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奇妙な世界に(パート2)

メルマガ「三橋貴明の『新』日本経済新聞」の記事を執筆しました。

今回は「奇妙な世界に(パート2)」というタイトルで、前回に引き続き「歪んだ世界観が政策を誤らせている」という話題です。
具体的には、第二次世界大戦前夜のドイツや日本の積極財政に対して、当時の軍国主義政権と結びつけることでネガティブな評価を下すことに疑問を呈する一方で、むしろ、中東情勢を巡って昨年来世界的に見られる軍産複合体活発化の動きこそ警戒すべき、というのが真の歴史の教訓ではないか、と問題提起しています。

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http://www.mag2.com/m/0001007984.html

以下では今回の記事を転載しています。




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【島倉原】奇妙な世界に(パート2)
From 島倉原@評論家

おはようございます。
今回も「歪んだ世界観が政策を誤らせている」という話題なので、「奇妙な世界に(パートⅡ)」。
はたして前回との脈絡は、あるや、なしや。
http://amzn.to/1DcZAIE
http://www.lyricsfreak.com/b/bob+dylan/world+gone+wrong_20021652.html

先月31日、1984年から1994年にかけてドイツの大統領を務めたワイツゼッカー氏が亡くなられました。
それを報道したのがこちらの記事。

(参考記事)ワイツゼッカー元独大統領が死去 94歳(日経電子版、2015/2/1)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82662170R00C15A2FF8000/

実は、日経の紙面版には、電子版にはない「評伝」が添えられていて、以下のように述べられています。

「ワイツゼッカー氏の名前を戦後史に刻んだのは、ドイツの無条件降伏から40周年を迎えた1985年5月8日の連邦議会(下院)での演説だった。
(中略)
 演説のメッセージは2つあった。ひとつはナチスの残虐性を戦後生まれの世代に伝えたこと。これにはライバル政党の社会民主党〈SPD〉からも賛辞が寄せられた。
 時代とともに戦争責任を忘れるのではなく、反省することに力点を置くべきだ――。その考えは、その後のドイツ政府の指針となった。
 敗戦を「ナチスの暴力からの解放」と位置づけたことが2つ目の意味合いだ。これにより1933年のナチス政権誕生から敗戦までの政策は、誤りだったとの認識がドイツ社会に定着した。
 ナチス政権は景気対策を乱発して、つかの間の高度成長を演出。国民の圧倒的な支持のもとに戦争に突入した。安易な財政拡大を「大衆迎合的な政策」と見なす現代ドイツの風潮は、この反省から来ている。(以下略)」

え???

メッセージの1つ目はともかくとして、2つ目に関する記述はどうなんでしょう?
上記のナチスの政策は、俗に「軍事ケインズ主義」とも呼ばれ、軍事目的の財政支出を拡大することによって、経済成長がもたらされる、というものです(当時行われた公共事業の代表例が、今も高速道路として使われているアウトバーンの建設です)。
その結果、軍事関連でビジネスチャンスが拡大して恩恵を被る企業や労働者が増えれば、そこには「軍産複合体」と呼ばれる新たな利権構造が生まれる。
そこで生じた経済的恩恵が政治家や役人にも還元されれば、利権構造はさらに強化される。
そうなると、対外拡張的な政策が支持され、あるいは否定しがたい空気が醸成され、戦争に歯止めがきかなくなる。
それは確かにその通りでしょう。

ですが、そもそも、ナチスが景気対策を「乱発」することで国民の支持を得ることができたのはなぜでしょう?
当時のドイツは、第1次世界大戦の敗戦によって生じた巨額の国家賠償負担からハイパーインフレを経て緊縮財政が強いられ、さらには世界恐慌の影響もあって経済が低迷していた上に、ドイツを警戒するイギリスやフランスの意向によって軍備を制限され、占領的な行為も行われた。
そうした状況にドイツ国民が嫌気を差していたからこそ、ナチスを歓迎するムードが生まれ、対外侵略に歯止めがきかなくなったのではないでしょうか。

だとすれば、

「財政拡大=大衆迎合」ととらえて緊縮財政を志向することこそ、紛争の火種となりかねない、安直な発想である。

これこそが歴史の教訓ではないでしょうか?

行き着くまでの流れが異なるとはいえ、同様な構図は、同時期の日本にもあてはまります。
いわゆる高橋財政の前の日本経済は、緊縮的な経済政策がとられて極度の不振にあえいでいたことは、本メルマガ読者の多くの方は大概ご存じかと思います。
ところが、積極財政への転換をもたらしたのは高橋財政ではなく、その数か月前に始まった満州事変というのが歴史上の事実。
満州事変には、現地日本人や日本企業の安全を確保するという側面があったとしても、「国内経済不振のはけ口として、対外拡張したい」という、より大きな経済上の力学が働いたことは否めません。
高橋是清は、軍事支出のある程度の拡大も許容しながら日本経済の再建を図っていたが、経済再建に一定の成果を上げたところで軍事支出の抑制に動いた結果、二・二六事件で暗殺されてしまいました。
「弐キ参スケ」という言葉に代表されるように、満州を中心とする軍産複合体が、当時の日本でも既にできあがっていたのです。
http://bit.ly/1A4s22j
そうした事実関係にもかかわらず、二・二六事件以後の際限ない軍事支出の手段として流用された「日銀の国債引受け」を導入したことなどによって、高橋財政にはややもすると、経済政策としてもネガティブなイメージが与えられています。
こうした誤解も、同時代のドイツに対するそれと何だか良く似ています。

これに対して、同時代において、経済を背景とするこうした政治力学を正しく理解していたのが、かのジョン・メイナード・ケインズです。
『一般理論』の第23章(セクション2)や第24章(セクション4)には、積極財政が国内の雇用を改善することで国際的な衝突が緩和され、平和に貢献し得るという考察が記されています。
言うまでもなく、日本やドイツにおける戦前に対する誤った評価とは、正反対の世界観です。
http://genpaku.org/generaltheory/general23.html
http://genpaku.org/generaltheory/general24.html

ただし、既にお分かりかと思いますが、とにかく積極財政をすれば良い、というわけではありません。
他分野が緊縮モードのまま軍事支出だけ拡大するのは、軍産複合体に依存する空気を強め、かえって危険である、というのもまた、上記歴史の教訓です。
そして、軍事ケインズ主義とはケインズ経済学の曲解に他ならない、と批判したのが、ケインズの愛弟子の一人であるジョーン・ロビンソン。
「経済学を学ぶ目的は、経済学者にだまされないためである」の発言でも有名です。

さて、現在の状況はどうでしょうか。
ドイツは歴史の教訓に懲りることなく、今またギリシャに緊縮財政を強いることによって、ユーロ圏の混乱を招いています(あくまで構図としての比較であって、決してシリザをナチスになぞらえているわけではありません。念のため)。
そうかと思えば、「軍事支出は別腹」といった動きが既に始まっています。
これは、ISIS(いわゆる「イスラム国」)攻撃のため、昨年後半から軍事支出が拡大に転じているアメリカの動きと通じるものです。

(参考記事)独、イラクに武器供与 戦後の路線と決別(フィナンシャル・タイムズ、2014年8月21日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK21H13_R20C14A8000000/

日本にしても、昨年以降緊縮財政の色が強まる中で、防衛費だけは拡大傾向を続けていることは、決して望ましい傾向とは言えません。
ISIS問題にしても、イラク戦争以降混乱が続く中東情勢の経緯を踏まえると、果たして現在の外交政策が適切と言えるのか。
いずれにせよ、歴史の教訓を踏まえれば、憲法9条を背景とした防衛体制の不備が重要な課題となっている日本だからこそ、軍事関連支出の拡大だけが先行する「手順前後」は厳に慎むべきでしょう。
今こそ、非軍事分野の財政支出拡大に目を向けた、バランスのとれた政策が必要な局面ではないでしょうか。

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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