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新興国危機が起こるとしたら・・・

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「新興国危機が起こるとしたら…」というタイトルで、全体で約50分のプレゼンテーションです。

動画前半:新興国危機が起こるとしたら・・・①
動画後半:新興国危機が起こるとしたら・・・②

2014年6月に、「金融循環がもたらす経済危機?」というタイトルのプレゼンを行いました。
これは、20年弱の周期で世界的な不動産バブルを引き起こす「金融循環」が先進国・新興国間の資金の流れと関係があり、周期的な新興国危機の発生をもたらしている「かもしれない(だとすると、新たな新興国危機が到来しつつある可能性もある)」、という内容です。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-54.html

今回は、「もし、金融循環によって新興国危機が近い将来起こるとしたら」という仮定のもとで、どのような発生シナリオが考えられるかを、マクロ経済や金融市場のデータに基づいて考察しています。
なお、今回提示するシナリオはあくまで上述の通り一定の仮定に基づくものに過ぎません。また、本稿、あるいはプレゼンテーションで述べている内容はあくまで筆者の個人的な見解であり、筆者が勤務するセゾン投信㈱の経営方針やファンド運用方針とは一切関係ありません。

↓今回のプレゼンテーション資料です。
新興国危機が起こるとしたら….pdf

以下はプレゼンテーションの概要です。




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過剰な民間負債が経済危機の原因?

今年の7月、アメリカで “The Next Economic Disaster: Why It’s Coming and How to Avoid It” (次の経済危機:なぜ発生するのか、どうすれば回避できるのか)という本が出版されました。
著者は、地方企業を育成するファンドを運営するGabriel Investmentという会社の重役(マネージング・パートナー)で、リチャード・ベイグ氏という方です。
http://amzn.to/1v1Uxsi
http://gabriel-investments.com/richard-vague/

私自身、同書を読んだわけではありませんが、ベイグ氏自身によって書かれた、自著の紹介を兼ねた論稿(下記URL参照)では、以下のような主張が述べられています。

「一般的に議論の対象になる政府債務の多さは、経済危機とは無関係である。」
「むしろ問題なのは民間部門の債務である。債務が膨れ上がって返済負担が増すと、民間部門の支出(投資、消費)意欲が低下し、供給過剰状態になって経済が停滞する。」
「リーマン・ショック発生前のアメリカも、1990年代のバブル崩壊前の日本も、民間部門の債務がGDPの増加を上回るペースで急激に増大している。これに対して、当時の政府政務はさほど増えていない。」
「過去の主要国のデータを調べたところによると、GDPに対する民間債務の比率が150%を超え、なおかつ同比率の過去5年間における拡大ペースが年間18%ポイントを上回ると、経済危機が発生する可能性が高まる。」
「この結果を踏まえると、中国は特に憂慮すべき状況にある。中国におけるGDPに対する民間債務の比率は、過去5年間で60%ポイント拡大し、2013年時点で200%に達している。」

(参考記事)リチャード・ベイグ「政府の債務(借金)は問題ではない、問題は民間債務である」
http://theatln.tc/1u0EdYG

上記の論稿を踏まえ、日本とアメリカについて、1980年以降の民間債務、政府債務それぞれの名目GDPに対する比率の推移を確認したのがプレゼン資料の5ページと6ページです。

確かにベイグ氏が指摘するように、日米とも、経済危機の直前には民間債務が拡大している一方、政府債務はむしろ抑制されています。
このことは、政府と民間部門(企業、家計)の違いを考えれば、説明が可能です。
すなわち、政府は通常、中央銀行を通じて通貨発行権を持っているわけですから、いくら債務が膨らんだとしても、究極的には国債その他の政府債務を中央銀行に買い取らせれば返済に窮することはなく、支出を続けることが可能です(この「通常」が当てはまらなかったのが、各国政府が通貨発行権を持たないユーロ圏で発生した、ギリシャをはじめとした財政危機です)。
このことは、日本でよく耳にする「過大な債務(名目GDPの200%超)を抱えている日本政府は、国債が暴落して財政破たんするリスクを抱えている(したがって財政支出を切り詰めた緊縮財政を行わなければならない)」という議論が誤りであることを示しています。
これに対して、通貨発行権を持たない民間部門は、無尽蔵にお金を借り続けることができません。
好景気局面では所得の伸び率も相応に高く、将来の返済見通しも楽観的になるため、債務が少々膨らんでも問題にはなりませんが、景気のピークアウトと共にそうした見通しが崩れると、それ以上債務を増やすことが困難になる、というわけです(そうした前提条件の変化と密接に結びついているのが、冒頭で述べた金融循環です)。

なお、ベイグ氏がいわば「危険水域」として指摘した、民間債務の名目GDPに対する比率(150%以上)は、新興国には必ずしもそのまま当てはまらないのではないかと思われます。
すなわち、新興国は一般的には先進国に比べて金融市場が未整備で惰弱であることから、ベイグ氏が指摘した150%を下回る水準であっても、国によっては経済危機が発生する可能性が高まることもあるでしょう。
また、新興国危機の典型的なパターンが、外貨建て資金調達への依存を背景とした、国外への資金流出による通貨や株価の暴落であることを踏まえれば、経常収支や対外債務残高といった、国外との資金のやり取りに関連する経済指標を確認しておく必要もあるでしょう。
こうした考察を踏まえつつ、現状を分析する手がかりとして、前回の大規模な新興国危機であるアジア通貨危機を検証してみたいと思います。


過剰な民間負債と経常収支の悪化が引き金となったアジア通貨危機

9月21日の日本経済新聞朝刊に、アジア通貨危機当時の状況を振り返る特集記事が掲載されていました。
http://s.nikkei.com/1roK5Kk

当該記事には、アジア通貨危機のきっかけについて、以下のように記されています。

「アジア各国をドミノ倒しのように襲った通貨危機の最初の兆候は、97年1月に表面化した。著名投資家ジョージ・ソロスのファンドが先物市場で、タイのバーツなど東南アジア通貨に空売りを仕掛けたのだ。
 すでに「タイ経済は過熱気味」と警戒していた国際通貨基金(IMF)はバーツへの攻撃を憂慮してドル連動の見直しを求めた。タイ当局はこれを拒み、1ドル=25バーツ前後の固定相場を守るため、ドル売り・バーツ買い介入の防衛で応じた。バーツ売りにはゴールドマン・サックスなど米金融機関も参戦し、外貨準備はどんどん減っていった。
 6月にはタイの銀行や企業もバーツ売りに走った。満期が迫る短期債務を返済するには数十億ドルの外貨が必要だった。外国金融機関に再融資や借り換えを断られ、手持ちのバーツをドルに替えるほかなかった。
 バーツを買い支えきれなくなったタイ中銀は7月2日、ついに変動相場への移行を発表した。バーツは1ドル=29バーツ前後と1割以上急落したが、株価は事態収束への期待で上昇した。会見した中銀総裁のレーンチャイ・マラカノンは「ようやく眠れる」と安堵した。
 危機の火種はどこにあったのか。ソロスらが着目したのは東南アジア経済に蓄積された不均衡だった。
 世界銀行が報告書「東アジアの奇跡」でアジア諸国の高成長を称賛したのが93年。90年代後半には、対日本円でドル高が進むなか、事実上のドル連動だったルピアやバーツなどの通貨価値は実力以上の水準に押し上げられた。通貨高は日米欧の投資マネーをひきつけ、東南アジアの成長加速と資産バブルを招いた。
 背後では国際収支の悪化が進んだ。危機の直前には経常収支の赤字がタイで国内総生産(GDP)の約8%、インドネシアは3%超に達した。後にノーベル経済学賞を受けるポール・クルーグマンは94年の論文「まぼろしのアジア経済」で成長の要因について生産性向上よりも投資や労働力などの「投入」の結果にすぎないと喝破していた。」
(引用終わり)

この記事によると、ソロス・ファンドが経常収支の不均衡に着目してタイやマレーシアの通貨を空売りしたことがアジア通貨危機のきっかけとなっています(後者は記事本文では省略されていますが、添付図表では明記されています)。
実際、通貨危機直前の1996年における両国の名目GDPに対する経常収支の比率を見ると、タイはマイナス7.9%、マレーシアはマイナス4.4%となっています。
また、名目GDPに対する民間負債の比率も急激に拡大しており、1996年にはタイで159.2%、マレーシアで151.1%に達しています(プレゼン資料7、8ページ)。

さらに、両国の株価および通貨価格の推移を見ると、タイの株価はソロス・ファンドが空売りを仕掛ける以前の1995年半ば頃から頭打ちになっています(プレゼン資料9、10ページ)。
つまり、同じように投機の対象になりながら、マレーシアではなくタイが通貨危機の震源地になったのは、同国経済の悪化が既に顕在化しつつあった(言い換えれば、通貨価格を対米ドルで固定することが無理であることが既に明らかなほど、経済が悪化していた)ことによると考えられます。
そして、タイを端緒として始まったアジア通貨危機は、共に投機の対象になっていたマレーシアのみならず、インドネシア、韓国、フィリピンなどにも波及していきます。
さらに、必ずしもマクロ経済に問題があった訳ではない他の新興国からも資金が流出し、1998年にはロシア通貨危機が発生した他、通貨危機が発生しなかった中国でも株価が8割以上下落しています(プレゼン資料11、12ページ)。


次なる新興国危機の震源地は?

「先進国通貨への事実上の固定為替相場制」「大幅な経常赤字」「急増する過大な民間債務」「マクロ経済の悪化」という惰弱な経済構造で、経済危機の震源地としての条件を見事に兼ね備えていたのが、アジア通貨危機当時のタイでした。
現状は、この条件にピッタリ当てはまる国は存在しないように思われます。他方で、ベイグ氏が危機のシグナルとして指摘している「民間負債の急増」という現象は、アジア通貨危機当時と同様、新興国を中心に生じているのは事実です。

この現象を、「金融循環」というコンセプトに基づいて整理すれば、

「金融循環の上昇局面では、不動産バブルの発生と共に先進国で民間負債が急増」

「バブル崩壊」

「金融循環の下降局面では、新興国で民間負債が急増」

「新興国危機(循環のボトムへ)」

というサイクルが生じている、と言えるのかもしれません。
したがって、実際に起こるかどうかは別にして、「危機のマグマ」がたまっている可能性は否定できないのではないかと思います。

まず、「急増する過大な民間債務」という条件が当てはまるのは、ベイグ氏が注目している中国、そして韓国で、共に名目GDPの200%前後に達します(プレゼン資料15、16ページ)。
ただし、両国はいずれも経常黒字(韓国はアジア通貨危機当時、経常赤字でした)ですし、アジア経済全般の基調がアジア通貨危機当時と比べて強固で柔軟性もあることもまた事実です。
もちろん、他地域を震源地として新興国危機が発生した場合には、アジア通貨危機当時の中国がそうであったように、資産価格の暴落に見舞われるリスクは多分に(民間債務が過大なことを加味するとより一層)あるでしょう。

「事実上の固定相場制で、マクロ経済が悪化している(民間債務も増加または高止まりしている)」という意味では、統一通貨ユーロへの参加を目指している東欧諸国が挙げられます(すなわち、この場合の固定対象は、米ドルではなくユーロです)。
ウクライナ危機の影響も相俟ったユーロ圏経済の不振が、危機勃発のリスクをさらに高める可能性も否定できません(そもそも、ポール・クルーグマンが下記の記事でも指摘している通り、ロシアも含む同地域の経済不振が、ウクライナ危機の背景の1つになったとも考えられます)。
全般的に対外負債への依存度も高く、個人的には、震源地となるリスクが現時点で最も高い地域ではないかと考えています。

特に、直近こそ経常黒字で民間負債も減少傾向にあるものの、政府債務も民間債務も大半が外貨建て(米ドル、ユーロ、スイスフランetc.)で、対外債務が名目GDPの120%を超える(新興国株指数構成国の中ではギリシャに次ぐ水準)ハンガリーが目を引きます(プレゼン資料17、18ページ)。
現に、ハンガリー議会が今年7月4日、外貨建て債務を保有する家計を救済する法案(いわば徳政令)を可決して損失拡大懸念が生じたことで、業績悪化懸念が生じたオーストリアの銀行株が急落し、この頃からユーロの対米ドル相場も明確な下落トレンドに転じています(対スイスフラン相場も8月以降下落トレンドです)。
これは、自国通貨をユーロにほぼ固定しているハンガリーにとっては、既に債務返済負担が高まっていることを意味します。
そして、債務返済負担の高まりがさらなるマクロ経済環境の悪化を誘発し、新たな金融危機の引き金を引く(場合によっては対ユーロ固定相場が維持困難になって危機が加速する)、というシナリオも考えられるかもしれません。

(参考記事)ポール・クルーグマン「日本経済は消費税10%で完全に終わります」(週刊現代、2014年9月13日発売号)
http://bit.ly/1riKIGx
(参考記事)オーストリア・エルステ銀行の株価急落、東欧リスク懸念を嫌気(ロイター、2014年7月5日)
http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPKBN0F91SK20140704
(直近のユーロ/ドル相場チャート~くりっく365サイト)
http://tfx.jfx.jiji.com/market/fx/chart?code=EUR%2FUSD

「経常赤字拡大や民間債務増加と共に、経済環境が悪化している地域」という意味では、トルコやブラジルが挙げられます(トルコの場合、ユーロ圏とのつながりという観点から、東欧と並べて論じるべきかもしれません)。
共に自国通貨の下落トレンドが既に3年程度続いており、震源地となる可能性は高くないかもしれませんが、他地域を震源地とする新興国危機が波及する可能性は十分あるでしょう(プレゼン資料19~22ページ)。

繰り返しになりますが、震源地の特定までは至らなくとも、新興国全般で「危機のマグマ」たる民間債務の拡大が進行していることは事実です。
また、アメリカの量的金融緩和政策が10月に終了することも、今以上の債務拡大を困難にしかねない(言い換えれば、債務拡大を支えている資金を新興国から先進国へと逆流させかねない)という意味で、不安要因たる大きなイベントです。
あるいは、前回のように特定地域が震源地となって大規模な金融危機が発生するのではなく、新興国経済の相対的なパフォーマンスが断続的かつ緩やかに低下していくのかもしれません。
いずれにしても、新興国経済の先行き、あるいはそれがもたらす世界経済全体への影響に関して、楽観視できないのではないでしょうか。




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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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