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グローバリズムの軌道修正(その2)

メルマガ『三橋貴明の「新」経世済民新聞』に、「グローバリズムの軌道修正(その2)」というタイトルで寄稿しました。
グローバリズムに反発するアメリカ国民の支持によって誕生したトランプ政権が、実は自国の利益を前面に押し出すことで、結果としてアメリカ主導のグローバリズムをより一層推し進めることになりかねない構図について論じています。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2017/01/26/shimakura-66/

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http://www.mag2.com/m/0001007984.html

以下では今回の記事を転載しています。

【島倉原】グローバリズムの軌道修正?(その2)

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)

トランプ第45代アメリカ大統領が、就任式で「アメリカ第一」を掲げつつ、
「保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながる」(NHK訳)と唱えたのは周知のとおり。
本日は、原文・日本語訳の両方が載っているイギリスのBBCのサイトを引用しながら、
その意味を考えてみたいと思います。
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-38702737

ところで、今回のタイトルに「その2」と付いている理由ですが、
実は昨年11月3日号のタイトルも「グローバリズムの軌道修正?」だったもので…。
ただし、前回と今回とでは主役が異なるため、軌道修正の方向がかなり違うかも?
ちなみに、こちらが前回の記事となります。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/11/03/shimakura-60/

さて、「アメリカ第一」とはすなわち、

Every decision on trade, on taxes, on immigration, on foreign affairs, will be made to
benefit American workers and American families.
(貿易、税金、移民、外交に関するすべての決断は、
アメリカの有権者とアメリカの家族の利益となるよう行われます。)


ということ。他方で、

We will seek friendship and goodwill with the nations of the world - but we do so with
the understanding that it is the right of all nations to put their own interests first.
(私たちは世界の国々との間に友情、そして友好を求めます。しかしその前提には、
すべての国は自国の利益を優先する権利があるという認識があります。)


あるいは、

We do not seek to impose our way of life on anyone, but rather to let it shine as an
example - we will shine - for everyone to follow.
(私たちは自分たちの生き方をほかの誰にも押し付けようとはしませんが、
むしろお手本として輝くように、私たちは輝きますから、
ほかの人たちが見習うべきお手本として輝くようにします。)


とも述べられています。

これは、自由貿易を拡大し、世界の一体化を進めるグローバリズムの時代が終わり、
各国の利益が尊重される時代が来るということなのでしょうか。
どうもそう単純な話ではなさそうです。

確かにトランプ大統領、公約通り、環太平洋連携協定(TPP)からの正式離脱に関する
大統領令に署名しました。
他方で、イギリスのメイ首相とは二国間の自由貿易協定を協議すると言われていますし、
カナダ、メキシコと締結している北米自由貿易協定(NAFTA)についても、
行うのはあくまで再交渉に関する首脳会談です。
http://jp.reuters.com/article/usa-trump-executiveorders-idJPKBN1572MU
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM22H1P_S7A120C1MM8000/

そもそも「自由貿易」とはいっても、そこには何らかのルールが存在するもの。
それを首都ワシントンの主流派が恩恵をこうむるこれまでの枠組みではなく、
アメリカの一般有権者やその家族の利益となるように作りかえること。
それこそが、 “America First”(アメリカ第一)の目指すものではないでしょうか。

これまでの枠組みとは、第2次世界大戦後、共産主義勢力に対抗するため、
終戦時には世界の生産力の4割を保有するともいわれた貿易黒字大国のアメリカが、
西欧や日本の復興を支援すると共に、輸出市場として自国を開放する中で形成されたもの。
そして冷戦終了後は、「アメリカの一極支配」ともいわれる中、かつての対抗勢力だった
中国やロシアなどもその枠組みに取り込む形でグローバル化がさらに進展した。
トランプ流に言えば、

For many decades, we've enriched foreign industry at the expense of American industry;
(何十年も前から私たちは、アメリカの産業を犠牲にして外国の産業を豊かにしてきました。)


といったところでしょうか。

他方でトランプ氏は、グローバル化の推進力となってきた金融自由化については、
むしろリーマン・ショック後の規制強化を批判し、その緩和を唱えています。
また、自国の利益を優先するというのなら、国際基軸通貨としての米ドル、
あるいはグローバルな公用語としての英語(米語)の地位を保持しながら、
その威力を最大限活用しようとするかもしれません。

そうなると、「すべての国は自国の利益を優先する権利がある」、
あるいは「自分たちの生き方をほかの誰にも押し付けようとはしません」と言いつつも、
そこにあるのは各国の利益の尊重どころか、

「これまで以上に自国のエゴをむき出しに、グローバル化を推進しようとするアメリカ」

ではないでしょうか。

そこで想定されるのは、「保護」の対象を同盟国から自国民や自国産業にシフトする一方、
通貨や言語における競争優位性は維持しつつ、「自国の利益を優先する権利」の建前のもと、
国家間の自由競争を推し進め、結果自国の権益を拡大しようという枠組みです。

もちろん、グローバル化の行き詰まりを背景としてトランプ大統領が誕生したのも事実。
ただし、そうしたグローバル化の行き詰まり自体、景気循環の一局面とも解釈可能であり、
トランプ大統領の誕生も、次のグローバル化局面に転じる前の過渡期現象と考えられます。
なお、景気循環現象としてのグローバル化については、こちらの記事などをご参照下さい。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/02/11/shimakura-34/

そもそも歴史をたどってみれば、19世紀から第1次世界大戦前、
あるいはそれ以前のグローバル化が進展した時代のいずれを見ても、
一極支配のもとで成り立っていたというわけではありません。

だとすれば、冷戦終了から2000年代前半までの時期が極めて例外的だったのか、
あるいはつかの間の「一極支配の幻想」に過ぎなかったと捉えるべきではないでしょうか。
そう考えれば、今起こっていることはグローバリズムの終焉などではなく、
単にこれまで繰り返されてきた歴史的なパターンのもとでの

「アメリカを(一極ならぬ)主役としたグローバリズムの軌道修正」

に過ぎないのかもしれないのです。

ところで、NHKが

「保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながる」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170121/k10010847631000.html

あるいは他のメディアが

「防御が、大いなる繁栄と強さをもたらすのです。」(朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASK1P2Q3HK1PUHBI028.html
「(自国産業の)保護こそが素晴らしい繁栄と強さにつながる。」(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM21H3S_R20C17A1EB2000/

などと訳した

“Protection will lead to great prosperity and strength.”

という例の一文ですが、
BBC訳では

「保護によって、繁栄と力は『拡大』します。」(『』は筆者)
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-38702737

となっています。
よもや、今回の結論を暗示しているわけでもないでしょうが…。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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