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日本経済の成長&景気循環メカニズム

※この記事は、言論ポータルサイト「アスリード」にも掲載されています。

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「日本経済の成長&景気循環メカニズム」というタイトルで、全体で約45分のプレゼンテーションになっています。

前回は「グローバル金融危機の発生メカニズム」というタイトルで、不動産バブルとその崩壊を伴うグローバルな金融危機が、20年弱の周期で発生するメカニズムについてお話しました。
今回はそのようなメカニズムを前提に、実体経済においても発生する周期20年弱の景気循環を説明する試みとして、私自身が作成した簡易なマクロ経済モデルを提示し、その示唆するところを述べています。

↓今回のプレゼン動画です。
日本経済の成長&景気循環メカニズム(前編)
日本経済の成長&景気循環メカニズム(後編)

↓今回のプレゼン資料です。
日本経済の成長&景気循環メカニズム.pdf
↓モデルについて説明した論文(邦題「内生的景気循環モデルを用いた、日本経済の長期低迷の分析」)の掲載サイトです。
島倉原論文掲載サイト




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以下はプレゼンの概要と補足です。
オールド・ケインジアン・スタイルの内生的景気循環モデル

日本経済を題材にしたものも含め、金融バブル崩壊後の経済低迷のメカニズムを説明しようとする経済理論としては、新古典派成長理論をベースに供給力不振(生産性低下)に原因を求めるもの、(リチャード・クー氏の「バランスシート不況論」にも類似した)過剰な負債による需要減退に原因を求めるニュー・ケインジアンスタイルのものなどが存在しますが、いずれも日本経済の長期低迷を説明するという観点からは、実証的に問題があります(詳細は言論ポータルサイト「アスリード」に私が寄稿した、下記の記事をご参照ください)。
なお、これらに関しては、前回も指摘した「金融バブルは周期的で、かつそれ自身に崩壊の要因をはらんでいる」という現実を説明するのに不可欠なはずの、「内生的な景気循環メカニズム」を内包していない、という問題点があります。

↓新古典派成長理論の問題点
「主流派経済学」のいかがわしさ
↓バランスシート不況論の問題点
バランスシート不況説の問題点

私が今回考案したモデルは、ポール・サミュエルソンが1939年に考案し、60~70年前に流行っていた「乗数=加速度モデル」という、オールド・ケインジアン・スタイルのモデルをヒントにしています。
乗数=加速度モデルについては以前、「乗数効果をどう考えるか」というプレゼンテーションでも取り上げたことがありますが、

「家計部門のみならず、企業部門も所得に応じて支出を決定する(結果として、政府部門の支出総額がGDPの均衡水準を決定する)」
「所得と支出との間のタイムラグの存在が、内生的景気循環発生の必要条件になっている」

という構造を持っています。
1点目のカッコ内は、常々お示ししている「政府支出の伸び率が高い国ほど、長期的な経済成長率も高い」(図1)という事実と合致するものです。

【図1:名目経済成長率と名目政府支出伸び率(いずれも年換算)の長期的関係(32ヵ国)】
経済成長率と政府支出伸び率

2点目は、新古典派的な経済観と異なり、「経済は、不均衡を踏み出す要因をそれ自身の中に孕んでいる」ことを示しています(バブル現象はその典型例、という訳です)。
今回のモデルは同様な構造を保持しながら、

「一般的な経済モデルとは異なり、(実質値ではなく)貨幣を尺度とした『名目値』で方程式を組み立てている(家計も企業も名目値に基づいた意思決定を行う、すなわち『貨幣錯覚』に囚われているのが現実の経済の姿であると共に、『金融サイクル』という名目経済上の現象との関連性を視野に入れているため)」
「家計、企業の支出水準を決定するのは、(乗数=加速度モデルのような)GDPすなわち一国全体の所得ではなく、それぞれ自身の所得である(特に企業については、営業余剰すなわち営業利益と、固定資本減耗すなわち減価償却費とを、別々の決定要因として認識する)」

という前提を加えた、以下のような姿をしています(記号の定義も含め、詳しくは冒頭にご紹介した論文をご参照ください)。

(今回のマクロ経済モデル)
日本の内生的景気循環モデル

ここで、企業の設備投資( It )を説明する変数に「1期前の営業余剰( Pt-1 )」を取り込んでいますが、これは現実の営業余剰と設備投資の間の時差相関分析に基づくもので、これが内生的景気循環を発生させる要因となっています。
営業余剰と設備投資の間のこうしたタイムラグは、設備投資自体が(消費などとは対照的に)意思決定から実行までに相応の時間が必要な行為であること、設備投資水準は事業から将来期待される利益見通しに左右されるが、「利益の期待値」の最も確実な算定根拠は所詮過去の実績でしかないことから生じていると考えられます。
1980年~2009年のGDP統計(93SNA、2000年基準)を用いてモデルに具体的な数値を当てはめた結果、19.23年という、現実の不動産バブルを伴う景気循環(ピークが1970年、1990年、2008年)にも極めて近い、内生的な周期が検出できました。
現実を説明し尽くすモデルとしてはあまりにもシンプルですし、「分析に使用するGDP統計の時系列データには定常性が認められない」といった問題点はあるものの、現実の経済が「GDPの水準が内生的な景気循環メカニズムに影響されつつも、公的支出の規模に応じて決定される」という構造を有していることが、上記の結果につながったと考えられます。


財政支出による乗数効果は4倍以上

今回のモデルから現実の乗数効果を推定すると約4.3倍、すなわち「財政支出を1兆円増加させるとGDPの均衡水準は4.3兆円増加する」という結果になります(実際のGDP増加額は景気循環の影響を受けるため、その近辺の数字になります)。筆者が参加している「日本経済復活の会」で宍戸駿太郎先生から伺った話では、「内閣府モデル以外のまともな」計量経済モデル(今回のものよりも格段に緻密なもの)では、名目乗数は4倍ほどとのことですので、今回の結果は奇しくもそれに近いものになっています。
この結果は言うまでもなく、「1990年代以降乗数効果は低下している。従って1990年代前半の公共事業を中心とした景気対策は効果が乏しかった」という議論と真っ向から対立するものです。
これは、「乗数効果低下論」の多くが、「バブル崩壊後の景気対策の効果を検証する」と称して、内生的景気循環メカニズムを考慮に入れずに(言い換えれば、主流派経済学の非現実的な経済観を前提に)1990年代(公的支出に対するGDPの比率が低下する景気サイクル下降期)を対象に分析をし、結論を導き出していることに起因しています(図2の丸囲み参照)。
見方を変えれば、仮に1990年代前半の景気対策を行わなかったとすると(過去15年のように財政支出総額をほぼ横ばいに抑えていれば)、単純計算で名目GDPが150兆円くらい落ち込んでいた可能性があるということです。従って、そうした事態を防いだという意味では、経済政策として極めて有効なものだったと評価すべきなのです。

【図2:日本のGDP-公的支出比率の推移】日本のGDP-公的支出比率の推移


財政支出の拡大こそが、成長戦略と財政健全化の柱

このように、財政支出による現実の乗数効果が(1倍強とする内閣府のマクロ経済モデルとは異なり)4倍以上あるとすれば、緊縮財政をスタートした1997年以降、名目経済成長が止まると共に、その結果として政府の財務バランス(名目GDPに対する政府総債務または政府純債務の比率)が悪化した(図3参照)のは当然のことです。
さらに図3からは、景気対策を行った1990年代前半の日本政府の財務バランスが、国際的に見てもトップクラスの「健全な」水準にあったことも読み取れます。

【図3:G7諸国の政府純債務(名目GDP比)】G7政府純債務の推移

また、上記で述べた乗数効果には、「政府が支出を拡大させると、所得を受け取った家計が消費支出を増やす」という教科書的なものだけでなく、「営業利益(企業にとっての所得)の拡大によって、投資に対する期待リターンを高めた企業が設備投資を活発化する」という効果も含まれています。このことからは、企業の設備投資意欲が低下して1990年代後半以降恒常的な貯蓄超過になっていること、その動きと逆相関の形で政府部門の赤字(名目GDP比)がそれ以前と比べて大幅に拡大していること(図4参照)も容易に説明できます。

【図4:日本の経済主体別貯蓄投資バランスの推移(名目GDP比)】日本の貯蓄投資バランス

すなわち今回のモデルによると、「課税所得である営業余剰が1兆円増えると、総固定資本形成(GDP統計上の設備投資)が1.09兆円増えるのに対し、非課税所得である固定資本減耗が増えても、総固定資本形成は0.57兆円しか増えない」という結果になります(キャッシュフロー上は有利である非課税所得の方が設備投資へのインパクトが弱い、というのは一見矛盾しているようですが、企業会計上「利益」と認識されず、将来の成長期待につながりにくい所得であることや、その発生原因である過去の設備投資に伴う借入金返済の原資となること等から説明がつきます)。
図5でもわかるように、1990年代以降、民間企業部門の総所得(営業余剰+固定資本減耗)はほぼ横ばいで推移する中、全体に占める固定資本減耗の比率がそれ以前に比べて跳ね上がり、1990年代後半以降高止まりしています。つまり、緊縮財政による名目経済成長のストップが、総所得に占める固定資本減耗の比率を高めて企業部門の設備投資意欲を低下させ、貯蓄超過をもたらしたという構図です。

【図5:民間企業部門の所得及び総固定資本形成の推移】民間企業所得と投資

裏を返せば、財政支出を拡大して企業部門の営業余剰が拡大すれば、利益成長期待の高まりと共にそれ以上の設備投資が促されて企業部門の貯蓄投資バランスがマイナスに転じ、名目GDP比で見た政府部門の赤字はむしろ縮小することが予想されます。

つまり財政支出の総額拡大こそが、名目GDPの拡大と産業活動の活発化という「成長」をもたらすと共に、財政健全化も実現する柱となる政策であり、これを抜きにした「成長戦略」にはほとんど実態が無いと言えるでしょう。
なお、今回のモデルによって算出される「資本の期待リターン」の観点からは、日本経済にとって適切な名目経済成長率は約5%という結果が出てきました。つまり、財政支出も毎年5%くらいずつ拡大するのが適切ということです。

繰り返しになりますが、「財政支出の総額拡大、すなわち積極財政こそが、成長戦略及び財政健全化を共に実現する柱である」というのが、(一見すると「ミクロの常識」に反する)マクロ経済上の真実なのです。

(参考文献)
島倉原「内生的景気循環モデルを用いた、日本経済の長期低迷の分析」(公開ワーキングペーパー、2013年)
J. R. ヒックス「景気循環論」(古谷弘訳、岩波書店、1951年)
Paul A. Samuelson, “Interactions between the Multiplier Analysis and the Principle of Acceleration,” The Review of Economics and Statistics, 21 (1939).

※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等下記ソーシャルボタンのクリックにご協力いただけると幸いです。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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