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日米の雇用環境に見る、アベノミクスの誤り

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インターネット動画「チャンネルAjer」の収録を行いました。
今回は「日米の雇用環境に見る、アベノミクスの誤り」というタイトルで、全体で約45分のプレゼンテーションです。

(動画前半)
日米の雇用環境に見る、アベノミクスの誤り①
(動画後半)
日米の雇用環境に見る、アベノミクスの誤り②

昨年2014年12月に行った「雇用は本当に改善しているのか」というプレゼンテーションでは、長期デフレ不況をもたらした緊縮財政が、非正規雇用比率の上昇を含めた雇用環境の長期的な悪化をもたらしているのではないか、と指摘しました。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-76.html

今回は、金融市場でも注目度が高い経済指標の1つである米国の雇用統計を題材にして、直近の米国の景気動向を確認すると共に、日本における類似した統計である労働力調査と長期的視点から比較することによって、緊縮財政のみならず、派遣労働の拡大や正社員解雇規制の緩和といった新自由主義的な構造改革を進めようとしている安倍政権の方向性に対して、疑問を呈しています。

↓今回のプレゼン資料は下記URLから閲覧、ダウンロードが可能です(フレーム下の「Share」を押すと、ツイッター、フェイスブック、グーグルプラスで共有できます。是非ご活用ください)。
http://twitdoc.com/5DJG
(スマホなどで資料が上手くめくれない場合は、左下の「Download」を押すと画面が切り替わり、上手くめくれるようです)

以下はプレゼンテーションの概要です。

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雇用統計に表れている米国景気の力強さ

米国の労働省が月に1回発表する雇用統計は、米国景気の動向を示す重要指標として、金融市場でも注目度の高い経済指標です。
直近2月6日に発表された1月雇用統計は、市場予想を上回る雇用の伸びを示したことで、遠くない将来におけるFRBの利上げを連想させ、長期金利の上昇などをもたらしました。

(参考記事)米雇用統計:識者はこうみる(ロイター、2015年2月6日)
http://jp.reuters.com/article/jp_fed/idJPKBN0LA1MP20150206

実際の雇用統計の長期的な推移は下記図表1の通りです。「雇用は本当に改善しているのか」の時と同様、雇用環境の長期的な変化の実態をとらえるため、「25~54歳の男性」のデータを加工の対象にしています。

【図表1:米国の25~54歳男性の就業状況】
http://on.fb.me/1EPBJiO

米国の場合、雇用者の内訳を正規雇用者・非正規雇用者で分類している日本とは異なり、フルタイム雇用者・パートタイム雇用者で分類しています。
したがって、両者を単純比較することはできませんが、ここでは便宜上、フルタイム雇用者と正規雇用者、パートタイム雇用者と非正規雇用者をそれぞれ対応させて、両者を比較してみたいと思います。

図表1でも明らかなように、雇用環境の改善に連動してフルタイム雇用者の比率が上昇する、言い換えれば、景気変動に対応した雇用調整が主としてフルタイム雇用を対象として行われるのが、米国の特徴です。
これは、リーマン・ショック以降の雇用回復が非正規雇用の増加によるものであり、正規雇用はむしろ減少傾向が続いている日本とは対照的な状況です(図表2)。
相対的に賃金の高いであろうフルタイム雇用者が雇用回復の中心となっていることが、世界的に見ても米国経済の強さが目立っている一因と言えそうです。

【図表2:日本の25~54歳男性の就業状況】
http://on.fb.me/19wiql0


長期的な雇用停滞をもたらしたグローバル化

ところが、当のFRB自身は、必ずしも明確な利上げ姿勢を打ち出しているわけではありません。
この背景には、労働参加率(人口に占める就業者・失業者合計の比率)や賃金の伸び率が、過去と比べて低水準にとどまっていることが影響していると言われています。

(参考記事)米雇用統計の強さ、FRB内で議論呼ぶか―利上げめぐり(ウォール・ストリート・ジャーナル、2014年10月4日)
http://jp.wsj.com/articles/SB11102303130114484576704580193501813385116

上記記事では、男女を合計した16歳以上の労働参加率(「非労働力人口」以外の比率)の低さに言及されていますが、25~54歳の男性を対象とした図表1からも全く同じことが読み取れます。
そして、こうした労働参加率、あるいは就業率の低下は、1970年代以降から生じている長期的なトレンドです。日本についても、1990年前後の回復をバブル経済による一時的なものと考えれば、同様な傾向が読み取れます。

1970年代といえば、国際資本移動の自由化を背景として、グローバリゼーションが本格化した時期と重なります。
もちろん、日米以外の各国の状況を確認したわけではなく、断定はできませんが、グローバリゼーションの進展、あるいはそれに伴い新自由主義的な資本の論理の影響力が増したことが、こうした雇用環境の長期的な悪化をもたらしていると考えるのが、筋が通っていると思われます。
そうした見地からは、米国におけるフルタイム雇用比率、あるいは日本における正規雇用比率の低下にも、グローバリゼーションが何らかの影響を与えていると考えられます。


日本の雇用環境を破壊している派遣労働促進と緊縮財政

以上を踏まえて、長期的な視点から改めて日米の雇用環境を比較してみると、以下の2つの事実が確認できます。

(その1)「労働参加率や就業率の長期的な低下度合いは、明らかに米国の方が大きい。
(その2)これに対して、フルタイム雇用比率ないしは正規雇用比率の長期的な低下度合いは、日本の方が大きい。特に1990年代後半以降、その傾向が顕著である。


1点目の事実は、米国の方が、雇用の主力であるフルタイム雇用が不景気の際の主な雇用調整弁となっている分、グローバリゼーションによって影響力を増した資本の論理の影響を受けやすいことを反映したものと考えられます。裏を返せば、戦後日本の雇用制度の特徴とされる終身雇用制度が、グローバリゼーションによる雇用環境の悪化に対して、一定の歯止めとして機能してきたことを示していると言えるでしょう。
なお、この事実は、最近話題となっているトマ・ピケティ著『21世紀の資本』で示されている、「アメリカの格差拡大傾向は1970年代以降顕著になっている」という事実とも符合します。

2点目の事実、さらにいえば、やはり1990年代後半以降目立つようになった日本の就業率の低下をもたらしたのは、派遣労働促進的な制度改正(いわゆる「構造改革」)と緊縮財政(の結果としての名目経済成長のストップ)であると考えられます。

派遣労働の促進が正規雇用比率の押し下げ要因となるのは、説明するまでもないでしょう。
1985年に制定された労働者派遣法の歴史をたどると、1999年にそれまで26業種に限定されていた派遣対象業務の範囲が原則自由化され、さらに2003年には、例外的に禁止されていた製造業や医療業務への派遣が解禁されたことに加え、派遣期間の制限が緩和、業種によっては廃止されました。
このような派遣労働制度の規制緩和は、派遣労働者を対象とした雇用削減が、「業績悪化時の機動的なリストラ手段」として、企業にとって、より有用になることを意味します。

他方で、正社員については引き続き終身雇用制度が維持されているわけですから、ゼロ成長下で長期的な業績拡大が期待できない中、企業としては、好景気時の労働力確保には派遣労働者をはじめとした非正規雇用を活用しようという動機が強まります。この15年余りの正規雇用比率の大幅な低下は、その結果にほかなりません(なお、「2008年以降、派遣労働の比率は低下している」といった議論がなされることもありますが、この低下はリーマン・ショック以降の経済の停滞による短中期的なものであり、長期的な派遣労働比率の上昇傾向は変わっていないと考えるべきでしょう)。
こうした正規雇用比率の低下は、「終身雇用を前提とした正規雇用=超長期の人的資本への投資」と考えれば、ゼロ成長による利益成長期待の喪失と共に設備投資意欲が急激に低下し、企業部門全体で貯蓄超過に陥っている事実と裏腹であることがわかります(図表3)。また、「正規雇用比率の低下=格差拡大の助長」と考えれば、『21世紀の資本』で示されている「日本の格差拡大傾向は1990年代後半以降顕著になっている」という事実とも符合します。

【図表3:国内経済主体別貯蓄=投資バランスの推移】
http://on.fb.me/1wUHVnH


実施されるべきは構造改革ではなく積極財政

こうした状況に対して、

「非正規雇用比率の上昇や労働者間の格差拡大の要因は、派遣労働の促進というよりは、正社員の終身雇用に代表される日本の硬直的な雇用慣行である。したがって、正社員も解雇しやすくすることによって雇用の流動性を高めることがその解決策である(そうすれば、むしろ正社員の雇用も増える)。」

とするのが、市場メカニズムを拡大するほど経済が活性化・効率化するという新自由主義的な発想に基づく、いわゆる構造改革論です。
産業競争力会議の民間議員である竹中平蔵氏は、その典型的な論者です。

(参考記事)竹中平蔵氏の「正社員をなくせばいい」発言に賛否(2015年1月4日、ハフィントン・ポスト)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/01/04/heizo-takenaka_n_6412240.html

竹中氏の発言力が強く、新自由主義的な構造改革パッケージを「成長戦略」と称している安倍政権の経済政策、すなわちアベノミクスも、いうまでもなくこうした発想に基づいています。
そのことを示しているのが、いわゆる成長戦略についてまとめた文書として政府から出されている『日本再興戦略』です。2013年6月14日に出された当初版では「雇用政策の基本を行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型へと大胆に転換する」(5ページ)との方針が打ち出され、その後2014年6月24日に出された改訂版では、グローバル化に対応した「透明で客観的な労働紛争解決システムの構築」(38ページ)のため、いわゆる金銭解雇制度の具体化に向けた検討を進めるとされています。
また、最終的には見送られたものの、解雇要件を事前に明確化すれば解雇を自由とする措置を、国家戦略特区に導入することが検討されていたようです。
他方で、先の解散総選挙の影響で一旦廃案になったものの、「派遣対象業務に対する現行の期間制限がわかりにくい」と称して、一定の要件を満たせば業種を問わず、派遣期間の無制限化が事実上実現し、派遣労働の利用可能範囲がより一層高まるはずだった労働者派遣法改正案も策定されています。
こうした一連の政策は、雇用制度において市場メカニズムを拡大するものとして、新自由主義的な発想の下では肯定的に評価されるものばかりです。

(参考)
日本再興戦略 -JAPAN is BACK-(首相官邸ホームページ、2013年6月14日)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/saikou_jpn.pdf
「日本再興戦略」改訂2014 -未来への挑戦-(首相官邸ホームページ、2014年6月24日)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/honbunJP.pdf
安倍政権が解雇規制緩和を断念。これでアベノミクスは名実ともにケインズ政策となった(ニュースの教科書、2013年10月22日)
http://news.kyokasho.biz/archives/17796
労働者派遣法の見直しについて(厚生労働省ホームページ)
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000040563.html
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/hakenhou_gaiyou.pdf

しかしながら、正社員の解雇をしやすくする、すなわち米国型の社会に近づけることは、正規・非正規の格差以前に、全体としての就業環境自体を悪化させ、社会全体の格差をより一層拡大することは、図表1で示した米国の現実が証明しています。
これは、いわゆる「底辺への競争」に他ならず、国民全体にとって、決して望ましい結果ではありません。

むしろ問題なのは、「終身雇用は割に合わない」と思わせるほど企業の投資意欲を失わせたゼロ成長であり、その原因である緊縮財政を断ち切ることこそ、正しい経済政策です。
積極財政に転じて持続的な名目経済成長を実現すれば、終身雇用も企業にとって割に合うものになるため、非正規雇用比率上昇による格差の拡大にも一定の歯止めがかかります。
そうした環境では、全体としての就業環境の悪化にも歯止めをかけるものとして、終身雇用の方がむしろ望ましい制度であることが明確になるでしょう。

すなわち、緊縮財政のもとで非正規雇用の拡大を進め、あまつさえ、減少傾向にある労働力人口を外国人労働者の受け入れ拡大等によって補おうとしているアベノミクスは、そもそも問題認識が誤っており、必然的な結果として、あるべき方向性とは逆行する経済政策となっています(本ブログでも何度か述べていますが、「第二の矢=機動的な財政政策」とは、消費税増税を含む均衡財政主義を前提とした政策で、積極財政とは全く異質のものです。上記で紹介した「ニュースの教科書」の記事執筆者も含め、誤解があるようですが)。
適切な経済政策によって就業率の低下を回復できるとすれば、外国人労働者の受け入れなどを行わなくとも、25~54歳の男性だけで、名目GDPがピークを付けた1997年を基準とすれば約74万人、統計上就業率が最も高かった1971年を基準とすれば約115万人も、就業者数を増加させることができるのです。

そもそも、戦後日本の際立った経済成長の背景にあった終身雇用制度を、硬直的で時代遅れなものと捉えること自体、疑問があります。
実際、終身雇用には「労働者が(自らの担当職務の喪失につながりかねない)業務効率化・生産性向上に安心して取り組む環境を用意する(すなわち、経済全体の活性化・効率化にも貢献する)」という明らかなメリットがあります。
そして、下記のブログ記事によれば、そうしたメリットを持つ終身雇用制度こそ日本企業の競争力の要因である、という認識が、国際的に著名な経営学者にも持たれていたようです(私自身は原典を直接確認したわけではありませんが、そうした文章が、日本が緊縮財政に移行した前年の1996年に書かれていた、という事実はある意味非常に象徴的です)。
すなわち、改革されるべきは終身雇用制度ではなく、終身雇用制度を時代遅れに見せている緊縮財政、あるいはその背後にある均衡財政主義という政策レジームこそが、真に改革されるべき対象なのです。

(参考記事)
『「会社は株主のもの」は誤り』は誤りだけど・・・(水口和彦氏ブログ)
http://jikan.livedoor.biz/archives/51871402.html

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島倉原(しまくら はじめ)

Author:島倉原(しまくら はじめ)
 経済評論家。株式会社クレディセゾン主任研究員。経済理論学会および景気循環学会会員。
 メルマガ『島倉原の経済分析室』(毎週日曜日発行)や、メルマガ『三橋貴明の「新」日本経済新聞』(隔週木曜日寄稿)の執筆を行っています。

著書『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』(新評論、2015年)

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