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金融循環がもたらす経済危機?

※この記事は、言論サイト「アスリード」にも掲載されています。

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回のタイトルは「金融循環がもたらす経済危機?」で、全体で約30分のプレゼンテーションです。

昨年末、「1970年代以降、世界経済は不動産バブルの周期的な発生を伴う、20年弱の『金融循環』によって動かされている」というプレゼンを行いました。
(参考記事:グローバル金融危機の発生メカニズム
今回はそうした見地を踏まえながら、現在がどのような経済局面にあり、今後どのようなシナリオが考えられるかについて一つの仮説を述べた上で、消費税や法人税などの税制問題について見解を述べています。

なお、今回のプレゼンには、金融市場の見通しに関する内容が一部含まれていますが、それはあくまで筆者の個人的な仮説あるいは見解であり、筆者が勤務するセゾン投信㈱の経営方針やファンド運用方針とは一切関係ありません。

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動画前半:「金融循環がもたらす経済危機?①」島倉原
動画後半:「金融循環がもたらす経済危機?②」島倉原

↓今回のプレゼンテーション資料です。
金融循環がもたらす経済危機?.pdf

以下はプレゼンテーションの概要です。
金融循環とは何か

冒頭でも述べたように、金融循環とは「金融ブームと崩壊の周期的なサイクル」のことで、不動産バブルを伴いながらグローバルに発生している現象です。
これは19世紀から観察されてきた経済現象で、例えば、マルクスの「資本論」における恐慌論のベースにもなっています。
「経済は余計なことをしなければ均衡状態に収れんする」という前提に立つ主流派経済学からは軽視されてきましたが、リーマン・ショックのような大規模な不均衡現象が起こるに至り、「むしろ経済の内部に不均衡を生み出すメカニズムが存在するのではないか」という経済観から、一部で見直されています(こうした考え方は「内生的景気循環論」と呼ばれています)。
(参考文献:Claudio Borio, “The financial cycle and macroeconomics: What have we learnt?” BIS Working Papers No 395 (2012).)

私がWeb上で公開している「内生的景気循環モデルを用いた、日本経済の長期低迷の分析」という論文も、こうした経済観に基づくものです。
金融循環は、戦後しばらくは10年弱の周期で発生していました。
国際資本移動の自由化が進展した1970年代以降は、周期が20年弱に長期化すると共に不均衡が大規模化しています。1970年代初頭(日本列島改造ブーム)・1980年代末(いわゆるバブル経済)・2000年代半ば(不動産ファンドブーム)に国内で起こった不動産バブルは、いずれも金融循環によるものと考えられます。
同様な周期の長期化・不均衡の大規模化は、1870年頃を境として19世紀にも生じています。これもまた、主要国の相次ぐ金本位制導入を背景とした、国際資本移動の活発化が要因であると考えられます。


金融循環と連動する米ドルレート

金融循環と連動性の高い、循環的な動きを示しているのが、米ドルの実質実効為替レートです。
図1に見るように、金融循環のブーム(不動産バブル)の発生にやや遅れてドル安、ブーム崩壊過程ではドル高に振れています。

【図1:不動産バブルと米ドル実質実効レートの関係】
不動産バブルと米ドル実質実効レート

2000年代半ばに「キャリートレード」という言葉が流行りましたが、この頃は基軸通貨米ドルを起点としてグローバルな信用拡張が発生しています。
その過程で不動産バブルが発生し、かつ米ドル安が進行したと考えられます。

さらに、米ドルの動きと極めて連動性の高い動きを示しているのが、新興国・先進国の相対株価(=新興国株価指数÷先進国株価指数)です(図2)。
2000年代半ばにBRICs諸国を中心とした新興国ブーム」が起こったように、「グローバルな信用拡張⇒先進国から新興国への資金流入⇒基軸通貨である米ドルの下落」と考えれば、両者の連動性の高さが説明できるのではないかと思います。

【図2:新興国・先進国の相対株価と米ドル実質実効レートの関係】
相対株価と米ドル実質実効レート

金融循環が経済に内在するリズムであり、それを反映したのが米ドルの動きだとすれば、今後の米ドル高と共に新興国からの資金流出が顕在化する、というのが想定可能な1つのシナリオです。
「相対株価の下落」は必ずしも新興国株の絶対的な下落を示すものではありませんが、過去のドル高局面ではいずれも大規模な新興国危機が発生しており、注意を要すると思われます。
危機発生の具体的なシナリオまでは到底予測できませんが、昨今の新興国地域での政治的不安定化、近年におけるBRICs諸国の経常収支悪化、アルゼンチンの政府債務を巡る訴訟問題などなど、危機の火種になりそうな事象自体は散見されます。
また、アベノミクス下で国内でもちょっとした不動産ブームが起きているようですが、金融循環の観点からは、一旦ブレーキがかかることも考えられます。
(もちろん、これらは「米ドルの動きが金融循環に連動している」という前提に基づいた、仮説の域を出るものではありませんが)


金融循環から見た財政政策のあり方

金融循環は、日本の経済政策の動向にも強い影響を及ぼしています。
図3で示したように、金融循環のピーク時には、公的支出対比でのGDPが上昇し、税収が増えて財政赤字(図3の「一般政府貯蓄投資バランス」とほぼイコール)が縮小します。

【図3:金融循環と財政政策の関係】
金融循環と財政政策

これに対して、消費税増税は前回、今回とも、金融循環のボトム付近で行われています。大局的に見れば、金融循環の影響で拡大した財政赤字に短期的に反応したものと言えるでしょう。
しかしながら、これでは経済が最も弱い時期に行う最悪のタイミングでの増税に他なりません。
しかも、景気動向の影響を受けにくい間接税の引き上げは、財政が持つ経済安定化機能(ビルト・イン・スタビライザー)を低下させ、景気悪化に対する家計や企業の抵抗力を弱めてしまいます。
結果として、前回増税と共に始まった財政支出削減と相まって、却って財政赤字を悪化させる結果になっています。

法人税についても全く同じ構図が当てはまります。
「法人税を下げれば日本への投資を活発になる」という意見があるようですが(例えば、内閣官房参与の浜田宏一氏)、前回プレゼン「積極財政こそが成長戦略」でも述べたように、設備投資を左右するのは法人税率ではなく、「日本国内でどれだけ利益を伸ばす機会があるか」です(図4、図5)。
しかも、現在検討されているのは、法人所得税を引き下げた分を外形標準課税その他で埋め合わせる方向ですが、これでは消費税増税同様、経済安定化機能が低下してしまいます。

【図4:法人課税と企業設備投資の推移】
法人課税と設備投資

【図5:企業の営業利益と設備投資の関係(1980~2012年)】
営業利益と設備投資

また、これも「積極財政こそが成長戦略」で指摘したことですが、法人所得税引き下げと外形標準課税引き上げをセットにするのは、主流派のファイナンス理論から見ても不合理な政策です。
すなわち、

投資案件の価値=年間利益の期待値÷(調達金利+リスクプレミアム-期待利益成長率)

がファイナンス理論の教えるところです。投資案件の価値が必要投資額を下回れば、その案件に投資しない方が合理的ということになります。
制度変更前後の税収を変えない前提で法人所得税引き下げと外形標準課税引き上げをセットにした場合、企業から見た利益の期待値は従来のままです。他方で、「投資が失敗した時の損失」と「投資が成功した時と失敗した時の損益格差」がいずれも拡大するので、リスクプレミアムは従前と比べて確実に上昇します。結果として当該案件の投資価値が下がってしまうので、経済全体ではむしろ投資にブレーキがかかることになります。

前半でも述べたように、ひょっとすると経済ショックが近い将来訪れるかもしれません。一連の政策が実行されれば、そうした場合の日本経済全体の抵抗力が弱まりかねないこと、それが当面の懸念点です。

※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等下記ソーシャルボタンのクリックにご協力いただけると幸いです。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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