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経済政策をめぐる混迷のスパイラル

三橋貴明の「新」経世済民新聞』に、「経済政策をめぐる混迷のスパイラル」というタイトルで寄稿予定です。
「失業率の22年ぶりの低下は人口構造の変化によるもので、アベノミクスの成果ではない」という三橋さんの説の裏付けを異なる角度から示しつつ、アベノミクスのように誤った経済政策が過大評価される背景には、景気循環に対する人々の認識の歪みが存在することを論じています。
(↓2017年4月6日追記:下記のサイトに掲載されました)
https://38news.jp/economy/10306

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http://www.mag2.com/m/0001007984.html

以下では今回の記事を転載しています。

【島倉原】経済政策をめぐる混迷のスパイラル

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)

先週4月1日の三橋貴明さんの記事は、失業率が22年ぶりに3%を切った要因は
アベノミクスの成果ではなく、人口構造の変化、すなわち生産年齢人口比率の低下と
高齢化による介護需要の増加であることを指摘するものでした。
加えて翌2日のブログでは、2014年の消費税8%への引き上げ以降、
実質賃金と実質消費が落ち込み、日本国民が貧困化する状況が伝えられています。
https://38news.jp/economy/10282
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12261799689.html

そもそも、緊縮財政の本格化をきっかけとして1997年に名目GDPが頭打ちとなり、


利益を伸ばす機会が失われた企業部門の国内での投資意欲が低下し、


同時に雇用即ちヒトへの投資意欲も低下して賃金も下落に転じ、家計消費も停滞する、


こうしたデフレスパイラルが既に20年近く続いていることは、前回もお伝えした通りです。
https://38news.jp/economy/10235

ここで改めて、この間の就業者数の推移を確認してみましょう。
雇用形態別の推移を、国内製造業の生産能力と共に示したのが下記のグラフです。


就業者数も製造業の生産能力も、企業の投資意欲低下を反映し、
賃金同様、やはり1997年がピークとなっています。
実は第2次安倍政権が始まった2012年12月以降、就業者数は多少増えてはいるのですが、
非正規雇用者数が全体の就業者数以上に増えており、それ以外はむしろ減少しています。

しかもこの間、製造業の生産能力はほぼ一貫して低下し続けています。
やはり三橋さんもご指摘のとおり、失業率低下は経済全体の好転を反映したものではなく、
人口構造の変化によって雇用環境が改善している風に「見える」だけではないでしょうか。

ちなみに前回はアメリカとも対比しながら、日本企業の投資意欲低下を示しました。
アメリカの雇用者数はリーマン・ショックからも回復して過去最高水準に達しています。
意外に思われる方も多いかもしれませんが、製造業の生産能力についても、
リーマン・ショック前の水準を未だ下回るものの、長期的には右肩上がりとなっています。


アメリカと言えば、トランプ政権が「アメリカ・ファースト」を掲げて国内雇用を重視し、
主要な対米貿易黒字国として、中国と共に日本をやり玉に挙げています。
しかしながら実際はむしろ、こちらから文句を言いたくなるような状況なのです。
もちろん、日本の停滞は緊縮財政という自らの失政によるものですから、
アメリカからすれば文句を言われる筋合いは全く無い訳ですが…(笑)

さて、三橋さんは3日の記事で、何らかの理由で「一見、好景気に見える」状況の下で、
デフレ化政策が推進される構図が日本に存在することを指摘され、
その例として、小泉政権の頃のアメリカの不動産バブルを挙げておられました。
そういえば、当時も非正規雇用ばかりが増え、「実感なき景気回復」なんて言われましたね。
https://38news.jp/economy/10293

アメリカの不動産バブルといえば、グローバルな景気循環によってもたらされたもの。
以前、「現在は不動産バブルの裏サイクルの、周期的なITバブルの局面ではないか」
と述べましたが、巷でも「半導体業界は2000年以来の活況」という指摘があるようです。
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/031300069/031300001/

だとすれば、消費すなわち内需が不振で、国内経済が改善しているとは言い難い中、
第2次安倍政権以降株価が上昇した根本的な要因も「異次元の金融緩和」などではなく、
リーマン・ショックからの回復を経てITバブルの波に乗った、
アメリカを中心としたグローバルな景気循環と考えるべきかもしれません。
(金融緩和の効果が「ゼロ」と言うつもりはもちろんありませんが)

そういえば、外的要因で好景気が演出された小泉政権の頃にも量的緩和が行われ、
そのことが「(財政政策よりも)金融緩和の方が有効」という誤った思い込みにつながり、
のちにはリフレ派の正当化の根拠にも用いられました。
景気循環の様相こそ当時とは異なるものの、今また同じ過ちが繰り返されているようです。

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tag : 日本経済 アベノミクス 三橋貴明 財政政策 金融政策 失業率 非正規雇用

コメント

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金融緩和は雇用創出に繋がるのか

以前コメントさせて頂きました者です。
その節は返信を頂きまして、誠にありがとうございます。

私自身のスタンスは金融緩和だけでは物価は上がりにくい、
ただ雇用の改善には一定程度効果はあったと見ている者です。

本日の記事では、

・日本の就業者数と製造工業生産能力の推移
・日本の就業者数/雇用者数と製造工業生産能力の推移

という2つのグラフから、就業状況は改善されたとは言い難いとのことですが、率直に日本の就業者数に対するグラフの目盛が大き過ぎるのでは?と思いました。
(100=約6000万人とした場合、120=約7200万人となることは、まずあり得ないことですから。)
グラフの目盛をもっと小さく1単位区切りにすれば、日本の就業者数が増えていることが伺えるのではないかと思います。
1単位=約60万人でも増えることは、失業率には大きく影響を及ぼすと思います。

また、金融緩和について、リフレ派の意見ですと、「金融緩和は円安・株高をもたらす」というのが、その根底にあると見ているのですが、島倉さんは、この根底自体も否定的に見ていらっしゃいますか?

合わせて、金融緩和の効果か否かは分かりませんが、株価が民主党政権下の8000円から、現在は2万円近くと、2倍以上に上がったのは事実です。
この株価が2倍以上に上がったことが、企業の雇用創出意欲をかき立てて、現在の人手不足の状況を生んだとも思えるのですが、この辺りは株のスペシャリストとして、どうご覧になりますか?

企業の株価上昇は、企業の雇用創出に繋がると思いますか?

島倉さんのご意見を頂けると幸いです。

無論、現状で満足することなく、もっと財政をふかさないと、日本経済は成長せず停滞したままであるという危機意識は共通理念として持っております。

Re: 金融緩和は雇用創出に繋がるのか

コメントありがとうございます。

今回の拙稿で指摘したのは「日本の就業者数はアベノミクス以降『増えている』ものの、非正規雇用者を除くとむしろ『減少している』」という事実ですし、他方で今回グラフでも示した通り、現にアメリカでは2010年以降(若干定義は異なりますが)非農業部門の雇用者数が12%増えている訳ですから、目盛を小さくすれば日本の就業者が増えていることが伺えるはず、というご指摘は当たらないのではないでしょうか。

今回も述べたように、私自身、金融緩和の効果が「ゼロ」と言うつもりはありません。
しかしながら、特に日本の場合、企業にとっては雇用の調整弁的で変動費的な存在である非正規雇用者ばかりが増えている事実は、前回、今回と『「新」経世済民新聞』で示した「1998年以降、企業が日本国内で投資する意欲を失っている」状況が就業環境に反映されていると考えられますし、今回も述べたように、その非正規雇用者の増加すら、外部要因でゲタを履かされた部分があることを踏まえると、到底評価に値するレベルではないと言うべきでしょう。
今回も最初に使った、これまでも繰り返しお示ししてきたグラフでも明らかなように、金融緩和はアベノミクス以前から、既に過剰なまでに行われている(にもかかわらず、名目GDPは全く成長しなかった)のが、客観的、長期的に見た事実なのです。

しかも、金融緩和はここに来て、むしろそのデメリットの方が顕著になっています。
まず、これまでも何度となく指摘しましたが、銀行や保険会社の収益を圧迫し、貯蓄型保険商品の廃止や保険料値上げを引き起こして家計負担を圧迫しています。
女性を中心とした非正規雇用の増加には、場合によっては「雇用環境の改善」という因子以上に、「苦しくなった家計の補てん」という側面があることも無視すべきではないでしょう。

また、金融緩和の効果は株価を通じてという不明確かつ実在したとしても効果も限定的(日本では、家計の株式資産の保有率が低く、給与の株価連動性も低い)と考えられる経路よりも、むしろ同じく資産である不動産の価格を上げることでその取引を活発にしたことにあると考えるべきだと思います。
そのことは(医療・介護ほどではないにしろ)不動産・物品賃貸業の雇用がリーマン・ショック以前より拡大している事実にも現れています。
しかしながら、そうしたバブル的なものは所詮長続きせず、むしろ将来の金融危機の要因にもなり得るでしょうし、明らかに供給過剰なマンション投資などへのヒト・モノ・カネの浪費をもたらしています(片や、人手不足やそれが生じている分野での雇用環境の劣悪さ、あるいは建設資材の価格高騰が指摘されているにもかかわらず、です)。
これもまた、金融緩和のデメリットと言えるでしょう。
そして、非正規雇用や不動産業における雇用の増加が金融緩和の主な効果であったとすれば、それはそもそも「改善」と言えるのかすら、問い正されるべきではないでしょうか。

こうした事実があるにもかかわらずなお、「効果がないわけではない」の一事を以って、この期に及んでも金融緩和を擁護することは、日本全体にとってはむしろマイナスであると考えられます。
ダメなものはダメ、間違いは間違いであると、きっちり否定すべきではないでしょうか。

> 以前コメントさせて頂きました者です。
> その節は返信を頂きまして、誠にありがとうございます。
>
> 私自身のスタンスは金融緩和だけでは物価は上がりにくい、
> ただ雇用の改善には一定程度効果はあったと見ている者です。
>
> 本日の記事では、
>
> ・日本の就業者数と製造工業生産能力の推移
> ・日本の就業者数/雇用者数と製造工業生産能力の推移
>
> という2つのグラフから、就業状況は改善されたとは言い難いとのことですが、率直に日本の就業者数に対するグラフの目盛が大き過ぎるのでは?と思いました。
> (100=約6000万人とした場合、120=約7200万人となることは、まずあり得ないことですから。)
> グラフの目盛をもっと小さく1単位区切りにすれば、日本の就業者数が増えていることが伺えるのではないかと思います。
> 1単位=約60万人でも増えることは、失業率には大きく影響を及ぼすと思います。
>
> また、金融緩和について、リフレ派の意見ですと、「金融緩和は円安・株高をもたらす」というのが、その根底にあると見ているのですが、島倉さんは、この根底自体も否定的に見ていらっしゃいますか?
>
> 合わせて、金融緩和の効果か否かは分かりませんが、株価が民主党政権下の8000円から、現在は2万円近くと、2倍以上に上がったのは事実です。
> この株価が2倍以上に上がったことが、企業の雇用創出意欲をかき立てて、現在の人手不足の状況を生んだとも思えるのですが、この辺りは株のスペシャリストとして、どうご覧になりますか?
>
> 企業の株価上昇は、企業の雇用創出に繋がると思いますか?
>
> 島倉さんのご意見を頂けると幸いです。
>
> 無論、現状で満足することなく、もっと財政をふかさないと、日本経済は成長せず停滞したままであるという危機意識は共通理念として持っております。
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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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