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原発問題と緊縮財政

メルマガ『三橋貴明の「新」経世済民新聞』に、「原発問題と緊縮財政」というタイトルで寄稿しました。
経済産業省が12月9日に発表した、福島第一原発の廃炉や賠償などの費用総額が3年前に想定したほぼ倍額の21.5兆円に達するという見積もりに関するニュースを取り上げ、費用負担が一般の国民に転嫁されると共に電力インフラが長期的に弱体化する、いわば「緊縮財政の負のスパイラル」が働いている現状に警鐘を鳴らしています。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/12/15/shimakura-63/

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以下では今回の記事を転載しています。

【島倉原】原発問題と緊縮財政

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)

先週、福島第一原発の廃炉や賠償などの費用総額が21.5兆円に達するとの見積もりが、
経済産業省によって発表されました。
3年前の見積もり額の約2倍にあたる金額で、その分は電気料金に上乗せされる見込みです。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H58_Z01C16A2EA2000/

日本経済新聞の上記記事にもあるように、国が一時的に立て替えた賠償費用も含め、
ほとんどの支払責任は電力会社が負っています。
電力会社の経営を維持するにはその分収入も増やす必要があり、送電線利用料という形の
間接的な転嫁も含め、電力の最終利用者である家庭や企業の負担に反映される構図です。
消費者の立場を代弁する有識者会議の委員からは、当然ながら批判の声が上がっています。

この部分だけ取り上げれば、家計・電力会社・それ以外の企業といった、
単に民間経済主体の間でコストをどう分担するかの問題に見えるかもしれません。
しかしながら、前回取り上げた年金問題と全く同様に、
ここにも政府の緊縮財政方針が、影を落としていると考えられるのです。

もともと原発が日本に導入されたのは、民間企業による営利企業の論理ではなく、
安全保障という国家的見地によるものです。
しかしながら、「原子力損害の賠償に関する法律」によれば、
原発事故で損害が生じた場合、
損害賠償については原子力事業者、すなわち原発を運営する電力会社が、
原則として無限責任を負うこととされています。
いわゆる「国策民営」体制と呼ばれるものです。

実際は、東日本大震災で生じた福島第一原発の事故による損害を、
事業者である東京電力の資金力だけでは到底まかなうことができないため、
これまた上記の法律に基づき、政府支援の下で弁済を続けています。
しかしながら、最終的な資金負担者は政府ではなく、あくまでも民間の電力会社。
その経営を維持するには、電力料金の値上げでその分の帳尻を合わせる必要がある。

こうした現行制度の枠組みが、冒頭で述べた記事の内容につながっていくわけですが、
原発導入のそもそもの目的が安全保障という公益的な目的であり、
しかも実際に事故が起こってみれば、民間事業者である電力会社には、
到底自力では賠償責任を負いきれない程の損害が発生する。
だとすれば、通貨発行権を持ち、財政赤字が拡大しても破たんすることはない
日本政府が一義的には賠償責任を負うこととし、
その前提に見合った役割分担や経済条件の下で、平時の原発も運営するのが妥当でしょう。

にもかかわらず、財政赤字の拡大を嫌い、緊縮財政のスタンスを維持する日本政府は、
賠償責任を電力会社に負わせ、経済的な負担は一般国民に転嫁する制度を維持している。
まさしく、年金保険料を引き上げつつ給付水準を引き下げようという意図の下で進行中の、
年金制度改革と全く同じ構図が存在するのです。

さらに言えば、上記「原子力損害の賠償に関する法律」の賠償責任に関する定め自体、
均衡財政主義の発想に基づいて55年前に制定されたものなのです。
このあたりの事情も含めた「国策民営」体制の成り立ちにご興味がある方には、
例えばこちらの書籍などが参考になると思います。
http://amzn.to/2guPkWB

そして、こうした緊縮財政が引き起こした日本経済の長期停滞が、
民間事業者である電力会社の設備投資意欲を長期的に低下させ、
結果として電力インフラの安全性が低下し、原発事故の遠因ともなった。
これが、拙著『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』
でも指摘したメカニズムです。
(二番目のURLはあらすじをまとめたブログ記事です)
http://amzn.to/1HF6UyO
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-94.html


電力・電灯料金が家計や企業に与える影響は、年金保険料の半分以下に過ぎませんが、
それでも年間15兆円を超える、巨大な金額です。
しかも、上述した緊縮財政の負のスパイラルは現在も続いており、
電力インフラの安全性や供給能力、ひいてはエネルギー安全保障を確実にむしばんでいる。
そう考えれば、決して単なる民間同士のコスト分担の問題ではなく、
政府が果たすべき役割も含め、より公益的な見地から議論されるべきではないでしょうか。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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