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公共事業は人手不足解消の処方箋

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「公共事業は人手不足解消の処方箋」というタイトルで、全体で約45分のプレゼンテーションです。

公共事業は財政政策の柱の1つであると共に、東日本大震災からの復興・国土強靭化・老朽化したインフラの更新といった観点からの膨大な需要が存在します。
他方で、「無駄遣いや利権の温床」といったマイナスのイメージが報道され、この15年余りは緊縮財政の中でも最も支出が削減された分野です。
さらに直近では、公共事業の拡大は建設工事費や建設労働者の賃金を招くだけで実質的な経済効果に乏しいのみならず、小売・外食産業の出店計画見直しなどをもたらす「民業圧迫要因」であるかのような評論・報道が目につきます。

今回は、こうした評論・報道が「公共事業の長期にわたる削減が近年における土木・建設産業の供給力不足を招いている」「小売・外食産業は『デフレ環境下における出店拡大』という供給過剰のワナにハマってきた」という現実を無視した不当なものであること、むしろ公共事業の継続的な拡大は、経済成長を通じて民間企業の利益成長機会を提供すると共に、土木・建設産業の供給力向上と小売・外食産業の過剰出店への歯止めを通じて、国民経済の適正な資源配分をもたらすことを指摘しています。

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(前半)公共事業は人手不足解消の処方箋①
(後半)公共事業は人手不足解消の処方箋②

↓今回のプレゼンテーション資料です。
公共事業は人手不足解消の処方箋.pdf

以下はプレゼンテーションの概要です。
供給力不足に陥っている土木・建設産業

先週発表された4-6月期のGDP速報値は、実質前期比マイナス1.7%(年率マイナス6.8%)、名目前期比マイナス0.1%(年率マイナス0.4%)と、大方の予想通り、大幅なマイナスでした。

(参考記事)
4~6月GDP、年率6.8%減 駆け込み需要の反動」(日本経済新聞、2014年8月13日)

特に、消費税増税でかさ上げされているはずの名目GDPさえも前期比マイナスとなったのは無視できず(前回1997年の増税時には、名目GDPは曲がりなりにも年末まで増加を続けました)、今後の経済動向が懸念されます(図表1)。

【図表1:消費税増税前後のGDP(季節調整値)の動き(増税直前四半期=100)】
http://on.fb.me/1x7stmp

こうした時こそ積極財政、すなわち継続的な財政支出の拡大が重要になるはずです(緊縮財政のまま金融緩和だけ行っても効果が得られないことは、図表2でも示したとおり、1990年代後半以降の日本経済のパフォーマンスが証明しています)。

【図表2:日本の各種マクロ経済指標の推移(1980年=100)】
http://on.fb.me/1t1Nxqj

特に公共事業に関しては、東日本大震災からの復興・国土強靭化・老朽化したインフラの更新といった観点からの膨大な需要が存在し、継続的な拡大が望まれるところです。
ところが、建設工事費や建設労働者の賃金上昇に見られるように、建設資材や建設労働者(土木・建設産業の供給力)が不足する中で公共事業を拡大しても価格が上昇するだけで実質的な事業効果(生産物)につながらない、として、公共事業の経済効果を否定的にとらえる論調が見受けられます。

(参考記事)
原田泰「「[アベノミクス第二の矢]ついに暴かれた公共事業の効果〔1〕

また、「公共事業の拡大による建設コストの上昇や建設労働者の不足が、小売・外食産業の出店規模の縮小や人手不足を引き起こしている」として、あたかも公共事業が民間産業を圧迫して景気回復の足かせになっているかのような報道が、しばしばなされています(リフレ派経済学者の1人である原田氏の上記論稿でも、公共事業が民間投資を押しのけてしまう「建設クラウディング・アウト」について言及されています)。

(参考記事)
小売り、建設費高騰で出店抑制」(日本経済新聞、2014年3月9日)
小売業、外食産業などで『人手不足』が表面化」(Economic News、2014年7月15日)
建設費、21年ぶり高騰 人手不足・資材高で」(日本経済新聞、2014年7月16日)

確かに、企業や家計といった民間部門であれば、供給力不足、すなわち売り手が優位な市場で支出(需要)を拡大するのは、自ら買値を引き上げて高値づかみをする行為とも言え、大抵の場合賢い行動とは言えないでしょう。
では、政府の公共事業についても、供給力不足の状況では支出を抑制すべきなのでしょうか。


公共事業の削減こそが供給力不足の元凶

供給力不足のところで支出を拡大するのが、民間部門の発想では賢い行為でないとしても、東日本大震災からの復興・国土強靭化・老朽化したインフラの更新といった需要、言い換えれば公共事業の必要性は厳然として存在します。しかも、日本列島が集中的に大地震が起こる「地震活動期」にあることが多くの科学者から指摘される状況の中では、こうした安全・安心に対応した公共事業は、可及的速やかに行うべきと言っても過言ではないでしょう。

そもそも、現在の土木・建設産業の供給力不足を招いているのは、1990年代後半以降の緊縮財政の中で、公共事業が支出削減のターゲットにされたことによるものです。GDP統計上で公共事業支出額に相当する2013年の公的固定資本形成は、名目・実質いずれで見ても、1996年のピーク時に比べて53%(ほぼ半減)にとどまっています(図表3)。
公的固定資本形成は建設業の生産額(GDP統計ベース)の4割前後で推移しており、これを半減させること自体が業界にとって多大なインパクトです。さらに、新幹線・高速道路などの輸送インフラ整備が地域開発を促進する例で明らかなように、民間の建設需要の動向もまた、公共事業の動向に大きな影響を受けます。そうした波及効果も合わせれば、公共事業削減が土木・建設業界に与えるインパクトは極めて大きなものになるはずです。

【図表3:名目GDPおよび名目公的支出の推移(1980年=100)】
http://on.fb.me/13DnzVz

そして、緊縮財政による名目経済成長のストップと共に、建設業の供給能力が落ち込んでいることも、GDP統計で確認することができます。図表4は、産業別の実質資本ストック(減価償却控除前)と就業者数の推移を、名目GDPがピークをつけた1997年の数値を100として示したものです。建設業の実質資本ストックが1990年代後半以降、それまでほぼ同一トレンドで推移してきた全産業のそれに比べて下方かい離していること、就業者数については製造業と同様に他産業と比較して落ち込んでいることがわかります。
就業者数については、製造業には輸入という代替の供給手段があり、現に日本企業自身も海外生産にシフトしているのに対し、建設業では地域性の高さもあってそうした代替が効きづらいことからすれば、建設業における労働力の落ち込みがより深刻であることは明らかです。

【図表4:産業別実質資本ストックと就業者数の推移(1997年=100)】
(実質資本ストック・減価償却控除前)
http://on.fb.me/10hOLqz

(就業者数)
http://on.fb.me/1E18Miw

公共事業削減が土木・建設業界に与えるインパクトを踏まえれば、こうした建設業の供給力低下が、緊縮財政下の公共事業削減によるものであることは明らかでしょう。なぜなら、長期にわたる公共事業の削減によって事業機会(利益成長機会)が奪われれば、土木・建設産業としては長期的な生産能力を確保する手段である「投資」への意欲が失われるからです。資本ストック量や就業者数(=雇用量)とは、生産設備や人材への投資の結果そのものです。
この状況を打開するには、これまでと逆の政策、すなわち公共事業の拡大を行うべきです。そうして土木・建設産業の利益成長機会を創出すれば、「生産設備や人材への投資⇒供給能力の改善」というこれまでとは逆の好循環プロセスが働きます。

ただし、単発的な景気対策として公共事業を行うだけでは、「投資」というある程度長期的な見通しをもってなされる行為にはつながりません。業界の投資マインドを定着させるには、まさに国土強靭化のようなビジョンに基づき、予算を伴った長期的な公共事業計画を策定すべきです。
また、緊縮財政の時とは逆の発想で、適正な率での公共事業単価の引き上げを継続的に行うべきです。そうすることによって土木・建設業界の賃金がアップして人が集まるようになり、供給力不足の解消が見込まれます。
すなわち、公共事業という「需要」の拡大こそが、人手不足を含めた「供給能力不足」の解消をもたらす処方箋なのです。日本経済全体で見ても、賃金アップによって消費が活発になることで、デフレ不況の着実な解消にもつながります。


小売・外食の出店縮小は、資源配分適正化に向けた一里塚

公共事業を継続的に拡大していけば、土木・建設産業の供給能力が追いつくまで建設コストが上昇するのは需要と供給の法則に基づく道理です。しかし、これを「民業圧迫」ましてや「景気回復の足かせ」と論評するのは以下の理由で誤っています。
そもそも、小売・外食産業はデフレ不況で売上高が伸びない環境であるにもかかわらず、従業者数や売場面積といった「供給能力」を拡大したことによって、いわば「供給過剰産業」と化しています(図表5、図表6)。

【図表5:小売産業の商品販売額/従業者数/売場面積の推移(1997年=100)】
http://on.fb.me/1x0esKF

【図表6:外食産業の市場規模(売上高)/従業者数の推移(1996年=100)】
http://on.fb.me/1tE2jJ7

これは、総売上を伸ばせば当面の決算を良くすることができるために、個々の企業にとっては(主に新規大型店舗の出店による)店舗規模の拡大が一見合理的な選択となるからです。しかしながら業界全体として見れば、結果として経営効率すなわち「従業員あたり売上高」もしくは「売場面積あたり売上高」が低下し、従業員の雇用も非正規雇用中心で低賃金となり、総じて見れば業界関係者の誰も幸せになっていない状況です。
したがって、小売・外食産業全体、日本経済全体といったマクロのレベルで見れば、「公共事業拡大⇒建設コスト上昇⇒小売・外食産業の出店意欲低下」はむしろ、小売・外食産業の供給過剰状態を是正し、日本経済全体における資源配分の適正化(小売・外食産業から土木・建設産業への設備投資や雇用のシフト)をもたらす望ましいプロセスと捉えるべきです。
さらに、公共事業拡大によって民間(直接的には土木・建設企業とその従業員)の所得が増えれば、それは新たな消費や投資を生み出します(生み出された消費や投資が土木・建設業界関係者以外の別の誰かの所得になり、さらなる消費や投資を生み出す…これこそまさしく乗数効果です)。これは小売・外食産業にとっては売上拡大要因です。
つまり、公共事業の拡大は民業圧迫どころか、小売・外食産業にとって二重の意味で経営効率の向上をもたらす政策なのです。こうして無理な出店競争に歯止めがかかれば、これもまた(小売・外食産業における)「人手不足の解消」をもたらすことでしょう。

現状は、デフレ不況が続く中で出店拡大以外の利益成長手段が見いだせなかった小売・外食産業にとって、公共事業拡大が民業圧迫に映ってしまう(すなわち、短期的には不合理な選択に見える)、いわば過渡期にあると言えるでしょう。
政府としては、こうした状況が短期的に生じるのはやむを得ないことと割り切り、公共事業の拡大を継続すべきです。なぜなら、現在の状況は、緊縮財政という誤った政策を15年以上に及ぶ長期にわたって続けてきた結果であり、そうした状況の是正は一朝一夕になるものではないからです。
ここで短期的な視野に囚われ、「供給能力不足だから」といって公共事業を再び減らしてしまったら、土木・建設産業の供給能力縮小がより一層進んでしまいます。そうすれば、不況から脱却できないのみならず、国民生活の安全も守れなくなってしまうでしょう。長期的な視野に立った財政政策の運営が望まれるところです。

※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等下記ソーシャルボタンのクリックにご協力いただけると幸いです。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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