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アベノミクスの虚構

「新」経世済民新聞』に、「アベノミクスの虚構」というタイトルで寄稿予定です。
ポスト・ケインズ派経済学者の服部茂幸氏の最近の著書『偽りの経済政策―格差と停滞のアベノミクス』を手掛かりに、「アベノミクスで雇用が改善している」という安倍首相のアピールが事実に反するものであることを論じています。
(↓2017年8月24日追記:下記の通り掲載されました)
https://38news.jp/economy/10979

↓『「新」経世済民新聞』のメルマガ配信登録はこちらから。
http://www.mag2.com/m/0001007984.html

以下では今回の記事を転載しています。


【島倉原】アベノミクスの虚構

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)

先日、ポスト・ケインズ派の経済学者で、
同志社大学商学部教授の服部茂幸氏の著書
偽りの経済政策―格差と停滞のアベノミクス
を読む機会がありました。


同書は、日銀の異次元金融緩和後も停滞が続く、
日本経済の現実を様々な角度から明らかにしています。
その上で、責任逃れに終始して矛盾した言動を繰り返す、
岩田日銀副総裁を筆頭としたいわゆるリフレ派、
そして日銀執行部を批判しています。

本メルマガ読者の皆さん、
あるいは拙著『積極財政宣言―なぜ、アベノミクスでは
豊かになれないのか』をお読みいただいた方からすれば、
こうした議論は特に新鮮なものではないでしょう。
さはさりながら、読んでみて「なるほど」と思ったのが
同書第2章「雇用は増加していない」でした。

同章では「雇用増加は見せかけ」という見出しを掲げ、
以下のように述べています。

「アベノミクスの成果としてよく指摘されるのが、雇用の改善である。民主党政権下で減少していた就業者数が、アベノミクスによって増加に転じたと、安倍首相が主張していることは、よく知られている。(中略)
しかし、「労働力調査」における就業者の定義は、調査の週に一時間以上働いた人である。日本にはサービス残業も含めて週六〇時間以上働くような人も少なくない。こうした人も週に数時間しか働かないアルバイトも、同じ就業者として扱われている。
経済学の上で正しい雇用あるいは就業の指標は、延べ就業時間である。(中略)
延べ就業時間は、いざなみ景気が始まる前には、大きく落ち込んでいた。しかし、いざなみ景気期は全体としてほぼ横ばいか微減となった。ところが、世界同時不況が生じると急減する。特に〇九年は急速な落ち込みを見せた。その後の経済回復期には、ほぼ横ばいとなっていた。アベノミクスが始まると、それが減少に転じた。ただし、一五年以降は微増に転じているが、未だに一二年の水準には戻っていない。
理論的に正しい雇用の指標を使えば、アベノミクス期には雇用が全体として減少していることが分かる」
(『偽りの経済政策』72~73ページ)

「延べ就業時間」とは、全ての就業者の就業時間を
合計したもので、例えば5万人いる就業者が平均して
年間1500時間働いているのであれば、
5万×1500=7500万(人・時間/年)となります。
いわば、経済全体での「働く機会」を表しています。

この指標が実際上も「正しい雇用の指標」と言えるのか。
実質GDPを延べ就業時間で割った「労働生産性」と共に、
その1980年以降の推移を示したのが下記のグラフです。
なお、『偽りの経済政策』では恐らく公開データの制約上、
2000年以降のグラフのみが示されていますが、
下記グラフでは、それ以前については全就業者数に
近似的に非農業部門の平均就業時間を掛け合せることで、
より長期的な推移を確認できるようにしています。

【日本の延べ就業時間と労働生産性の推移(2012年=100)】


バブル経済が崩壊した1990年代以降、延べ就業時間は
減少トレンドとなり、リーマン・ショック翌年の
2009年には大きく減少しています。
そして、服部氏が指摘するように、アベノミクス以降は
それよりもさらに落ち込んでいるのです。

また、企業の賃上げ意欲につながる労働生産性の伸びは
アベノミクス以降明らかに鈍化しており、
この点でも雇用環境の改善は見られません。
私自身、25~54歳男性の正規雇用者数などをもとに
雇用環境が改善していないことを論じてきましたが、
近年の失業率低下はアベノミクスの成果ではなく、
生産年齢人口減少という経済政策とは別の要因によって
もたらされたことが、服部氏の議論によって
より明確になっています。

では、日本経済の停滞を打破する政策とは何か。
服部氏自身は明言していませんが、以下の記述はやはり、
財政支出を拡大する積極財政こそが正しい政策であると
示唆しているのではないでしょうか。

「一九四〇年からの戦時体制の下でアメリカ経済は急回復する。ナチス・ドイツの経済回復も軍事拡大によるものだった。世界同時不況後の世界でも、ギリシアなど財政を緊縮させた国ほど、経済が収縮した。このように財政拡張と経済回復の関係を肯定する例は多い」
(『偽りの経済政策』140ページ)


〈島倉原からのお知らせ〉
中野剛志さんの『富国と強兵』でも参考文献として
取り上げられました。
1930年代の大恐慌からのアメリカ経済の回復要因が
金融政策ではなく積極財政であったことを、
様々な角度から実証分析しています。
↓『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか


メルマガ『島倉原の経済分析室』では、
経済や金融に関するタイムリーな話題を独自の観点から
分析しています。
以下は直近記事のご紹介です。

北朝鮮のグアム沖ミサイル発射計画表明以降の動きから、
北朝鮮情勢と株式市場の今後について考察しています。
↓「北朝鮮情勢と株式市場の行方」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-270.html

「次世代のインテル」ことエヌビディア社と同様に、
来るべきITバブルの花形銘柄になるかも?
と思わせる、とある企業について考察しています。
↓「もう1つのITバブル中核銘柄?」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-269.html

↓その他、バックナンバーはこちらをご覧下さい。
http://foomii.com/00092/articles


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テーマ : 安倍政権
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tag : 日本経済 アベノミクス 服部茂幸 雇用環境 延べ就業時間 労働生産性 積極財政 金融緩和 リフレ派 三橋貴明

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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