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「日銀理論」を取り戻そう

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※本記事は、言論サイト「アスリード」にも掲載されています。

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「日銀理論を取り戻そう」というタイトルで、全体で約55分のプレゼンテーションです。

↓動画へのリンクです(前編・後編に分かれています)。
日銀理論を取り戻そう①
日銀理論を取り戻そう②

岩田規久男日銀副総裁、浜田宏一内閣官房参与に代表される、いわゆる「リフレ派」の方々は、金融政策に関する日本銀行の考え方を「世界標準に取り残された『日銀理論』」と称して、長年批判の対象にしてきました。
今回のプレゼンでは、「世界標準に取り残された」という認識自体が誤りであると共に、実証的な観点からも、むしろ批判するリフレ派の議論の方が説得力に乏しいことを、岩田氏の20年以上に及ぶ日銀批判を手がかりにして、論じてみたいと思います。

↓今回のプレゼン資料は下記URLから閲覧、ダウンロードが可能です(フレーム下の「Share」を押すと、ツイッター、フェイスブック、グーグルプラスで共有できます。是非ご活用ください)。
http://twitdoc.com/5D2D
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以下はプレゼンテーションの概要です。
貨幣乗数理論に基づく日銀批判

岩田氏が日銀批判で有名になったのは、日銀のエコノミスト翁邦雄氏(現京都大学公共政策大学院教授)との間で1992年に「週刊東洋経済」誌上で行われた「マネーサプライ論争」です(なお、現在ではマネーサプライではなく「マネーストック」と呼ばれるのが通例なので、以下では「マネーストック」で統一します)。
岩田氏は同論争、あるいはその後出版された「金融政策の経済学」において、彼自身が「標準的なマクロ経済理論」とする貨幣乗数理論を用いて、「バブル経済時のマネーストック膨張、バブル崩壊後のマネーストック急減のいずれも、マネタリーベース量を通じてマネーストック量を操作可能な日銀の金融政策に問題があったからで、従ってバブル膨張もバブル崩壊も日銀の責任である」という議論を展開しています。
貨幣乗数理論を要約すると、

 中央銀行がマネタリーベース(中央銀行が供給主体であるマネー。現金及び中央銀行への預け金)を増やせば、その結果として「貨幣乗数」倍のマネーストック(金融機関と中央政府以外の経済主体が保有するマネー。現金、民間預金など)が生み出され、経済もそれに伴い成長する(マネタリーベースを減らせば逆の結果が生じる)。

 貨幣乗数は、民間預金の量に対して民間銀行が中央銀行に開設した自行口座に確保すべき中央銀行への預け金の比率をルールとして定めた「預金準備率」等に応じて定まる。



という理論で、図示すると以下の通りになります(マネーストックの主体である民間預金の量が、当事者ではない中央銀行の行動によって決まるため、「外生的貨幣供給理論」とも呼ばれます)。

【図1:貨幣乗数理論(外生的貨幣供給理論)のイメージ】
貨幣乗数理論

これに対して当時の日銀関係者からは、「中央銀行は、民間の行動の結果決まったマネーストック量や民間銀行間の資金決済ニーズ(中央銀行預け金での口座振替が用いられる)に対応して受動的にマネタリーベースを供給しているだけ(預金準備率に応じた中央銀行預け金の確保は事後的に行われるものであるし、資金決済ニーズに応じないことは金融システムの崩壊につながる)」「マネタリーベース量やマネーストック量への中央銀行の関与は、あくまでも金利でコントロールできる範囲にとどまる」等の反論がなされています(例えば、翁邦雄「金融政策」参照)。岩田氏はそうした反論を、「標準的なマクロ経済理論に従わない『日銀理論』」として批判しています。
ここでは、「現実の経済で取引手段として用いられるマネーとはマネーストックのことであって、中央銀行が直接供給するものではない」ことは共通の認識としつつ(傍線部を無視して、「マネーに関することはすべからく日銀の責任」という短絡的な議論も時折見受けられるため、あえて強調しておきました)、「中央銀行がマネーストックを(少なくとも概ね)コントロールすることは可能かどうか」が論点になっています。

期待インフレ理論に基づく日銀批判

いつの頃からか筆者には定かではありませんが、岩田氏の日銀批判は「期待インフレ理論」を主体としたものになり、現在に至っています。
期待インフレ理論を要約すると、

中央銀行が「将来において、インフレを引き起こすのに十分なだけの金融緩和をする」ことを人々に信じさせて「期待インフレ」を生み出せば、実質生産水準も上昇し、不況から脱却することができる。



となります。
ここでの岩田氏の批判は、「デフレ脱却できないのは、米英等の中央銀行では採用されているこうした『世界標準の金融政策の理論』に従わず、マネタリーベース拡大による期待インフレ効果を否定する『日銀理論』に固執して大胆なマネタリーベース拡大を行わない日銀の責任」というものです(例えば、岩田規久男「日本銀行 デフレの番人」参照)。
実は、期待インフレ理論の背景にはフィッシャーの交換方程式、すなわち、

マネーストック×貨幣流通速度=物価×実質GDP=名目GDP

が存在すると共に、「中央銀行が将来のマネーストックをコントロールできる(現在は『流動性の罠』その他の要因で一時的にコントロール不能に陥っていても)」ことが暗黙の前提になっています。
その意味では、同理論も貨幣乗数理論が前提となっていて、実は本質的な論点は変わっていないことがわかります。

貨幣乗数理論を否定するイングランド銀行

しかしながら、「米英等の中央銀行は、期待インフレ理論に基づいた世界標準の金融政策を採用している」という岩田氏の認識自体がそもそも誤っています。それを端的に示すのが、イングランド銀行が先月発行した2014年第1四半期報にある、「Money creation in the modern economy(現代経済における貨幣創造)」という記事です。
その要旨は、

マネーストックの大半を占める民間預金は、民間銀行がお金を貸す際に、借り手の預金口座残高を融資額分増やすことによって、主に発生する。それは「預金されて入手したお金を貸し出す」という教科書の説明とは逆の順序である。

マネタリーベース量と貨幣乗数によってマネーストック量が決まる訳ではなく、逆にマネーストック量に見合った需要に応じてマネタリーベース量も決まる。このプロセスにおいて、中央銀行は短期金利のコントロールによって究極的にはマネーストック量の上限を決定できるが、短期金利が事実上の下限に達した時には経済をそれ以上刺激できない(すなわち、マネーストックを自由に増やすことはできない)。

量的緩和は主に民間銀行以外からの資産購入を通じて資産価格上昇を促すことで、資金調達コストを低下させて経済を刺激するための政策である。

量的緩和の副産物としてマネタリーベースが拡大するが、それは貨幣乗数理論が想定するように、貸出やマネーストックを機械的に増大させるものではない。



というもので、貨幣乗数理論(外生的貨幣供給理論)を明確に否定すると共に、量的緩和政策は資金調達コストの低下が目的で、マネタリーベース拡大を狙ったものではないと述べています(従って、明言こそしていませんが、「インフレ期待」というあいまいかつ貨幣乗数理論と結びついた効果を目的としている訳でもない、というのが論理的な帰結です)。
そして、こうした見解は従前からの日銀関係者の見解のみならず、下記の通り、欧米主要国中央銀行の関係者の見解とも合致しています。

Why Are Banks Holding So Many Excess Reserves? (ニューヨーク連銀のスタッフレポート、2009年7月)
Challenges to monetary policy 2012 (欧州中央銀行ヴァイス・プレジデントによるスピーチ、2011年12月8日)

なお、イングランド銀行の四半期報で述べられている「マネーストック量は民間銀行の貸出行為によって決定する」という考え方は「内生的貨幣供給理論」と呼ばれ、下記はそれを図示したものです。そこでは「マネタリーベースの拡大が自動的にマネーストックの拡大につながる訳ではない」という、貨幣乗数理論とは反対の結論になります。

【図2:内生的貨幣供給理論のイメージ】
内生的貨幣供給理論

実証的に見ても、岩田氏が「日本銀行 デフレの番人」にて、いわば「世界標準の金融政策によるイングランド銀行の成功の証」として提示した、英国のマネタリーベースと消費者物価指数の推移を示したグラフ(対象期間:2008年8月~2012年1月)を直近まで引き延ばして再現してみると図3のようになり、マネタリーベース拡大がインフレ期待に結びついていないことは明らかです。

【図3:英国のマネタリーベースおよび消費者物価指数の推移(2008年8月~)】
英国MBCPI

同様なことはアメリカについても言えます。図4もやはり、「日本銀行 デフレの番人」で提示されたグラフ(対象期間:2008年8月~2012年2月)を直近まで引き延ばして再現したものです。

【図4:米国の超過準備額および消費者物価指数の推移(2008年8月~)】
米国ERCPI

「FRBが期待インフレ理論に基づいて政策を行っている」というのも明らかなミスリードです。図4にも示した通り、2012年12月12日のFOMC(連邦公開市場委員会。米国金融政策の最高意思決定機関)を終えた後のスピーチで、当時のバーナンキFRB議長自身が、「中央銀行のバランスシート(=マネタリーベース)拡大自体が、インフレ期待に効果があるものではない」(32ページ参照)と発言しています。
期待インフレ理論については、もともとの提唱者であるポール・クルーグマンですら、既に「インフレ期待を実現するのは難しく、むしろ財政政策の方が有効である」という見解に傾いているような状況であることは、拙稿「根拠に乏しいインフレターゲット論」で述べた通りです。
そもそも、期待インフレ理論にとっても大前提となるはずの貨幣乗数理論が長期的に見ても機能しないことは、海外の例を引くまでも無く、日本の実例から明らかです(図5参照)。10年、20年が長期ではない、というのなら話は別ですが。

【図5:日本における「貨幣乗数」関連指標の推移(1970年~)】
日本の貨幣乗数

以上より、「日銀理論なるもの」(日銀自身が「日銀理論」という名称を用いている訳ではないので、あえてこう呼んでいます)の方がむしろ現実に妥当しており、岩田氏をはじめとするリフレ派の日銀批判は極めて根拠に乏しいものであることは明らかでしょう。

金融緩和に偏重した政策では、問題解決につながらない

では、イングランド銀行のペーパーでも述べられている「量的緩和による資金調達コスト低下効果」はどうでしょうか。これとても緊縮財政の下では効果に乏しいことは、長期金利が歴史的な低水準で推移してきたにもかかわらず経済成長がほぼストップしている、日本の失われた20年が実証済みです(図6参照)。
なお、英国や米国の直近の経済運営が必ずしもうまくいっていないことも、やはり財政が緊縮モードにあることが影響していると考えられます。

【図6:日本の各種マクロ経済指標の推移(1970年~)】
日本の各種マクロ指標

もう1つ、「大規模金融緩和による円安効果」はどうでしょうか。実はこちらについても、1990年代後半以降の実質的な円安トレンドが純輸出の改善にはつながっていない、というのが現実の姿なのです(図7参照)。

【図7:為替レートと貿易関連指標の推移】
日本の名目純輸出&実効為替レート

これには、リーマンショック以降の海外需要低迷や原発停止による化石燃料輸入コストの増大といった直近の要因ももちろん影響しています。また、21世紀以降の原油価格の上昇も影響しているでしょう(それら自身がすでに、「円安が逆効果」という議論の裏付けになる訳ですが)。
しかしながら、円安が逆効果になっていることの原因は、実はそれらの要因にとどまらないと考えられます。モノの輸出入だけを対象にした貿易統計をベースにより詳しく掘り下げてみると(図7の名目純輸出は、サービスの輸出入を含むGDP統計から作成しています)、それ以前から実質実効為替レートと相対輸入価格(図8の「輸入価格÷輸出価格」)の連動性が薄れると共に、円安時における相対輸出数量(図8の「輸出数量÷輸入数量」)の増加効果が相対輸入価格の上昇効果に比べて徐々に発揮されにくくなってきていたことが伺えます(後者については、教科書的な説明とは多少異なるものの、経済学で言うところの「マーシャル=ラーナー条件が成り立ちにくくなってきていた」と同義です)。

【図8:為替レートと貿易関連指標の推移(1970年~)】
日本の為替レートと貿易関連指標

この原因について、筆者自身も現時点では断言できませんが、根本要因としての「緊縮財政に起因する名目ゼロ成長がもたらした、企業の国内投資意欲低迷」は無視できないと思われます。つまり、投資低迷が生産性の停滞、すなわち原材料コストの高止まり(相対的な輸入コスト上昇に直結)と生産力の伸び悩み(相対的な輸出数量伸び悩みに直結)の双方を招き、徐々に純輸出を低下させている、という構図です。
さらに言えば、投資意欲低迷の一部として起こった電力会社の原発向け投資の急減が原発の安全性を低下させ、東日本大震災以前からの原発稼働率低迷、ひいては件の原発事故を招くことによって、原油価格上昇とは別に、現在に至る化石燃料輸入コスト増大の引き金を引いたとも考えられます(詳細は拙稿「緊縮財政が原発事故の原因か?」参照)。
こうしてみると、「諸悪の根源は緊縮財政であり、1990年代後半以降の金融緩和に偏った経済政策が、純輸出のみならず日本経済全体の低迷をもたらしている」と言ってもあながち的外れではないでしょう。それにもかかわらず、現政権の経済政策すなわちアベノミクスは、より一層金融緩和への偏重を進めているのが現実です。
財政政策を主導とした適切なマクロ経済政策の実現に向けて、まずはリフレ派の日銀批判に代表される誤った理論的前提から脱却し、正しい事実認識に立ち戻ることが望まれます。

(参考文献)
岩田規久男『金融政策の経済学』(日本経済新聞社、1993年)
岩田規久男『日本銀行 デフレの番人』(日本経済新聞出版社、2012年)
翁邦雄『金融政策-中央銀行の視点と選択』(東洋経済新報社、1993年)
島倉原『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)
Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas: “Money creation in the modern economy,” Quarterly Bulletin of Bank of England 2014 Q1 (2014).

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tag : 日本経済 日銀理論 金融政策 財政政策 アベノミクス 失われた20年 リフレ派 岩田規久男 貨幣乗数理論 期待インフレ理論

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No title

『流動性の罠』になくても中央銀行がマネーストックを増減できないというのが理解できません。マネーストックを増減するには別に貨幣乗数が安定的である必要はありません。ベースマネーを完全に打ち消すように動きさえしない限りは増減させることが可能です。貨幣乗数がベースマネーを完全に打ち消すように動くというのは、マネーストックが貨幣需要計画と貨幣供給計画の関係から決定するのではなく、外生的に決定するという、古くからあり否定され尽くしたようなケースしか考えられません。その外生要因としてよくマネーストックは「貨幣需要量」になる、という意見がありますが(記事にある日銀理論も実質はそうでしょう)、これは貨幣需要量が需要計画や貨幣の価値のようなものと無縁であるということで、「実際に取引される貨幣量=貨幣需要量(=貨幣供給量)」と、一般に言われる「貨幣需要=貨幣需要計画」との混同をしたものです。

『流動性の罠』にあれば貨幣乗数も流通速度も自由に伸縮して、ベースマネーの増加がマネーストックや名目GDPに繋がらないというのは当たり前ことです。そして、期待インフレに着目した理論というのは、現時点でベースマネーの増加がマネーストックや名目GDPに繋がらないことを前提としたものであるというのもご説明の通りです。しかし、『流動性の罠』になくてもベースマネーがマネーストックに影響を与えられないというのはまったく理解できません。マネーストックは外生の貨幣需要で決まる、は間違いですから、他の説明を希望します。

No title

同様の誤りは「貸出が預金を作り出す」という形のものもよく聞かれます。貸出と預金は、預金者と借り手によって(銀行の仲介を受けつつ)同時に決定されるもので、どちらを先に言っても誤りです。貨幣需要がマネーストックを決定する、というのはこの同類ですが、ご説明の日銀理論の底流にあるのはこの誤りです。

Re: No title

コメントありがとうございます。
「中央銀行はマネーストックの量に影響を与えられない訳では無いが、その決定要因はあくまで『マネタリーベース』ではなく『資金調達コストとしての金利』である」というのが、内生的貨幣供給理論や各国中央銀行の見解が示すところです。
念のため、今回の記事におけるイングランド銀行ペーパーの要約を再掲します。

「中央銀行は短期金利のコントロールによって究極的にはマネーストック量の上限を決定できるが、短期金利が事実上の下限に達した時には経済をそれ以上刺激できない(すなわち、マネーストックを自由に増やすことはできない)。」

恐らく、「『流動性の罠』になくてもベースマネーがマネーストックに影響を与えられないというのはまったく理解できません」というコメントは、「低金利政策といっても、実質的にはマネタリーベースの供給緩和姿勢と考えれば、マネタリーベースがマネーストックに影響を与えていると言っているのと同じではないか」という趣旨ではないかと推察しますが(岩田氏の「金融政策の経済学」にも同様な記述がありました)、仮にかような置き換えを認めるのであれば、上記イングランド銀行もそのことは否定しておらず、ご批判はあたらないと思います。
但し、実はこれは「金利が事実上の下限に達しない世界では、どちらの説明でも成り立ちうる」というだけの話で、金利が事実上の下限に達した段階で現実にあてはまらないことが判明した理論はきっちり切り捨てる、というのが科学的かつ建設的なあり方です。科学史をひもとくと、自然科学の発展の節目では、必ずと言って良いほどそうした取捨選択が行われています。
ましてや岩田氏の例に見るように、現実に当てはまらなくなった貨幣乗数理論を延命させるために(彼の場合は「日銀批判を続けるために」と言った方が正確かもしれませんが)、その延長でさらに根拠があやふやな期待インフレ理論に飛びつき、そのことが誤った経済政策につながっているとしたら、なおのこと厳密な取捨選択を行うべきでしょう。

Re: No title

> 同様の誤りは「貸出が預金を作り出す」という形のものもよく聞かれます。貸出と預金は、預金者と借り手によって(銀行の仲介を受けつつ)同時に決定されるもので、どちらを先に言っても誤りです。貨幣需要がマネーストックを決定する、というのはこの同類ですが、ご説明の日銀理論の底流にあるのはこの誤りです。

マクロで見れば、政府支出や民間銀行の経費支出を起因とする民間所得に由来するものを除いては、預金は全て貸出を含めた「民間銀行の与信行為(貸出以外は、債券や株式の取得など)」によって生じたものです。
貸出の場合は、「貸出契約の成立⇒ローン債権の対価として借り手の銀行口座の預金残高が増加⇒借り手が獲得した預金を支出に充当(別の誰かの預金に振り替え)」というプロセスになり、借り手以外の預金者が持っている預金も、元をたどれば他人がお金を借りたことの結果に過ぎません。

No title

財政政策ならばいい、という話がどうして出てくるのかがよく解らない。
インフレ期待という話を曖昧だとしようと、
単にお金を刷ればいいかのような話に文句があろうと、
ここから財政政策でなくてはいけないと考える必要はないはずです。
金融政策を定額給付金につなげる様な話もあるのですから。

定額給付金で人々の財布にお金が入るのも、公共事業で使われたお金が人々の財布に入るのも、同じようなものです。
どちらかで駄目そうなら、もう片方でもやはり駄目だと考えるのが妥当なはず。
結局は、政府がお金の行先をしっかり決めるのがいいか、それとも民間が自由にお金を使う中で儲ける人が増えればいいかという、そういう問題になるのでは?

あとは、インフレ期待の話が曖昧だといいますが、公共事業の推進する人達の将来の見通しもけっこう滅茶苦茶です。
やっている事は同じなのではないでしょうか。
両者ともに自分が支持する政策をやった場合の効果を出来るだけ大きく言い、その期待を追い風にしようとしているように見えます。
それらの話には『嘘』という言葉も似あいそうですが、しかし煽る様な嘘もあった方が政策の効果が上がりそうではある。

総合的に考えるなら、「景気への効果」という点でも「話が嘘っぽい」という点でも金融政策を勧める話と財政政策を勧める話は似ている。
だから私には財政政策ならばいいという話がある事が不思議に思えます。
何と言うか、決定打となる様なものが実際には何もないのが財政政策を勧める話だと、そのように感じております。
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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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