雇用は本当に改善しているのか
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インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「雇用は本当に改善しているのか」というタイトルで、全体で約35分のプレゼンテーションです。
・動画前半:雇用は本当に改善しているのか①
・動画後半:雇用は本当に改善しているのか②
(前半は無料の会員登録でご覧いただけます。後半は有料の会員登録が必要です。)
アベノミクスの成果が論点としてクローズアップされた、先の衆議院議員選挙でも、雇用環境の改善の有無を巡り、与野党間で主張が対立していました。
その意味では遅ればせながらですが、雇用に関する複数の統計を検証することによって、現実にはいずれの主張が妥当であるかを明らかにしてみよう、というのが今回の趣旨です。
(追記:今回提示しているデータの出所ですが、動画上で「厚生労働省」となっているもののうち、有効求人倍率のグラフ以外については全て「総務省(労働力統計)」の誤りです。本記事やリンク先の資料についても、可能な限り追って訂正します。失礼いたしました。)
↓今回のプレゼンテーション資料です。
雇用は本当に改善しているのか.pdf
以下はプレゼンテーションの概要です。
雇用を巡って対立した与野党の見解
先の選挙では、雇用や賃金の好転をアピールする与党に対し、野党が別のデータを使って反論する、という図式でした。そこで見られた、お互いが自らに都合の良い数字だけを持ち出す実態については、以下の記事に要領よくまとめられています。
(参考記事)
「アベノミクス是非、「有利な数字」が前面に」(朝日新聞DIGITAL、2014年12月7日)
http://www.asahi.com/articles/ASGD666MVGD6ULFA00G.html
上記記事や、今回の総選挙に際して自民党から示された「重点政策2014」を参考にして与野党の論点を賃金・雇用者数それぞれについて整理すると、以下のようになります。
【賃金について】
(与党)
◆連合の調査によると、賃金は15年ぶり、ボーナスは24年ぶりの上昇率である。
◆(野党は1人当たり実質賃金が伸びていないことを批判するが、)雇用者数が増えた結果、雇用者全体の所得(総雇用者所得)は増えている。
(野党)
◆連合の調査対象は労働組合のある企業の一部であり、しかも非正規社員は含まれない(民主党)。
◆物価上昇率を差し引いた実質賃金指数は、2013年7月以来16カ月マイナスである(共産党)。
【雇用者数について】
(与党)
◆雇用者数全体は2012年7-9月期から2014年7-9月期にかけて100万人増えた。(野党は正規雇用の減少を指摘しているが、)正規雇用に限っても、1年前と比べれば10万人増えている。
◆2012年12月から2014年9月にかけて、女性の就業者数が約80万人増加している。
◆有効求人倍率は22年ぶりの高水準で、高校生の就職内定率は2012年9月から2014年9月にかけて約13%改善した。
(野党)
◆2012年7-9月期から2014年7-9月期にかけての雇用者数増加は非正規雇用123万人によるもので、正規雇用は逆に22万人減っている。増えた101万人のうち、54%を女性の非正規雇用が占める(民主党、共産党、生活の党)。
◆有効求人倍率の上昇は民主党政権時代からの伸びが今も続いているに過ぎない(民主党)。
上記の対立は、異なる統計を用いたり、同じ統計でも異なる部分を切り出したことによって生じたもので、いずれもウソではありません。例えば、長期的な有効求人倍率の推移は図表1の通りで、現時点では与党の主張通り、わずかではありますが2007年をピークとするいざなみ景気時の水準も超え、22年ぶりの高水準です。
【図表1:有効求人倍率(季節調整値)の長期推移(1963年~)】
http://on.fb.me/1zhU7wy
以下では、賃金・雇用者数の順に、与野党の議論の妥当性を検証してみたいと思います。
総雇用者所得も実質的には低下している
野党の実質賃金低下批判に対して安倍首相が持ち出した「総雇用者所得」とは、GDP統計上の「雇用者報酬」のことであると考えられます。これは、1人当たりや家計単位の給与所得ではなく、日本経済全体で雇用者(役員含む)に支払われた所得を意味します。
では、雇用者報酬は実際にどうなっているのでしょうか。図表2は、2004年以降の四半期雇用者報酬(季節調整された年換算値)の推移を、名目・実質双方について示しています。
【図表2:名目・実質雇用者報酬の推移(2004年以降、年換算した季節調整値、兆円)】
http://on.fb.me/1A4LnxT
確かに、名目雇用者報酬はアベノミクス以降増加トレンドを続けており、安倍首相が「増えている」と言ったのは、こちらのことと思われます。これに対して、実質雇用者報酬の方は2013年1-3月期にピークを打ち、以降は減少トレンドで推移しています。
しかしながら、野党は1人当たり実質賃金の低下を批判している訳ですから、総額ベースで反論する場合にも、「実質」雇用者報酬に基づいて行われるべきです。実際、1人当たり賃金にせよ総額としての雇用者報酬にせよ、名目ベースで上昇しさえすれば良いのであれば、不況とインフレが同時に起こるスタグフレーションでも良いことになってしまいます。したがって、賃金に関する与党の議論は明らかに不当です。
雇用者数も実態的にはほとんど改善していない
与党は全体の雇用者数、特に女性の雇用者数が増えたことを掲げてアベノミクスの成功をアピールしました。ところが、正規・非正規の問題は別として、これは以下の2つの理由から、議論の仕方として適切とは言えません。
まず女性の場合、本来家庭で家事・育児に専念したかったにもかかわらず、家計が苦しくなったことでやむを得ず外で働いている、というケースが少なからず考えられるからです。典型的なのが、主婦が家計を支えるためにパートタイマーになるケースです。こうしたケースが増えるのはむしろ経済環境の悪化を示すともいえ、これをもって「雇用が改善した」というのは適切ではありません。
また女性の場合、社会進出が進むことで、時間の経過と共に自然に雇用者数が増加する影響も無視できません。そのことによって、雇用環境が全く改善していない、場合によっては悪化しているにもかかわらず、雇用者数が増加するケースもあり得るわけです。
さらに、上記のうち1番目の理由については高齢者、2番目の理由については(逆の意味で)20歳前後の若者にも当てはまります。
高齢者に関しては、年金の支給開始年齢が引き上げられている昨今の状況を受けて、本来ならリタイアしたかったにもかかわらず、生活の原資に充てる年金が支給されなくなったため、定年延長や再雇用制度などを活用して、やむを得ず会社に残るなど、働き続けるケースが増えていると考えられます。
若者に関しては、女性とは逆に、進学率の上昇が時間の経過と共に雇用者数の減少要因としてはたらいていると考えられます。
こういった影響を除いて雇用環境の変化を測定するため、今回は総務省の「労働力調査」の10歳刻みのデータを用いて、測定対象を「(今も昔も外で働くのがふつうである)25-54歳の男性」に絞り込み、その内訳(「非正規雇用者を除く就業者(正規雇用者、役員、自営業者)」「非正規雇用者」「完全失業者」「非労働力人口」の4つ)の変化を測定しました。
なお、変化の測定は人数ベースではなく構成比ベースで行います。これは、25-54歳の男性人口は2002年以降一貫した減少傾向にあるため、人数ベースで変化を測定すると減少バイアスがかかり、測定方法として適切とはいえないためです。
そして、比較対象の時期は1年前の2013年7-9月期、アベノミクス開始直前である2年前の2012年7-9月期、いざなみ景気のピーク期で全体の完全失業率が直近とほぼ同水準の2007年7-9月期、全体の有効求人倍率が直近とほぼ同水準の1992年2月の4つとし、それぞれを直近2014年7-9月期と比較します。その結果は図表3のとおりです。
【図表3:25-54歳男性の就業状況の変化】
(2013年7-9月期との比較)
http://on.fb.me/1xLO3kC
(2012年7-9月期との比較)
http://on.fb.me/13YPRKA
(2007年7-9月期との比較)
http://on.fb.me/1B5Hffd
(1992年2月との比較)
http://on.fb.me/1tcxGMQ
まず2012年7-9月期、すなわちアベノミクス以前との比較ですが、野党が主張する「雇用者数全体は増えていても、増えているのは非正規雇用だけで、正規雇用は増えていない」というのはこのセグメントにも当てはまります。
これに対して安倍首相が「正規雇用も増えている」と主張する1年前、すなわち2013年7-9月期との比較ですが、図表3で明らかなように、「非正規雇用除く就業者」の構成比はほとんど上昇していません(小数点第3位まで表示すれば、かろうじて0.004%のプラスです)。ちなみに、この変化を「実態のトレンド」と考えて現時点の全労働力人口に当てはめると、3千人程度の正規雇用者数増加に相当します。
これは、安倍首相が提示した表面上の統計数字(10万人)とは相当な乖離があり、過去1年の正規雇用者数の増加も、むしろ「家計が苦しいためやむを得ず外で働いている」が主な要因であることを示唆しています。「(心身の障害などの事情で)もともと働くことができない人々」のみならず「(就職環境の悪化などの事情で)職探しをあきらめてしまった人々」も含まれる「非労働力人口」の構成比の上昇、あるいは先に述べた実質雇用者報酬の減少なども、こうした推測を裏付ける事実と言えるでしょう。
また、2007年7-9月期や1992年2月と比較すると、どちらも「非正規雇用除く就業者」の構成比が低下する一方で、「非正規雇用者」「完全失業者」「非労働力人口」の構成比が上昇しています。これは、現在の雇用環境が当時と比べて明らかに劣悪化しており、失業率や有効求人倍率だけで比較するのは片手落ちであることを示しています。
以上を踏まえると、雇用者数に関しても、与党の議論は総じて妥当なものとは言えないでしょう。
積極財政を柱とした雇用環境の改善を
上記で述べた雇用環境劣悪化のトレンドは、1998年以降のデフレ不況と共に顕在化しています。図表4は、同じ労働力調査のデータを、時系列でグラフ化したものです。
【図表4:25-54歳男性の就業状況の推移(1988年以降)】
http://on.fb.me/1B5ICuq
デフレ不況の真因が緊縮財政であることは、常日頃述べている通りです。金融緩和に偏ったアベノミクスの財政政策とは、あくまでも財政均衡主義を前提とした「機動的な財政政策」であって、増税などを伴わずに財政支出の拡大を続ける「積極財政」ではありません。こうした政策スタンスが変らない限り、現在の劣悪化した雇用環境を抜本的に改善することは困難であると考えられます。
したがって、今回の総選挙が過去最低の投票率を記録し、圧勝した自民党が支持された理由も「経済政策を評価したから」ではなく、「ほかの政党よりましだと思われたから」であった(下記参考記事参照)のも、ある意味当然の帰結でしょう。選挙前の世論調査で内閣不支持率が支持率を逆転し、8割以上の人が「景気が良くなった実感がない」と答えたこともまたしかりです(同)。
与野党問わず、積極財政を柱とした正しい経済政策を掲げる政党の登場が望まれるところです。
(参考記事)
「自民圧勝「他党よりまし」65%…読売世論調査」(YOMIURI ONLINE、2014年12月16日)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/TO000302/20141216-OYT1T50123.html
「内閣不支持が逆転、共同世論調査~比例自民28%、民主10%」(47News、2014年11月29日)
http://www.47news.jp/CN/201411/CN2014112901001545.html
↓今回のプレゼンテーション資料です。
雇用は本当に改善しているのか.pdf
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インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「雇用は本当に改善しているのか」というタイトルで、全体で約35分のプレゼンテーションです。
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アベノミクスの成果が論点としてクローズアップされた、先の衆議院議員選挙でも、雇用環境の改善の有無を巡り、与野党間で主張が対立していました。
その意味では遅ればせながらですが、雇用に関する複数の統計を検証することによって、現実にはいずれの主張が妥当であるかを明らかにしてみよう、というのが今回の趣旨です。
(追記:今回提示しているデータの出所ですが、動画上で「厚生労働省」となっているもののうち、有効求人倍率のグラフ以外については全て「総務省(労働力統計)」の誤りです。本記事やリンク先の資料についても、可能な限り追って訂正します。失礼いたしました。)
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雇用を巡って対立した与野党の見解
先の選挙では、雇用や賃金の好転をアピールする与党に対し、野党が別のデータを使って反論する、という図式でした。そこで見られた、お互いが自らに都合の良い数字だけを持ち出す実態については、以下の記事に要領よくまとめられています。
(参考記事)
「アベノミクス是非、「有利な数字」が前面に」(朝日新聞DIGITAL、2014年12月7日)
http://www.asahi.com/articles/ASGD666MVGD6ULFA00G.html
上記記事や、今回の総選挙に際して自民党から示された「重点政策2014」を参考にして与野党の論点を賃金・雇用者数それぞれについて整理すると、以下のようになります。
【賃金について】
(与党)
◆連合の調査によると、賃金は15年ぶり、ボーナスは24年ぶりの上昇率である。
◆(野党は1人当たり実質賃金が伸びていないことを批判するが、)雇用者数が増えた結果、雇用者全体の所得(総雇用者所得)は増えている。
(野党)
◆連合の調査対象は労働組合のある企業の一部であり、しかも非正規社員は含まれない(民主党)。
◆物価上昇率を差し引いた実質賃金指数は、2013年7月以来16カ月マイナスである(共産党)。
【雇用者数について】
(与党)
◆雇用者数全体は2012年7-9月期から2014年7-9月期にかけて100万人増えた。(野党は正規雇用の減少を指摘しているが、)正規雇用に限っても、1年前と比べれば10万人増えている。
◆2012年12月から2014年9月にかけて、女性の就業者数が約80万人増加している。
◆有効求人倍率は22年ぶりの高水準で、高校生の就職内定率は2012年9月から2014年9月にかけて約13%改善した。
(野党)
◆2012年7-9月期から2014年7-9月期にかけての雇用者数増加は非正規雇用123万人によるもので、正規雇用は逆に22万人減っている。増えた101万人のうち、54%を女性の非正規雇用が占める(民主党、共産党、生活の党)。
◆有効求人倍率の上昇は民主党政権時代からの伸びが今も続いているに過ぎない(民主党)。
上記の対立は、異なる統計を用いたり、同じ統計でも異なる部分を切り出したことによって生じたもので、いずれもウソではありません。例えば、長期的な有効求人倍率の推移は図表1の通りで、現時点では与党の主張通り、わずかではありますが2007年をピークとするいざなみ景気時の水準も超え、22年ぶりの高水準です。
【図表1:有効求人倍率(季節調整値)の長期推移(1963年~)】
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以下では、賃金・雇用者数の順に、与野党の議論の妥当性を検証してみたいと思います。
総雇用者所得も実質的には低下している
野党の実質賃金低下批判に対して安倍首相が持ち出した「総雇用者所得」とは、GDP統計上の「雇用者報酬」のことであると考えられます。これは、1人当たりや家計単位の給与所得ではなく、日本経済全体で雇用者(役員含む)に支払われた所得を意味します。
では、雇用者報酬は実際にどうなっているのでしょうか。図表2は、2004年以降の四半期雇用者報酬(季節調整された年換算値)の推移を、名目・実質双方について示しています。
【図表2:名目・実質雇用者報酬の推移(2004年以降、年換算した季節調整値、兆円)】
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確かに、名目雇用者報酬はアベノミクス以降増加トレンドを続けており、安倍首相が「増えている」と言ったのは、こちらのことと思われます。これに対して、実質雇用者報酬の方は2013年1-3月期にピークを打ち、以降は減少トレンドで推移しています。
しかしながら、野党は1人当たり実質賃金の低下を批判している訳ですから、総額ベースで反論する場合にも、「実質」雇用者報酬に基づいて行われるべきです。実際、1人当たり賃金にせよ総額としての雇用者報酬にせよ、名目ベースで上昇しさえすれば良いのであれば、不況とインフレが同時に起こるスタグフレーションでも良いことになってしまいます。したがって、賃金に関する与党の議論は明らかに不当です。
雇用者数も実態的にはほとんど改善していない
与党は全体の雇用者数、特に女性の雇用者数が増えたことを掲げてアベノミクスの成功をアピールしました。ところが、正規・非正規の問題は別として、これは以下の2つの理由から、議論の仕方として適切とは言えません。
まず女性の場合、本来家庭で家事・育児に専念したかったにもかかわらず、家計が苦しくなったことでやむを得ず外で働いている、というケースが少なからず考えられるからです。典型的なのが、主婦が家計を支えるためにパートタイマーになるケースです。こうしたケースが増えるのはむしろ経済環境の悪化を示すともいえ、これをもって「雇用が改善した」というのは適切ではありません。
また女性の場合、社会進出が進むことで、時間の経過と共に自然に雇用者数が増加する影響も無視できません。そのことによって、雇用環境が全く改善していない、場合によっては悪化しているにもかかわらず、雇用者数が増加するケースもあり得るわけです。
さらに、上記のうち1番目の理由については高齢者、2番目の理由については(逆の意味で)20歳前後の若者にも当てはまります。
高齢者に関しては、年金の支給開始年齢が引き上げられている昨今の状況を受けて、本来ならリタイアしたかったにもかかわらず、生活の原資に充てる年金が支給されなくなったため、定年延長や再雇用制度などを活用して、やむを得ず会社に残るなど、働き続けるケースが増えていると考えられます。
若者に関しては、女性とは逆に、進学率の上昇が時間の経過と共に雇用者数の減少要因としてはたらいていると考えられます。
こういった影響を除いて雇用環境の変化を測定するため、今回は総務省の「労働力調査」の10歳刻みのデータを用いて、測定対象を「(今も昔も外で働くのがふつうである)25-54歳の男性」に絞り込み、その内訳(「非正規雇用者を除く就業者(正規雇用者、役員、自営業者)」「非正規雇用者」「完全失業者」「非労働力人口」の4つ)の変化を測定しました。
なお、変化の測定は人数ベースではなく構成比ベースで行います。これは、25-54歳の男性人口は2002年以降一貫した減少傾向にあるため、人数ベースで変化を測定すると減少バイアスがかかり、測定方法として適切とはいえないためです。
そして、比較対象の時期は1年前の2013年7-9月期、アベノミクス開始直前である2年前の2012年7-9月期、いざなみ景気のピーク期で全体の完全失業率が直近とほぼ同水準の2007年7-9月期、全体の有効求人倍率が直近とほぼ同水準の1992年2月の4つとし、それぞれを直近2014年7-9月期と比較します。その結果は図表3のとおりです。
【図表3:25-54歳男性の就業状況の変化】
(2013年7-9月期との比較)
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(2012年7-9月期との比較)
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(2007年7-9月期との比較)
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(1992年2月との比較)
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まず2012年7-9月期、すなわちアベノミクス以前との比較ですが、野党が主張する「雇用者数全体は増えていても、増えているのは非正規雇用だけで、正規雇用は増えていない」というのはこのセグメントにも当てはまります。
これに対して安倍首相が「正規雇用も増えている」と主張する1年前、すなわち2013年7-9月期との比較ですが、図表3で明らかなように、「非正規雇用除く就業者」の構成比はほとんど上昇していません(小数点第3位まで表示すれば、かろうじて0.004%のプラスです)。ちなみに、この変化を「実態のトレンド」と考えて現時点の全労働力人口に当てはめると、3千人程度の正規雇用者数増加に相当します。
これは、安倍首相が提示した表面上の統計数字(10万人)とは相当な乖離があり、過去1年の正規雇用者数の増加も、むしろ「家計が苦しいためやむを得ず外で働いている」が主な要因であることを示唆しています。「(心身の障害などの事情で)もともと働くことができない人々」のみならず「(就職環境の悪化などの事情で)職探しをあきらめてしまった人々」も含まれる「非労働力人口」の構成比の上昇、あるいは先に述べた実質雇用者報酬の減少なども、こうした推測を裏付ける事実と言えるでしょう。
また、2007年7-9月期や1992年2月と比較すると、どちらも「非正規雇用除く就業者」の構成比が低下する一方で、「非正規雇用者」「完全失業者」「非労働力人口」の構成比が上昇しています。これは、現在の雇用環境が当時と比べて明らかに劣悪化しており、失業率や有効求人倍率だけで比較するのは片手落ちであることを示しています。
以上を踏まえると、雇用者数に関しても、与党の議論は総じて妥当なものとは言えないでしょう。
積極財政を柱とした雇用環境の改善を
上記で述べた雇用環境劣悪化のトレンドは、1998年以降のデフレ不況と共に顕在化しています。図表4は、同じ労働力調査のデータを、時系列でグラフ化したものです。
【図表4:25-54歳男性の就業状況の推移(1988年以降)】
http://on.fb.me/1B5ICuq
デフレ不況の真因が緊縮財政であることは、常日頃述べている通りです。金融緩和に偏ったアベノミクスの財政政策とは、あくまでも財政均衡主義を前提とした「機動的な財政政策」であって、増税などを伴わずに財政支出の拡大を続ける「積極財政」ではありません。こうした政策スタンスが変らない限り、現在の劣悪化した雇用環境を抜本的に改善することは困難であると考えられます。
したがって、今回の総選挙が過去最低の投票率を記録し、圧勝した自民党が支持された理由も「経済政策を評価したから」ではなく、「ほかの政党よりましだと思われたから」であった(下記参考記事参照)のも、ある意味当然の帰結でしょう。選挙前の世論調査で内閣不支持率が支持率を逆転し、8割以上の人が「景気が良くなった実感がない」と答えたこともまたしかりです(同)。
与野党問わず、積極財政を柱とした正しい経済政策を掲げる政党の登場が望まれるところです。
(参考記事)
「自民圧勝「他党よりまし」65%…読売世論調査」(YOMIURI ONLINE、2014年12月16日)
http://www.yomiuri.co.jp/feature/TO000302/20141216-OYT1T50123.html
「内閣不支持が逆転、共同世論調査~比例自民28%、民主10%」(47News、2014年11月29日)
http://www.47news.jp/CN/201411/CN2014112901001545.html
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