様な論理で、1930年前後の大恐慌当時のFRBの金融政策、ひいては財政政策を重視するケインズ経済学を「ウソ」を交えて批判し、どういう訳かこちらも市民権を得てしまいました)
そうした中で、「マネタリーベースとマネーストックの間には『長期的に』貨幣乗数理論が成り立っているのだから、中央銀行がマネタリーベースを大胆に増やすと言えば人々の予想物価上昇率が上昇し、間もなく実際の物価も上昇する」という「期待インフレ理論」を唱えたのがかのポール・クルーグマンで、リフレ派の人々もそれに飛びついたという訳です。

期待インフレ理論の時間軸がどの程度のものか、理論上は定かではありませんが、現在の日銀執行部がもともと「(予想ではなく現実の)消費者物価の前年比上昇率の2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に達成する」(2013年4月4日公表の『「量的・質的金融緩和」の導入について』1ページ。カッコ内は筆者)と言っていたことからすれば、予想物価上昇率の上昇の方は少なくとも2年より短い、ごくごく短期間で達成されると想定されていたはずです。
ところが、現実にはそうは問屋がおろさず、今回の『総括的な検証』では、貨幣乗数のみならず予想物価上昇率についても、実現時期を「短期的」から「長期的」にすり替えざるを得なくなった、という次第です。

そもそも上述したように、貨幣乗数理論自体が現実にはかれこれ25年近く成り立っていない訳ですから、「25年はまだまだ長期ではない」といった非現実的な思考を巡らさない限り、期待インフレ理論はその前提から既に破たんしているということになります。
したがって、同理論が現実に成り立たなかったのは、ある意味当然の帰結でしょう。
これは、1995年に時の武村大蔵大臣によって「財政危機宣言」が出されてはや20年が経つにもかかわらず、未だに財政が破綻しない、日本経済のもう1つの現実と全く同様の構図です。

本来であればこうした場合、期待インフレ理論にしろ(財政危機宣言の背後にあった)均衡財政論にしろ、現実に合わない誤った理論そのものを根底から考え直すのが、科学的、合理的なアプローチであるはずです。
ところが、20年たっても未だに財政破たん論が後を絶たないのと同様に、今回の『総括的な検証』もまた、実現時期のすり替えによってお茶をにごす形で行われてしまいました。
本当の意味で「デフレではなくなった」というゴールにたどり着くには、まずはこうした状況から変えていく必要があるのではないでしょうか。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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