経済政策をめぐる混迷のスパイラル
「失業率の22年ぶりの低下は人口構造の変化によるもので、アベノミクスの成果ではない」という三橋さんの説の裏付けを異なる角度から示しつつ、アベノミクスのように誤った経済政策が過大評価される背景には、景気循環に対する人々の認識の歪みが存在することを論じています。
(↓2017年4月6日追記:下記のサイトに掲載されました)
https://38news.jp/economy/10306
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以下では今回の記事を転載しています。
【島倉原】経済政策をめぐる混迷のスパイラル
From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)
先週4月1日の三橋貴明さんの記事は、失業率が22年ぶりに3%を切った要因は
アベノミクスの成果ではなく、人口構造の変化、すなわち生産年齢人口比率の低下と
高齢化による介護需要の増加であることを指摘するものでした。
加えて翌2日のブログでは、2014年の消費税8%への引き上げ以降、
実質賃金と実質消費が落ち込み、日本国民が貧困化する状況が伝えられています。
https://38news.jp/economy/10282
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12261799689.html
そもそも、緊縮財政の本格化をきっかけとして1997年に名目GDPが頭打ちとなり、
『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』
— 島倉 原 (@sima9ra) 2016年4月10日
↓アベノミクスを支えるリフレ派や主流派経済学の誤りを実証し、積極財政こそが経済再建の柱であることを解き明かした一冊です。https://t.co/lvuOFPZ1b8 pic.twitter.com/dhhgUxme8C
利益を伸ばす機会が失われた企業部門の国内での投資意欲が低下し、
日米企業部門の貯蓄投資バランス(=所得-実物投資)の推移です。1998年以降の日本企業の大幅な黒字化は、緊縮財政で国内経済成長即ち利益成長機会が失われ、投資意欲が低下した結果です。
— 島倉 原 (@sima9ra) 2017年3月22日
↓参考「財政支出が経済成長を規定するメカニズム」https://t.co/lZX2P8ogdL pic.twitter.com/6FMd0I2KyZ
同時に雇用即ちヒトへの投資意欲も低下して賃金も下落に転じ、家計消費も停滞する、
日本の名目及び実質賃金指数の推移です。1998年以降の両指数の低下は、緊縮財政によって国内経済成長即ち利益成長機会が失われ、企業の雇用意欲が低下した結果です。
— 島倉 原 (@sima9ra) 2017年3月22日
↓参考「財政支出が経済成長を規定するメカニズム」https://t.co/lZX2P8FR5j pic.twitter.com/GXz3jYOMCs
こうしたデフレスパイラルが既に20年近く続いていることは、前回もお伝えした通りです。
https://38news.jp/economy/10235
ここで改めて、この間の就業者数の推移を確認してみましょう。
雇用形態別の推移を、国内製造業の生産能力と共に示したのが下記のグラフです。
日本の就業者数と製造業生産能力の推移です。アベノミクス下で非正規雇用者以外の就業者はむしろ減少、製造業の生産能力も低下を続けており、経済環境が決して好転してはいないことを示しています。
— 島倉 原 (@sima9ra) 2017年4月5日
↓参考記事「経済政策をめぐる混迷のスパイラル」https://t.co/bdx77JQ6Rp pic.twitter.com/RfgVLobphf
就業者数も製造業の生産能力も、企業の投資意欲低下を反映し、
賃金同様、やはり1997年がピークとなっています。
実は第2次安倍政権が始まった2012年12月以降、就業者数は多少増えてはいるのですが、
非正規雇用者数が全体の就業者数以上に増えており、それ以外はむしろ減少しています。
しかもこの間、製造業の生産能力はほぼ一貫して低下し続けています。
やはり三橋さんもご指摘のとおり、失業率低下は経済全体の好転を反映したものではなく、
人口構造の変化によって雇用環境が改善している風に「見える」だけではないでしょうか。
ちなみに前回はアメリカとも対比しながら、日本企業の投資意欲低下を示しました。
アメリカの雇用者数はリーマン・ショックからも回復して過去最高水準に達しています。
意外に思われる方も多いかもしれませんが、製造業の生産能力についても、
リーマン・ショック前の水準を未だ下回るものの、長期的には右肩上がりとなっています。
日米の就業者又は雇用者数、及び製造業の生産能力の推移です。国内雇用を重視するトランプ政権は日本の貿易黒字もやり玉に挙げていますが、雇用や産業の空洞化が深刻なのはむしろ日本です。
— 島倉 原 (@sima9ra) 2017年4月5日
↓参考記事「経済政策をめぐる混迷のスパイラル」https://t.co/bdx77JQ6Rp pic.twitter.com/U2Bjwy2ADe
アメリカと言えば、トランプ政権が「アメリカ・ファースト」を掲げて国内雇用を重視し、
主要な対米貿易黒字国として、中国と共に日本をやり玉に挙げています。
しかしながら実際はむしろ、こちらから文句を言いたくなるような状況なのです。
もちろん、日本の停滞は緊縮財政という自らの失政によるものですから、
アメリカからすれば文句を言われる筋合いは全く無い訳ですが…(笑)
さて、三橋さんは3日の記事で、何らかの理由で「一見、好景気に見える」状況の下で、
デフレ化政策が推進される構図が日本に存在することを指摘され、
その例として、小泉政権の頃のアメリカの不動産バブルを挙げておられました。
そういえば、当時も非正規雇用ばかりが増え、「実感なき景気回復」なんて言われましたね。
https://38news.jp/economy/10293
アメリカの不動産バブルといえば、グローバルな景気循環によってもたらされたもの。
以前、「現在は不動産バブルの裏サイクルの、周期的なITバブルの局面ではないか」
と述べましたが、巷でも「半導体業界は2000年以来の活況」という指摘があるようです。
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/031300069/031300001/
だとすれば、消費すなわち内需が不振で、国内経済が改善しているとは言い難い中、
第2次安倍政権以降株価が上昇した根本的な要因も「異次元の金融緩和」などではなく、
リーマン・ショックからの回復を経てITバブルの波に乗った、
アメリカを中心としたグローバルな景気循環と考えるべきかもしれません。
(金融緩和の効果が「ゼロ」と言うつもりはもちろんありませんが)
そういえば、外的要因で好景気が演出された小泉政権の頃にも量的緩和が行われ、
そのことが「(財政政策よりも)金融緩和の方が有効」という誤った思い込みにつながり、
のちにはリフレ派の正当化の根拠にも用いられました。
景気循環の様相こそ当時とは異なるものの、今また同じ過ちが繰り返されているようです。
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