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積極財政こそが財政健全化を実現する

インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「積極財政こそが財政健全化を実現する」というタイトルで、全体で約50分のプレゼンテーションです。

動画前半(無料)
動画後半(有料)

「経済の活性化や所得の拡大には、政府が支出を拡大する積極財政が必要だ」という議論の前に常に立ちはだかるのが、

「財政赤字や債務の(名目GDPに対する)規模が大きい日本政府には、支出を拡大する余力がなく、むしろ増税や支出削減を行う緊縮財政を行うべきである」

という反論です。
こうした反論は一見もっともなようですが、実は、

「緊縮財政こそがむしろ財政悪化問題の元凶であり、積極財政を行うと、財政赤字はむしろ縮小する」

のが日本経済の現実の姿です。
今回は、こうした構図が成立するメカニズムを、現実のデータを示しながら説明しています。

↓今回のプレゼンテーション資料です。
積極財政こそが財政健全化を実現する.pdf

以下はプレゼンテーションの概要です。




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「財政健全化」と「緊縮財政」は必ずしも同義ではない

「財政健全化=政府の収支を改善する」と考えれば、

財政健全化のためには、(収入を増やすための)増税と支出削減の一方、もしくは両方からなる「緊縮財政」が必要である。

と言われれば当然のように聞こえるでしょう。
事実、こうした言説は、私が折に触れて批判の対象にする主流派経済学者のみならず、ケインズ理論を比較的オリジナルに近い形で引き継いでいるとされるポスト・ケインジアンに属する経済学者からも当然のようになされています。
例えば、服部茂幸『アベノミクスの終焉』(岩波新書、2014年)では、以下の通り述べられています。

「日本の財政赤字を解消するためには、多額の増税か支出削減、おそらくはその両方が必要である。」(同書132ページ)
http://amzn.to/1t4AABb

上記引用部分では「財政収支を改善するためには」ではなく、あくまでも「財政赤字を解消するためには」という表現が用いられています。また、上記引用の前後には「もっとも、財政ファイナンスが悪いことかどうかは別である。」「しかし、こうした抜本的措置(=多額の増減と支出削減、引用者注)は難しいだけでなく、かえって望ましくないかもしれない。」という表現も見られ、服部氏は積極財政そのものを否定している訳ではありません。
しかしながら、上記引用部分が「財政収支の改善に貢献するのは増税か支出削減」というニュアンスであることに変わりはありません。また『アベノミクスの終焉』全体として、財政政策に一定の効果を認めつつも、財政支出の拡大を積極的に肯定している訳ではないのも事実です。

確かに、政府にしろ、家計や企業といった民間の経済主体にしろ、仮に「自分の経済活動を変更しても、外部の経済主体は全く影響を受けない」ということであれば、

「価格を引き上げても外部の経済活動は変化しないため、税率アップ分だけ収入が増えて、自らの収支は改善する(消費税などの『税率』は、政府がコントロールする価格の一種と考えられます)。」
「支出を削っても、外部から支払われる自らの『収入』は全く変わらないため、自らの収支は改善する。」
「これらとは逆の積極財政(減税もしくは支出拡大)を行えば、自らの収支は悪化する。」

のは当然でしょう。

しかしながら、こうした結論は正しいとは限りません。なぜなら、

「自分の経済活動を変更しても、外部の経済主体は全く影響を受けない」という前提自体が現実には成り立たない

からです。

例えば、消費税増税のような「値上げ」を行えば人々の買い控えが起きるため、実質的な消費活動(「消費量」と言い換えることもできます)は低下します(事実、直近の消費税増税後、消費の落ち込みを示すニュースは後を絶ちません)。このことは、政府の収入ひいては収支にはマイナス要因です。

また、「誰かが支出を行えば必ず別の誰かが同額の所得を手にし、誰かの所得が発生する時には別の誰かが必ず同額の支出をしている」(「別の誰か」は複数からなる場合もあります)のが現実の経済です。このことは、経済学派の違いを越えて成立しているマクロ経済の真実です。
したがって、政府が支出を削る時には、家計や企業のような民間の経済主体の誰かが、その分所得を失います。所得を失った経済主体がその分支出を切り詰めてやりくりしようとするでしょう。そうなれば、国全体の経済活動水準(GDP=国内総支出=国内総所得)が低下し、消費税のみならず所得税・法人税も含めた税収全般がその分落ち込むでしょう。これもまた、政府の収支にとってはマイナス要因です。

言うまでもなく、減税や支出拡大のような積極財政を行えば、これらとは逆のメカニズムによって、政府の収支にプラスに働きます。

結局、積極財政にせよ緊縮財政にせよ、財政収支にとってはプラス・マイナス両方の要素をはらんでいるのです。すなわち、「緊縮財政→財政収支改善」「積極財政→財政収支悪化」という単純な図式ではなく、現実問題として財政収支の改善に有効なのがどちらか、という問題は、各々の政策においてプラスとマイナスの影響いずれが大きいか次第、ということになります。
すなわち、そうした事実関係を確認しないまま、「財政健全化」と「緊縮財政」が当然同じ意味であるかのように論じている一般的な言説は、正しいとは限らない(少なくとも論理的には誤っている)のです。


企業の投資意欲向上が、財政収支を改善する

では、財政政策は政府の収支にトータルではどのような影響を及ぼすのでしょうか。これを判断するカギとなるのが、

「政府の貯蓄=投資バランス(≒国・地方自治体を含む政府全体の財政収支)は、企業の貯蓄=投資バランス(会計上の『フリー・キャッシュ・フロー』に近い概念)と裏腹である」

という日本経済における歴然とした事実です(図表1参照)。

【図表1】一般政府と非金融法人企業の貯蓄=投資バランスの推移(名目GDP比、1955~2012年)
http://on.fb.me/1wUHmu8

図表1では、政府と企業の貯蓄=投資バランスの目盛りは逆向きになっています。つまり、企業の収支(フリー・キャッシュ・フロー)が改善する時には財政収支が悪化し、企業の収支が悪化する時には財政収支は改善します。
こうした図式が成り立つのは、先に述べたマクロ経済の真実(公理)が存在するからです。すなわち、「誰かの支出は別の誰かの所得である」ということは、

「誰かが赤字の時には別の誰かが黒字である(全ての経済主体の黒字・赤字を合計すれば、必ずゼロになる)」

ということに他なりません。

一般に好景気の時は、強気の将来見通しを持った企業の先行投資が活発化し、企業の収支は悪化します(いうまでもなく、ここでの収支は「会計上の利益」とは別物で、利益はこの時増加します)。こうした局面では国全体の経済活動水準も向上して税収が増えるため、財政収支は改善します。不景気の時はその逆です(なお、下記図表2が示すように、それ以外の経済主体である家計部門や海外部門の収支動向は、財政収支の動向とはほとんど連動していません)。

【図表2】国内各経済主体の貯蓄=投資バランスの推移(1955~2012年)
http://on.fb.me/1wUHVnH

デフレ不況が始まった1998年以降、それまで恒常的にマイナスだった企業のフリー・キャッシュ・フローが逆に恒常的なプラスに転じると共に、財政赤字の水準(名目GDP比)もそれ以前に比べて一段と悪化しています(2006~2008年にかけて改善しているのは、世界的な不動産バブルによる一時的なものに過ぎません)。名目GDPはその前年の1997年にピークを打っています。
名目GDPとは国全体の所得であり、企業の利益もその一部です。つまり、名目経済成長ストップによる将来の利益成長見通し喪失が企業の投資意欲が低下を招き、財政収支の悪化とデフレ不況をもたらしているのです。


積極財政こそが、財政収支を改善する

私が常日頃指摘しているように、日本の長期にわたる名目ゼロ成長をもたらしているのは緊縮財政です(図表3および4参照)。

【図表3】日本の各種マクロ経済データの推移(1980~2013年)
http://on.fb.me/1t1Nxqj

【図表4】財政支出伸び率と経済成長率の国際比較(24カ国、1997~2013年の年平均)
http://on.fb.me/1wUxylr

つまり、「財政赤字を減らすためには緊縮財政が必要である」という一般的な言説とは逆に、

緊縮財政こそが財政収支悪化の原因である。

というのが日本経済の現実なのです。

図表4で示される

「長期的に見ると、経済成長率は財政支出の伸び率にほぼ等しい」

という事実は、「家計や企業のような民間部門の支出水準は、自らの現在所得に制約される」という命題から導き出すことができます。この命題自体は、

「現在の所得動向は将来の所得見通しにも強い影響を与えるため、日常的な消費支出のみならず、将来の所得を見込んだ投資支出の判断もまた、結局は現在の所得動向に左右される。」
「通貨発行権を持たない民間部門は、無尽蔵に資金調達を行えないため、仮に現在の所得動向とかけ離れた将来の所得見通しを持っていたとしても、現在所得の裏づけがないまま支出を大幅に拡大することは現実的には困難である。」

という2つの現実的な前提から導き出すことが可能です。
つまり、他人の支出がなければ所得を手にすることができないマクロ経済の現実の下では、民間部門は国全体の所得水準の上下に自立的に関与することは事実上ほぼ不可能なのです。究極的にそのことが可能なのは通貨発行権を持つ政府だけあり、その結果が「長期的に見ると、経済成長率は財政支出の伸び率にほぼ等しい」という現実をもたらしていると考えられるのです。
また、(図表3のグラフでは小さくて読み取りづらいと思いますが)財政支出のピークは名目GDPやGDPデフレーターのピークより1年早い1996年です。これもまた、「緊縮財政が名目ゼロ成長の引き金を引いた」という結論を補強する事実です。

こうした「緊縮財政→財政収支悪化、積極財政→財政収支改善」の構図が現実のものであることを端的に示したのが図表5および図表6のグラフです(景気循環の影響を受けるため、これまでの図ほど相関関係は高くありませんが)。

【図表5】名目GDP成長率と財政収支の相関関係(1956~2012年)
http://on.fb.me/1yOzfi8

【図表6】名目公的支出伸び率と財政収支の相関関係(1956~2012年)
http://on.fb.me/13vzmVI

すなわち、

財政収支の悪化とは、「政府の無駄遣い」ではなく、「緊縮財政によるマクロ経済の停滞」の結果

に他ならないのです。

1997年以降の日本経済は、「緊縮財政→経済活動の停滞と財政収支の悪化→さらなる緊縮財政への固執」という悪循環に陥っています。
すなわち、

消費税の再増税などさっさと取り止め、毎年支出総額を拡大する積極財政に転換して経済成長と企業の投資意欲を復活させ、国力強化と財政収支改善を共に実現するのが、正しい経済政策の姿である

ことは明らかではないでしょうか。

他方で、現政権のように金融緩和を主力に据えても経済成長につながらないことは図表3のグラフが示している通りです。また、いわゆる構造改革は、所得分配のルールを変えるだけで国全体の所得を増やすわけではありません。これらの政策の役割は、主役である財政政策の実行や所得分配の適正化をサポートする、補完的なものであると考えるべきなのです。

※日本経済再生のための財政支出拡大の必要性については、徐々に理解者・支持者が増えているとはいえ、まだまだ主要マスコミでのネガティブな報道等の影響力が強いのが現状です。1人でも多くの方にご理解いただくため、ツイッター、フェイスブック等での当記事の拡散や、ブログランキングボタンの応援クリックにご協力いただけると幸いです。




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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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