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緊縮財政が原発事故の原因か?

※この記事は、言論ポータルサイト「アスリード」にも掲載されています。

インターネットテレビ「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「緊縮財政が原発事故の原因か?」というタイトルで、全体で約30分のプレゼンテーションになっています。

何とも唐突なタイトルのようですが、

「緊縮財政がもたらした1990年代後半以降の日本経済の長期低迷が、電力会社の設備投資意欲を引下げて原発の安全性を低下させ、結果として東日本大震災における福島第1原発事故の重要な背景の1つになったのではないか?」

という問題提起です。

↓今回のプレゼン資料です。
緊縮財政が原発事故の原因か?.pdf

↓動画へのリンクです。
「緊縮財政が原発事故の原因か?①」島倉原
「緊縮財政が原発事故の原因か?②」島倉原


以下はプレゼン内容の概要と補足です。
今回はマクロ経済データの分析とは別に、主に下記の文献を参考にしました。

  • 吉岡斉 『原子力の社会史』 朝日新聞出版、2011年
  • 中瀬哲史「東京電力福島第1原子力発電所事故後の日本の電力供給システム」(『経営研究』収録、2011年)
  • 同「1970年代半ば以降の日本の原子力発電開発に対する改良標準化計画の影響」(『科学史研究』収録、2003年)

      これらの文献からは、

      • 原発の信頼性を高めるために1975~85年にかけて実施された「改良標準化計画」によって向上した設備利用率(原発の稼働率)の維持自体が目的化し、定期検査短縮化や安全投資軽視の土壌が培われた。
      • 1990年代後半以降、電力需要停滞や電力自由化の動きに伴う不確実性増大を背景として、他の発電方法と比べてインフラコスト(初期投資コスト)が高い原発の安定成長が止まり、電力会社の原発関連への投資意欲が大幅に低下した。
      • 2000年代には原発事故の多発による全体的な設備利用率低下と石油価格高騰により、原発の設備利用率維持・向上が目的化し、安全対策工事を行う余裕が失われていた(中瀬(2011)では、新潟中越沖地震の影響で柏崎刈羽原発が停止していたことが、2009年当時に津波対策の必要性が指摘されていたにもかかわらず、東京電力が福島第1原発に何ら対策が施さなかった要因となっていたことが指摘されています)。

      という状況が読み取れます。
      他方で、下記の報道や報告書などからも、

      原発としては最も古い世代に属する福島第1原発の安全性に問題があることは認識されていたものの、その古さゆえに安全対策にもコストがかさむことから対策が放置され、今回の大惨事につながった

      という実態が読み取れます。

      ↓事故直後の朝日新聞の報道
      http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104060163.html
      ↓事故調査委員会の報告書(「第1部 事故は防げなかったのか」あたりをご確認ください)
      http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/

      「電力需要が伸び悩んだ1990年代後半以降」とは、緊縮財政によって名目GDPがゼロ成長に陥った時期とピッタリ重なります(言うまでもなく、マクロ経済の停滞が電力需要伸び悩みの原因です)。
      こうしたマクロ経済環境が、同時期に議論されるようになった電力自由化の動きと共に電力会社の経営を圧迫かつ不安定化する中で、原発向けの投資が真っ先に削られている(他の発電に比べてインフラコストがかさむため)ことが、業界全体のデータからも見て取れます。
      結果、安全対策のための投資もおざなりになり、2000年代以降の原発事故の多発につながった、というわけです。

      こうなると、

      原発事故発生による原発稼働率の低下
      火力発電用化石燃料輸入による電力会社の損益悪化
      電力会社の投資余力低下による、原発安全性のより一層の低下
      さらなる原発事故の発生

      という悪循環の構図にハマってしまい、福島第1原発の大惨事はその延長線上にあった、という構図が見えてきます(結果生じる電力料金引き上げが、電力自由化の議論を誘発してこの悪循環構造に拍車をかける、というオマケもついています)。

      もちろん、原発の安全性確保を軽視し、目先の利益確保に追われた東京電力の経営姿勢そのものは、企業の社会的役割を見落としたものとして、容認されるべきではないでしょう(結果自らの存続を危うくしている以上、営利企業としても誤った経営判断をしている訳ですが…)。
      しかしながら、こうした事態に至ったのは何も、

      「東京電力関係者が悪人だったから」

      ではなく、

      「誤った経営判断を誘発する、人為的に作られたデフレ不況の環境があったから」

      だということを、原発問題を議論するに際して、冷静に認識すべきだと思います(したがって、「緊縮財政が続いているのは、財務省関係者が悪人だから」と言うつもりも、もちろんありません)。

      さらに、こうした悪循環の構図は、

      「化石燃料輸入増による国全体としての経常収支の悪化」

      という直接的、あるいは短期的な結果とは別に、

      「電力会社の投資余力低下による原発以外の発電設備の生産性や安全性の低下、ひいては国全体の産業力の低下」

      という間接的、あるいは中長期的な効果を通じて、国力低下や(経常収支の悪化を経た、本来の意味での)国家財政の破たんをもたらしかねない、というリスクをはらんでいます(プレゼン資料の7ページにフローチャートでまとめてみました)。
      これは、1990年代後半以降の公共事業の大幅削減が公共インフラの劣化や建設産業の衰退をもたらしているのとほぼ同じ構図です。

      裏を返せば、

      政府がこれまでの緊縮財政路線を捨てて積極財政に転じれば、上記で述べた悪循環が逆転し、原発を稼働させながら(というよりも稼働させることによって)、安全性と経済的な豊かさの両方を享受できる可能性がある。

      ということです(「使用済み核燃料処理問題」等の論点について議論を尽くしていないため、ここでは「可能性」という表現にとどめます)。
      財政支出の拡大対象の一部を、原発をはじめとした発電設備の安全投資支援に充てれば、より一層効果的でしょう。

      先月報道された福島第2原発の廃炉問題(下記参照)なども、政府自身がスタンスを変えれば、全く違った結論が導き出せる可能性があります。
      http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE98T05020130930
      ↓再掲になりますが、第2原発の方は、それなりの安全投資をすれば大震災にあっても致命傷にはならないことを証明したわけですし。
      http://www.asahi.com/special/10005/TKY201104060163.html

      他方で、「緊縮財政路線を継続したままの電力自由化推進」などは、電力会社の経営をより一層不安定化させ、「発電設備」という公共インフラのさらなる劣化をもたらす愚の骨頂の政策であることは、今回の経験から明らかではないでしょうか。

      にもかかわらず現実は下記報道の通り、電力全面自由化を志向した電力事業法改正案の閣議決定や「目先の利益を確保するための、原発以外の電力設備への性急なメンテナンスコスト圧縮」といった、悪循環に拍車をかける方向に進みそうな兆しです(「コスト圧縮」というと真っ当に聞こえますが、実態は外資系コンサル会社を使った節操の無い業者叩きになるのがオチでしょう)。
      このままでは、電力産業が建設産業に続く「政策的構造不況業種」になりかねません。
      http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/131016/cpd1310160500000-n1.htm
      http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF2200L_S3A021C1MM8000/
      http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS22032_S3A021C1EE8000/

      プレゼン資料の8ページに示した通り、「緊縮財政ありき(≒日本は経済成長しない)」の前提を取り払えば、こうした発想とは180度異なる、より建設的な議論や政策形成ができるのではないでしょうか。
      緊縮財政からの脱却こそ、今の日本が行うべき真の構造改革なのです


      ↓拙著『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』では、日本経済長期低迷の原因が緊縮財政であること、今回取り上げたような様々な社会問題の解決にも積極財政が重要であることを解明しています。電子書籍『ギリシャ危機の教訓~緊縮財政が国を滅ぼす』と合わせ、是非ご一読ください。
                

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テーマ : 福島第一原発
ジャンル : 政治・経済

tag : 原発 福島 東京電力 エネルギー政策 財政政策 日本経済 緊縮財政

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No title

福島事故当時の東電の社長の清水正孝氏は、電力自由化が開始された1995年に資材本部長に就任し、「コストカッター」の異名を取り、全体で2兆円かかっていた調達費の4割削減を行ったそうです。(ウィキペディアに書かれています。)以前にこの記事を読んだ際には、総括原価方式だからといって、電力会社がコストを意識していなかったわけではないことを示す例としての意味合い程度しか感じていませんでしたが、電力自由化に伴い、コスト競争に参加させることで、安全性が徐々に削られていった過程が想像できました。参考文献のいずれも読んだことがないので、浅い理解に過ぎませんが、この原発事故は、日本が昨今はやりの理屈に完全にのせられて、全体として間違った方向に進んでいることを如実に示す例かもしれませんね。財政との絡みは考えたこともありませんでした。

Re: No title

コメントありがとうございます。
「コストカッター」のエピソードは知らなかったのですが、それが事故の背景の一部をなしていたとすると、何とも皮肉な巡り合わせですね(ご本人はそんな因果関係など、思いも寄らないところでしょうが)。
ご指摘の通り、今回の原発事故は全体の方向性の中でとらえるべき事例なのだと思います。
私自身は参考文献に挙げた「原子力の社会史」を読み通してみて、「国策民営」という枠組みが戦後のある時期まではそれなりに機能していたが、国際情勢その他、日本の置かれている環境が大きく変化した今となっては機能不全に陥っているのではないか、という思いを強くしているところです。
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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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