アベノミクスで雇用は改善していない
メルマガ『三橋貴明の「新」経世済民新聞』に、「アベノミクスで雇用は改善していない」というタイトルで1月12日に寄稿予定です。
パネリストとして出演したチャンネル桜の討論番組「闘論!倒論!討論!2017:平成29年経済大予測」(1月7日放送)を題材に、有効求人倍率や失業率といった雇用指標が改善しているのは、リフレ派が主張するようなアベノミクスなる経済政策の成果ではなく、生産年齢人口減少による人手不足の結果に過ぎないことを解説しています。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2017/01/12/shimakura-65/
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http://www.mag2.com/m/0001007984.html
以下では今回の記事を転載しています。
【島倉原】アベノミクスで雇用は改善していない
From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)
先週放送のチャンネル桜討論番組「闘論!倒論!討論!2017:平成29年経済大予測」に、
パネリストの1人として参加しました。
番組は、こちらのユーチューブサイトからもご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=e3uLR5y7LAg
今回は、本メルマガの執筆陣から三橋さん、藤井さん、私の3名が参加。
ニュアンスの違いはあるかもしれませんが、
「2014年以降の緊縮財政のもと、日本経済は内需を中心に深刻な需要不足」
「金融緩和に偏重した政策の失敗は明らかで、必要なのは財政支出を拡大する積極財政」
「中国の動向が不透明な中、緊縮財政は安全保障上の重大なリスク要因ともなっている」
という点で、総じて一致していたのではないかと思います。
これに対して、いわゆるリフレ派からは高橋洋一氏と野口旭氏が参加し、
「積極財政をやるべきなのは同意。自分達も最初から『財政政策も重要』と言っていた」
「金融緩和主体のアベノミクスもそれなりの成果、特に雇用の改善をもたらしている」
という議論を展開していました。
リフレ派の最初の議論については、その場では突っ込みきれませんでしたが相当に疑問。
同じくリフレ派の浜田宏一氏が、財政政策無効の論拠としてマンデル=フレミング理論を
持ち出したことが話題になった際には、「リフレ派の主張も人それぞれ」とのことでしたが、
こちらの本の32ページで、
「変動為替相場制のもとでは、財政政策よりも金融政策の効果のほうが大きく、
理論的には財政政策の効果はない」
と堂々と主張していたのは、他ならぬ高橋氏だったと思うのですが、記憶違いでしょうか?
http://amzn.to/2ibNS0L
なお、マンデル=フレミング理論を持ち出して財政政策や金融政策の有効性を議論する
ことの理論的・実証的な問題点について確認するには、こちらが参考になると思います。
http://amzn.to/1HF6UyO
では二番目の「金融緩和が雇用の改善をもたらしている」という議論はどうでしょう。
対して、「雇用指標の改善をもたらしている要因は人手不足であって、アベノミクスの成功
ではない」ということを示すため、当日用意したのがこちらのグラフです。
https://twitter.com/sima9ra/status/819145507318566912
http://bit.ly/2j0MET8
このグラフで示した有効求人倍率は、雇いたい意欲すなわち労働力への需要が、
雇われたい意欲すなわち労働力の供給に対して相対的に強くなれば上昇し、
雇用環境が改善したと評価されます。
1970年代以降アベノミクス直前までは、20年弱の周期で訪れる不動産バブルの過熱と共に
ピークを迎えていました。
そして現在、確かに有効求人倍率は1990年前後のバブル期並みに上昇しています。
問題は、供給に対する需要の相対的な強まりが実現する経路には大きく二通りあること。
まず一つは経済活動が活発になり、需要の絶対水準が高まる場合。
この場合は有効求人倍率の上昇と共に、実際に雇われる人数も増加するでしょう。
もう一つは経済動向とは無関係に、労働力の供給水準が低下する場合。
こちらの場合は有効求人倍率の上昇と共に、逆に雇われる人数が減少することでしょう。
したがってリフレ派の主張が正しいなら、直近において雇われる人数が増加しているはず。
その指標となるのが上記グラフの「新規就職件数」なのですが、
ご覧のとおり、新規就職件数はむしろ減少しています。
すなわち、直近における有効求人倍率の上昇要因は、過去の不動産バブル期とは異なり、
景気回復ではなく、生産年齢人口減少で、雇われたいニーズが減少した結果に過ぎません。
そもそも、前回も紹介したように内需GDPが3四半期連続で前年割れとなっている状況で、
「アベノミクスで景気が回復し、雇用環境が改善している」と言えるはずもないのです。
https://twitter.com/sima9ra/status/813749953910730752
http://bit.ly/2htArcb
同様な実態は、一貫して労働者の主力である25~54歳男性の就業状況でも確認できます。
経済の長期停滞に伴う増加が問題視されている非正規社員を含めてもなお、
当該年代の男性の絶対的な就業者数は、2000年代以降未だに減少トレンドを続けています。
https://twitter.com/sima9ra/status/819145926493077504
http://bit.ly/2j0Mon8
就職をあきらめて失業者にもカウントされない「非労働力人口」も加味すると、
完全雇用状態と比較して、この年代の男性だけで約90万人分の需要不足が存在します。
こうした環境で、仮に雇用指標の改善が景気回復によって労働力需要が増大した結果なら、
アベノミクス開始から約4年、就業者数の減少トレンドが反転しないのは明らかに不自然。
すなわち、雇用指標の改善自体は事実としても、それはアベノミクスの成果などではなく、
やはり生産年齢人口減少による、人手不足の結果と言わざるを得ません。
ところがリフレ派のように、アベノミクスがそれなりの成果を上げていると考えると、
現状に対する危機感がさほど湧いてこないことになります。
そこに、「中国経済はこのまま衰退していくに決まっている」という、
景気循環論から見ればいささか楽観的に過ぎる前提などが加わると、
「緊縮財政による経済の長期停滞が、国力低下や安全保障リスク増大につながっている」
という、本メルマガ執筆陣共通の危機感とは相当なギャップが生まれるのも無理のない話。
そうした観点も交えてご覧になれば、後半の中国経済の動向に関する議論も含め、
今回の番組をより堪能いただけるような気がします。
https://www.youtube.com/watch?v=e3uLR5y7LAg
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パネリストの1人として参加しました。
番組は、こちらのユーチューブサイトからもご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=e3uLR5y7LAg
今回は、本メルマガの執筆陣から三橋さん、藤井さん、私の3名が参加。
ニュアンスの違いはあるかもしれませんが、
「2014年以降の緊縮財政のもと、日本経済は内需を中心に深刻な需要不足」
「金融緩和に偏重した政策の失敗は明らかで、必要なのは財政支出を拡大する積極財政」
「中国の動向が不透明な中、緊縮財政は安全保障上の重大なリスク要因ともなっている」
という点で、総じて一致していたのではないかと思います。
これに対して、いわゆるリフレ派からは高橋洋一氏と野口旭氏が参加し、
「積極財政をやるべきなのは同意。自分達も最初から『財政政策も重要』と言っていた」
「金融緩和主体のアベノミクスもそれなりの成果、特に雇用の改善をもたらしている」
という議論を展開していました。
リフレ派の最初の議論については、その場では突っ込みきれませんでしたが相当に疑問。
同じくリフレ派の浜田宏一氏が、財政政策無効の論拠としてマンデル=フレミング理論を
持ち出したことが話題になった際には、「リフレ派の主張も人それぞれ」とのことでしたが、
こちらの本の32ページで、
「変動為替相場制のもとでは、財政政策よりも金融政策の効果のほうが大きく、
理論的には財政政策の効果はない」
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対して、「雇用指標の改善をもたらしている要因は人手不足であって、アベノミクスの成功
ではない」ということを示すため、当日用意したのがこちらのグラフです。
https://twitter.com/sima9ra/status/819145507318566912
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このグラフで示した有効求人倍率は、雇いたい意欲すなわち労働力への需要が、
雇われたい意欲すなわち労働力の供給に対して相対的に強くなれば上昇し、
雇用環境が改善したと評価されます。
1970年代以降アベノミクス直前までは、20年弱の周期で訪れる不動産バブルの過熱と共に
ピークを迎えていました。
そして現在、確かに有効求人倍率は1990年前後のバブル期並みに上昇しています。
問題は、供給に対する需要の相対的な強まりが実現する経路には大きく二通りあること。
まず一つは経済活動が活発になり、需要の絶対水準が高まる場合。
この場合は有効求人倍率の上昇と共に、実際に雇われる人数も増加するでしょう。
もう一つは経済動向とは無関係に、労働力の供給水準が低下する場合。
こちらの場合は有効求人倍率の上昇と共に、逆に雇われる人数が減少することでしょう。
したがってリフレ派の主張が正しいなら、直近において雇われる人数が増加しているはず。
その指標となるのが上記グラフの「新規就職件数」なのですが、
ご覧のとおり、新規就職件数はむしろ減少しています。
すなわち、直近における有効求人倍率の上昇要因は、過去の不動産バブル期とは異なり、
景気回復ではなく、生産年齢人口減少で、雇われたいニーズが減少した結果に過ぎません。
そもそも、前回も紹介したように内需GDPが3四半期連続で前年割れとなっている状況で、
「アベノミクスで景気が回復し、雇用環境が改善している」と言えるはずもないのです。
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経済の長期停滞に伴う増加が問題視されている非正規社員を含めてもなお、
当該年代の男性の絶対的な就業者数は、2000年代以降未だに減少トレンドを続けています。
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就職をあきらめて失業者にもカウントされない「非労働力人口」も加味すると、
完全雇用状態と比較して、この年代の男性だけで約90万人分の需要不足が存在します。
こうした環境で、仮に雇用指標の改善が景気回復によって労働力需要が増大した結果なら、
アベノミクス開始から約4年、就業者数の減少トレンドが反転しないのは明らかに不自然。
すなわち、雇用指標の改善自体は事実としても、それはアベノミクスの成果などではなく、
やはり生産年齢人口減少による、人手不足の結果と言わざるを得ません。
ところがリフレ派のように、アベノミクスがそれなりの成果を上げていると考えると、
現状に対する危機感がさほど湧いてこないことになります。
そこに、「中国経済はこのまま衰退していくに決まっている」という、
景気循環論から見ればいささか楽観的に過ぎる前提などが加わると、
「緊縮財政による経済の長期停滞が、国力低下や安全保障リスク増大につながっている」
という、本メルマガ執筆陣共通の危機感とは相当なギャップが生まれるのも無理のない話。
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