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株価対策なら積極財政

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「株価対策なら積極財政」というタイトルで、全体で約40分のプレゼンテーションです。

↓動画へのリンクです。
株価対策なら積極財政①(前半)
株価対策なら積極財政②(後半)

安倍政権の「日本再興戦略」(いわゆる成長戦略)の中で、「金融・資本市場の活性化、公的・準公的資金の運用等」というお題目のもと、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめとした公的資金の運用の見直しや、少額投資非課税制度(NISA)の普及促進をはじめとした個人金融資産の(株式や投資信託といった)投資マネーへのシフト確立といったテーマが掲げられています(下記リンクの75~78ページ参照)。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2014/0624/shiryo_02_1.pdf

GPIFについては国内株式への投資比重を高めることを念頭に置いた運用方針の見直し、NISAについては現在年100万円の非課税投資枠の倍増が政権内で検討されており、これらは「株価がバロメーター」とされるアベノミクスの株価対策とも言われています。

(「安倍内閣=株価依存内閣」に関する参考記事)
http://gekkan.bunshun.jp/articles/-/1007
http://diamond.jp/articles/-/56292
(GPIF関連の参考記事)
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N6OXBX6JTSF201.html
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/39279
(NISA関連の参考記事)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/140712/mca1407120500008-n1.htm

今回の論旨は、

● 実体経済を反映・サポートすることが本来の機能である金融サイドの制度をいじることで経済成長や株価上昇を図ろうとするのは、国の経済政策として「邪道」である。
● むしろ積極財政を通じて実体経済の所得の流れを改善し、「結果として」株価も上昇する好循環を創り出すべきである。

というものです。

なお、今回のプレゼンおよび本ブログ記事の内容は、あくまで筆者の個人的な見解であり、筆者が勤務するセゾン投信株式会社の経営方針やファンド運用方針とは一切関係ありません。

↓今回のプレゼンテーション資料です。
株価対策なら積極財政.pdf

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以下はプレゼンテーションの概要です。
対症療法的な株価対策は長続きしない

政府による株価維持政策は、PKO(Price Keeping Operation)とも呼ばれ、バブル相場が崩壊した1990年以降、しばしば行われてきました。
http://bit.ly/U8IHxx

その中でも多用されたのが公的資金による株式の買い支えですが、短期的な株価上昇をもたらしても、所詮は対症療法に過ぎず、長期的な効果は持続しません。
バブル相場のピークからもうじき25年が経ちますが、日本の株価は当時の4割程度に過ぎません。
これは、1930年代の大恐慌で暴落したアメリカの株価が、ちょうど25年くらいで大恐慌前のピークに追いついたのと対照的な動きです(図表1)。

【図表1:バブル崩壊後の日本の株価と大恐慌後のアメリカの株価比較】
バブル崩壊後の日米株価

ちなみに、日本のバブル相場崩壊以降の先進国全体の株価パフォーマンスと比較しても、日本の低迷は明らかです(図表2)。

【図表2:バブル崩壊後の日本および先進国全体の株価(1989年12月=100)】
1990年代以降の日本先進国株価

株式とは、企業からの利益配当を受け取る権利と結びついた有価証券であり、「株価は、長期的には企業の利益水準を反映する」というのが金融理論の教えるところです。

経済全体で見れば、

名目GDP+補助金=家計所得+企業の営業余剰+固定資本減耗+間接税
(営業余剰は営業利益、固定資本減耗は減価償却費にほぼ相当)

となるので、名目GDPが成長しなければ企業の利益成長機会も失われ、株価が伸び悩むのも当然です(もちろん、上場企業は国内だけでビジネスをしている訳ではありませんが、外国企業に比べて国内経済の影響がはるかに大きいことは明らかです)。
それこそが、ニューディール政策という積極財政策で経済を回復させたアメリカと、1990年代後半以降の緊縮財政によって未だに長期デフレ不況から脱却し切れていない日本(名目GDPは1997年以降頭打ち)との明暗を分けた要因です。
図表3はそのことをそのことを端的に示したものです。バブル崩壊後の日米名目GDPの相対的なパフォーマンスと密接なのが、両国財政政策の相対的な積極度合いであることは明らかです。

【図表3:日米バブル崩壊後のマクロ経済指標の相対パフォーマンス】
日米バブル崩壊後の相対パフォーマンス

実際、相対的なパフォーマンスの分岐点となっているバブルのピーク後4年目までに、アメリカは名目GDPがほぼ半減する壊滅的な恐慌状態に陥っていますが、これは当時の緊縮財政の結果である(金融はむしろ緩和されていた)、というのが当時のデータから読み取れる事実です。
↓参考記事:島倉原「日米のバブル崩壊後を比較する」
http://asread.info/archives/470

公的資金による株式買い支えも一種の(マネタリーベース拡大が伴わないという意味では通常よりも小粒な)金融政策ですが、積極財政を伴わずに行ってもせいぜい短期的な効果しか得られません。むしろ株価の高値づかみによって、国民の資産である年金基金の運用が中長期的に悪化するリスクが懸念されます。
しかも、均衡財政主義が根強い政府の発想からすれば、「運用悪化⇒政府による年金補填の増加⇒他の支出分野の切り詰め(緊縮財政)⇒さらなる株価下落による運用悪化」といった悪循環の発生も十分あり得るでしょう。
↓参考記事:山崎元「GPIFが株式を買い増ししない方がいい『5つの理由』」(ダイヤモンドオンライン)
http://diamond.jp/articles/-/54650

公的資金を活用した株価対策など経済対策として「邪道」であり、所詮は長続きしない対症療法に過ぎません。
株価そのものを目的にするのではなく、積極財政によって経済成長と共に企業の利益も増やすことによって、「結果的に株価も上昇する」というのが、本来のあるべき姿なのです。
実際、日本の株価は2013年の1年間で全体として50%以上上昇しましたが、この間の名目GDPの拡大の9割超は公的部門の需要拡大によるものです(図表4)。

【図表4:2013年名目GDP・対前年増加額の要因分析(兆円)】
2013年名目GDP増加要因


NISA投資枠の拡大に付きまとう懸念点

NISA投資枠の拡大が経済成長につながるものではないことは、公的資金による買い支えと全く同じです。
むしろ、緊縮財政のもとでNISA投資枠の拡大を行うことには、以下の2つの懸念があります。

まず、NISA投資枠の拡大は、お金を持っている人をより優遇することによって、いわゆる格差拡大を助長する可能性があります。
実際、金融庁の調査によると、現在NISAを積極的に使っているのは金融資産を豊富に持つ高齢者層が大半の一方で、若年層を中心とした投資未経験者・初心者のNISA利用を妨げている最大の要因は、

「資産運用をする資金的余裕がないから」(回答率65.1%)

なのです。
↓参考:金融庁「NISA口座の利用状況等について」(2014年6月)
http://www.fsa.go.jp/policy/nisa/20140623-1/01.pdf

こうした状況を招いている最大の要因は、緊縮財政によって公共事業を中心に非社会保障支出が削減されたことによる、世代間の所得格差拡大です。
モデルとなっているイギリスのISA(Individual Savings Account = 個人貯蓄口座)同様、家計の資産形成を支援する、という大義名分はあるのでしょうが、こうした状況を解消しない限り、投資枠を拡大しても大義名分に見合った効果は到底得られず、むしろ格差拡大の弊害の方が大きいでしょう。

2つ目の懸念は、NISAそのものの問題ではありませんが、緊縮財政あるいは均衡財政主義のスタンスのもと、非課税投資枠拡大に見合った増税スキームが別途検討される可能性(あるいは、消費税の10%への引き上げを正当化する口実として使われる可能性)です。
これは、法人所得税を引き下げる一方で、消費税や外形標準課税の増税が検討されているのと全く同じ構図です。こうした政策が却って経済全体の格差や不安定さを拡大し、活力を低下させる恐れさえあることは、以前も指摘した通りです。
↓参考記事:島倉原「積極財政こそが成長戦略」
http://asread.info/archives/750

ここでも、先ほど示した、

名目GDP+補助金=家計所得+企業の営業余剰+固定資本減耗+間接税

の式に従って、

積極財政によって名目GDPを拡大する

若者を中心とした現役世代の家計所得が増えて貯蓄の余裕が生まれ、選択肢の1つとしてNISA口座を通じて株式や投資信託に投資する

企業利益の拡大に裏付けられた持続的な株高によって、家計の資産形成も促進される


とするのが、正しい経済政策のあり方ではないでしょうか。


NISA制度を改善するなら非課税期間の撤廃を

余談ですが、家計の資産形成支援を目的にNISA制度を改善するのであれば、投資枠拡大よりも、現在は5年に限られている非課税期間撤廃を優先すべきではないかと思います(本家のイギリスにはそうした期間制限は存在しません)。
なぜなら、株式・債券とも短期的には元本割れするリスクがあり(特に変動が激しいのが株式)、国によって実績に差はあるものの、長期的に安定的なリターンを得るには20年以上の投資期間を要するのが一般的だからです(図表5はイギリスの事例)。
また、非課税期間が終了した時点で投資した金融商品を売却していなかった場合、売却益の算定根拠となる取得価額が現実に取得した価格と乖離が生じるなど、非課税期間の存在が制度の内容をわかりにくくし、使い勝手を悪くしていることも問題点として挙げられます。

【図表5:イギリスにおける投資期間別リターン実績(測定期間:1899~2011年)】
英国株投資期間別リターン

英長期国債投資期間別リターン

ちなみに、現在の日本の株価は、配当によるリターンを勘案してもなお25年前と比べて30%強のマイナスです。すなわち、「株式投資は長期で行えば、預貯金よりも高いリターンが見込める」という一般論すら、そもそも成り立っていない状況です(2014年6月末時点)。
これもまた緊縮財政のなせるワザと考えれば、積極財政無しに投資の普及促進を図るのが、国の政策としていかに矛盾しているか、おわかりいただけるのではないでしょうか。

※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等下記ソーシャルボタンのクリックにご協力いただけると幸いです。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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